03-45-0125
Side:アッシュ
「これを加工できる職人を紹介するのはいいけど、いったい何を作らせる気だい?」
「そこまで大きい甲殻ではないので、ナイフか短剣か、もしくは両方が欲しいのですが……」
「ふむ。
………まだ持ってるだろうし、おそらく残りの甲殻も渡せば加工してくれるんじゃないかね?
あいつは珍しい物に目がないから、それで手を打つだろう」
「その言い方で分かったわ、【変人】に渡すんじゃな?
確かにアレなら完璧に仕上げてくれるじゃろうが、予約待ちになっておるのではないか?」
「その甲殻を渡せばすぐに取り掛かってくれるだろうし、一日ぐらいで作業も終わるだろう。
あいつは【変人】と言われるけど、代わりに仕事は完璧で早い。
予約待ちになってるのは、面倒臭い見栄だけの仕事だからさ。
あいつは見栄とかだけの物を作るのは大嫌いだからね」
「そうであったのか。通りで1年待ちだの5年待ちだの言われるはずじゃ。
その割には作ってもらった者がおるし「変だな?」と思っておったのだ。
実用性の欠片も無い物を作りたくないから、それらは5年待ちとかになっとるのか」
「そこは知られてるし、それでも貴族は待ちますからね。
一部の武闘派貴族は彼の打った武器を持ってますけど」
「あいつらは派手な装飾とか邪魔だって言う奴らだからね。
切れ味と耐久性があればどうでもいいって連中なら、【変人】は喜んで打つよ。
あいつは誰かに使われる武器を打つヤツであって、鑑賞する美術品を打つヤツじゃない。
とはいえ一流は全てに通ずるからねえ」
「あたしの槍も、【変人】ことルングルド・バッサムが打った物だよ。
かなりの物だけど、見た目はとてもシンプルでね。それ故に使い勝手がいいのさ。
ただし今まで散々使い込んできたのもあるし、そろそろお金を貯めて新しいのを注文しようかな?」
「総鋼鉄製の槍と聞いたが、それ以上の金属を使わないのか?
もちろん値段は跳ね上がるだろうが」
「そこは悩みどころさ。……っと、今は報告が先じゃないかい?」
そういえば報告中なのを忘れていたな。
とはいえ【変人】という方を紹介してもらえるようだし、それは良かった。
「報告に戻ります。
その甲殻の持ち主であるロックセンチピードの統率者を倒した後、先程ロックセンチピードが大量に居た場所の先へと進みました。
とはいえ距離はそこまでではありません。既に見えていましたので」
「見えていた?」
「ロックセンチピードの群れを見た時に、奥にチラリと見えていたのです。
私はそれをストーンゴーレムだと思っていたのですが……」
「アッシュは知らなんだが、一番奥に居たのはガーゴイルであった。
それもステージ3に入ったガーゴイルじゃ」
「ステージ3のガーゴイル………本っ当に鉄級昇格試験でさせる事じゃないね。
事前情報があまり無かったとはいえ、どう考えても銀級を複数投入しなきゃいけない案件じゃないか。
出て来る情報がとんでもない」
「それを3名で解決したというのですから………銀級でも名が広まるでしょう。
いえ、銅級だと逆に嘘だと思われるかもしれませんね。面倒な事に」
「まあ、銅級のヤツが出来る事じゃないからね。
もし公表したらロッドンの方に名誉が全部行くよ」
「勘弁してくれ。統率者を倒したのは全部アッシュじゃぞ。
にもかかわらず名が売れるのがワシとか。
恥ずかしいのと情けないので耐えられんであろうよ」
私としては気にしないが、ロッドン殿が耐えられないなら公表はしない方がいいな。
鉱山の4番坑道が使えるようになった。
それでいい。私も面倒なのは嫌だしな。
「そしてガーゴイルは苦労しましたが、なんとか倒せました。
しかし最後にガーゴイルが決死の攻撃で頭から突っ込んできたんです。
その時にブチ当たった壁が崩れ、更に奥が見つかりました」
「まだあんのかい……」
「その壁は【土魔法】で作られたような感じであった。
