03-42-0122
Side:アッシュ
ロッドン殿とジャネスと共に帰りの移動馬車に乗り、王都へとやっと戻って来た。
あの後で、熊人族の支部長が私達の泊まっている宿に押しかけて来るなどという事もあったが、私達は何一つとして約束などしていない。
当たり前だが、今回の事は王都からの命令に近いものだ。
当然私達には全てを報告する義務もあるし、私はそもそも巡回狩人だ。
当地の支部長の事を報告したとて何ら問題は無い。
むしろ報告しなかったら怒られるくらいなので、諦めろ。
そう言っておいた。
あの支部長はその後も喚き散らしていたが、力尽くでは来なかった。
おそらく負けるのが分かっているからだろうが、その日の夜に不審者が3名ほど私の寝所に来た。
鉱山街とは面白いところだなと思いつつ起きた私は、腕や足を折られて呻いている賊を縛って移動。
ハンター協会の中へと入り、支部長室の中に3名を転がしておいた。
鍵は掛かっていたが、あの程度の簡単な鍵なら私は開けられる。
理由は奴隷仲間に鍵開けの上手いヤツが居たからだ。
私は暇潰しとして鍵開けの技術を習っていた時期があった。
古い鍵とか、壊れたドアの鍵などを練習台にして色々とな。
まさかあの時の暇つぶしが役に立つとは思わなかったが、世の中などそんなものかとも思う。
ちなみに鉱山街の協会支部で使われていたのは、道具を使わなくても開けられる魔力鍵だ。
魔力を流すと鍵が開くのだが、結構特殊な魔力を流さないと開かないという物で、私はその特殊な魔力というものを知っている。
ようするに魔力の強弱の事であり、最初に強く、その後に弱く流さないと開かないのだ。
もちろん鍵の中には先に弱い方が来る物もあるし、普通、弱めという順番の物もある。
とはいえ、それさえ知っており合わせる技術があれば、鍵は簡単に開けられるのだ。
「そんな事を報告の場で言われても困るんだけどね?
あそこのバカが碌でもなかったっていうのは分かったけどだ、鍵を開けて侵入するのは犯罪だよ。
ま、今回のは刺客まで送ったバカが悪い。っていうか、あいつがやった事の方が重い犯罪だからね。
しっかりと罪に問わないといけない」
「マスターの若い頃から、「姐御」とか呼んで必死に媚びを売ってましたからね。
怪しい者でしたが、ようやく尻尾を出しましたか。
今回の事は王都の肝いりであり、金鉱脈の解放です。
全てが明るみに出るというタイミングで愚かな事をしてくれるとは……」
「助かるわねー。バカを潰すといっても順番があるもの。
潰そうと思ってすぐに潰せるわけじゃない。
でもバカが失敗したなら、それを何段もすっ飛ばせるのよねえ。
楽で助かるってぐらいかしら?」
「だねえ。
こっちからしたら楽で仕方ないってところだけど、あのバカにとったら生か死かってところだ。
形振り構わずに刺客を送ったってのも分からなくはない。それでも犯罪は犯罪だし、キッチリと叩き潰すけどね。
それより一から説明を頼むよ。そこの治療してもらったヤツも含めてね」
「何故か持ってる灰色の異空鞄も、ですけどね」
ラブもこの鞄が気になったみたいだが、その話は最後になるな。
とりあえず最初からと言われたので、最初から話していくか。
「まずは鉱山街へと行く為に移動馬車に乗りました。
そして向かっていると、盗賊に扮した騎士と兵士に襲われるも叩き潰し王都へ。
その後は王城に行く事になり、褒美として<邪獄樹の棍棒>と<異空鞄>を陛下から下賜されました」
「そこまでは知ってる事だけど、問題はその後だ。
いったい何があったんだい?」
ロッドン殿は黙っているので、私が全て報告しろという事だろう。
ここも含めて鉄級の昇格試験かもしれないな。
ちゃんと分かるように伝えねば。
「もう一度移動馬車に乗って移動するも、特に何も無く鉱山街に到着。
その日は宿をとってから酒場へ。
すると飲み勝負をしているジャネスと鉄級の男が居ました。
ちなみに彼女がジャネスです」
「あたしは鉄10級のジャネス。
正確にはジャネス・ガンドベルだよ。よろしく」
ジャネスがそう言うと、マスターが少し驚いた顔をした。
「あんた<剛槍のジャネス>か。………若い頃とは随分と変わったねえ。
鉄級の昇格試験を受けに来た時はもっと華奢だったっていうのに、実にオーガ族らしい見た目になってるじゃないか」
「オーガ族らしい見た目ってのがアレだけど、マスターは覚えてたんだねえ。
まさかだったよ」
「そりゃ<鋼のバルザーグ>の妹だ、覚えてるさ。今は自分の力で二つ名も持ったようだけどね。
それにしても懐かしい」
「ゴホンッ! マスター話が進まないので、懐かしい話は後で」
「ああ、そうだったね」
ジャネスはマスターに覚えられていたようだが、<鋼のバルザーグ>という者の妹としてか。
若干微妙ではあるが、今は自身の二つ名を持つほどなのだ。
十分に胸を張れるのだから、いちいち引っ掛からなくてもいい所か。
「ジャネスと鉄2級の男が酒飲み勝負をしていたのですが、勝ったのか負けたのか自分は知りません」
「あたしが勝ったよ。っていうか、あんなのに負けるほど弱くないしねえ。
アッシュは見てなかったのかい?」
「アッシュは握り潰した後、すぐに酒場を出たぞ?
残って勝つまで見ておったのはワシだけだ」
「なるほどね。そうだったとは知らなかったよ」
ここで疑問に思ったラブが質問をした。
「握り潰すってなんですか?」
「鉱山街の近くには<ヤッツガの木>が多くあるんだよ。その実である<ヤッツガの実>は硬い。
その硬い皮をナイフで剥けるっていうのを。その男が自慢気にやってたんだよ。
魔銅のナイフでね」
「魔銅のナイフって………それなら誰でも<ヤッツガの実>の皮ぐらい剥けるでしょうよ。
<硬堅果>の皮じゃないんだから、そこまで難しくないし。
わたしは面倒だから、やんないけどね」
「まあ、そんなもんだろうさ。そこまで美味しいって物でもないからね。
で、男は周りからバカにされたんでアッシュに剥いてみろって言ったんだよ、多分できないと思ったんだろうね。
で、アッシュはナイフも使わずに握り潰したのさ」
「何をやってるんですか……」
ラブが呆れた視線を私に向けて来る。が、そんな視線を向けられても困るぞ。
「私は中の実を取り出せばいいのかと聞いたのだ。
そうしたら「そうだ」というので潰しただけでしかないぞ?
それでも中の実は外に出たろう?」
「ナイフで剥くより遥かに難しいし、その後は周りの男どもも黙っちまったけどねえ」
「アレが潰せるなら、己の頭なんぞどうなるか分からんからのう。
迂闊な事を言うなど唯の阿呆よ。
あの愚かな鉄級の男さえ舌打ちをしておっただけだ」
「そして次の日。
私とロッドン殿は早速4番坑道という問題の坑道へ行き…………いきなり統率者と戦う羽目になった」
「は? なんでだい、急に。分かるように説明しな」
マスターがちょっと怒った風に言ってくるが、あの当時の私とロッドン殿も訳が分からなかったからなぁ。
そういえば、あの男の治療はどうなったんだろう? その後は全く聞いてないが……
まあ、どうでもいいか。
「先程言っていた鉄2級の男が、昨晩バカにされた腹いせか、勝手に土砂を退けて中に入っていたんです。
そしてロックセンチピードの統率者に右腕を咬まれていました」
「何やってんだい、鉄2級にもなって。
………おそらくは地方で昇級試験を受けたヤツなんろうけど、バカを上に上げるんじゃないよ、まったく」
「その辺りも調べていますが、上手くはぐらかされているのか進みませんね。
監査役の方から言い出しているのかも判然としませんし、厄介な事です」
やはりジャネスが言っていた通り、鉄級の試験を簡単に通している監査役がいるらしい。
私も居るだろうと思っていたが、中央は問題を理解していたのか。
となると、やはり当人同士で辻褄を合わせれば済む分だけ厄介なのだろう。