どうにも均一というか、綺麗に作られておったからの。
なので変だと思ったのだが……」
「隠されてた場所には、驚く事に神殿があったよ。
それも邪神を祀る神殿がね。
邪獄樹で作られた神様の像と、邪獄樹で作られたタワーシールドが置いてあった」
「邪獄樹という事は、ほぼ間違いなく邪神を祀る神殿でしょう。
現存しているという事は、古くからある神殿なのでしょうね。
しかも鉱山の中にあるとは……」
「かつては鉱山じゃなかったから、隠すように建てたか。
それとも山に作る事によって神様を讃えたかのどっちかだ。
実際に古い時代に作られたっていう、山の中の神殿ってのはあるからね。
もちろん洞窟内に作られてるってヤツが」
なるほど。元々そういう様式の神殿というのはあったのか。
となると隠れるようにして信仰されていた訳ではないのだな。
「アッシュが神様の像と盾に触れたら、それだけで邪気は無くなったよ。
流石だと思ったけど、その後に眩しい光がいきなり出てさ。
そして治まったら、アッシュが持ってる異空鞄があったんだ」
「ワシらはそれを神様からの下賜品だと理解した。
洞窟の中で眩しい光、そのうえ出てきたのは濃い灰色の異空鞄じゃ。
間違いなくアッシュしか使えん物となれば……」
「邪神が居ない事を考えるに、浄化の女神からの品だろうね。
それも御丁寧にアッシュしか使えない灰色の異空鞄となれば猶更だ」
「あたし達も同じ結論を出したよ。
それだけじゃなく、アッシュが持ってる異空鞄は他の異空鞄が入れられるという特別な物だったんだ。
王様から下賜された異空鞄が入ってるからね」
その言葉で私が異空鞄から下賜された異空鞄を出すと、マーヤやラブ、それにマスターとサブマスターが唖然とした。
やはりそれ程に驚く事なんだろう。私にはイマイチ分からないが。
「アッシュは分からないんでしょうけど、それとんでもない事よ。
なんたって容量に限度があるけれど、異空鞄の中に異空鞄が入れられるなら兵站は鞄1個で済む事になるでしょ。
それなら戦争の形が変わるもの」
「武具も何もかもを鞄1個で済ませられるという事です。
そうなれば軍の移動速度は、今の5倍や10倍になるかもしれません。
なんたって重い鎧を着ている兵士や、大量の食糧を運ぶ輜重の所為で遅いんですから。
それが鞄1個で済むとなれば……」
「とんでもない事になるのう。
代わりにアッシュしか使えんし、アッシュにそんな事をさせようものなら、神々からどんな神罰が下るか分からんがな」
「しかも本人だけじゃないかもしれないからね。
場合によったら一族全員が神罰を受けるかもしれない。
流石にそんな事を言い出す阿呆は…………居ないと断言出来ないのがアレだけど、たぶん居ないだろ」
「とりあえず報告はコレで終わりです。
後は向こうの支部長が碌に話を聞かない者だったというぐらいですね。
報告も聞かない事をジャネスが言うと、「どれだけ活躍したか聞かせたいのか? 随分大きな子供だ」とバカにしてきたぐらいですし」
「話にならないね。支部長は一番上なんだから、報告を聞くのは仕事だろうに。
自分は碌に仕事も出来ませんと言ってるのと同じじゃないか。
本当に唯のマヌケ野郎だったみたいだ」
「それで報告など全て蹴飛ばして帰って来たんじゃが、まさか宿を襲わせておったとは思わなんだわ。
そしてアッシュが何故か寝込みを襲ってくる者だけ攻撃する寝ぞうを持つとはな……」
「たまーに居るけどね。何故か寝ているところに近づくと、寝ながら襲ってくるヤツは。
とにかく報告は分かった。異空鞄を陛下に返上する為の準備もあるし、次の場所に行くまでは王都でゆっくりしてな」
どうやら多少の期間はゆっくりと出来そうだ。
今の内に王都でしておいた方がいい事はしておこう。
地方に行くと買えない物もあるだろうしな。
石鹸なども多めに買っておくか。
次話から4章です




