03-40-0120
Side:ラブ
ぼくとバディオさんは村長の家に入ったが、猛烈に臭いドーヴァルの睾丸が入った袋を持ったままだ。
とはいえコレは立派な証拠の品なので、外に置いてくる事は出来ない。
という建前の嫌がらせとしてやっている。
「うぐっ! なんですかこの凄まじく臭い臭いは!?」
「コレはドーヴァルの睾丸ですよ。
一応巣を殲滅しましたから、証拠の品を出さねばならないでしょう?
ですからドーヴァルの睾丸を切り落として持って来たんですよ。
流石に証拠も無く信用なんて出来ないでしょうからね」
「だからと言って、村長である私の所にそんな物を持ってくるなど……!」
物凄く嫌がってますけど、まあ当然でしょうね。
実際に鼻が曲がるどころか、鼻が壊れそうな臭気を出しています。
コレを持ってこられたら、流石に証拠として認めるしかないでしょう。
「それほどまでに臭いのがドーヴァルの睾丸だ。
これだけ集めてきている以上、巣の殲滅は間違いないと思うが?」
「でしょうね。
こんな物を私の前に持ってくるという事だけで失敗扱いにしたいほどですが、巣は壊滅したのでしょう」
「ならこっちの仕事は終わりですね。それじゃぼく達はこれで」
ぼくはそう言い、さっさと村長の家を後にしようとする。
しかし……
「ちょっと待ちなさい、巣はどこにあったのですか?」
「村の人に確認したら、低い山の上の方にあると言っていました。
なのでそこの巣ですが?」
「それはおかしい。ドーヴァルの巣は川辺にあったはずです。
貴方達が倒したドーヴァルの睾丸というのは巣の物ではないのでは?」
「いいえ、巣の物ですよ。合計で100体近いドーヴァルが居ましたからね。
アレが巣でないと言い張るのであれば、この村は嘘の依頼をしたという事になりますが………
そうなのですか?」
「何をバカな事を!
我々が嘘の依頼をしたなど、そうやって言い逃れをするつもりか!?」
「言い逃れも何も、ドーヴァル100体なら間違いなく巣だ。それ以外の何物でもない。
その川辺とやらの方が巣じゃないんだろ。
ここに居るラブは依頼通りに巣を“一つ”潰した。なら依頼はこれで完了だ」
バディオさんが「一つ」という部分を強調したので理解したのだろう。
村長は慌てて声を荒げつつぼく達に文句を言って来た。
「一つとはどういう事だ!?
巣があったなら潰すのがハンターの仕事だろう!!」
「巣を一つ潰す依頼料しか受け取ってないんだから、巣を一つしか潰さないのは当たり前だろう。
いったい何を言ってるんだ? それに依頼の紙にもしっかり記載されているぞ。
村の近くにドーヴァルの巣が一つあるので潰してほしいとな」
「そんなバカな事があるか!! 巣があるならば潰すのが当然だろう!!」
「それ以前に“巣が一つ”と書かれている以上、一つ以上の巣を潰す訳がないでしょう。
この依頼内容は王都のハンター協会に提示されたものです。
違うのであれば王都のハンター協会を偽った事になりますが?」
「………」
ぼく達が裏を知っていると理解したんだろう。あからさまに睨んできた。
分かりやすい者だと思うと同時に、ガルセンツの王の顔に泥を塗っている自覚が無い事に呆れる。
自分の首に縄を掛けているという事すら理解していないなんてね。
「ここで依頼完了などとすれば、王様を通してハンター協会に力が加わるかもしれんぞ」
「なら、そうしたらいいのでは?
代わりにこの村の悪評が王都で広がり、ハンターは碌に仕事を受けなくなりますね。
それでいいなら、どうぞご自由に」
「………」
こっちを睨んできているけど、さっきより弱くなったね。
王都でこの村の悪評が広まると困るのは当然だ。
そもそも一つの巣を潰す依頼料で二つの巣を潰させようとしたのは、この村の方だろうに。
なので、ぼく達に瑕疵は一切無い。
最初からおかしな事をするから、こうなるんだよ。
「………お前達のようなゴロツキの話を信じるような者は居ない」
「そう思うなら、それでいいんじゃないですか?
貴方は妄想の中に生きていればいい」
「ここは王領であり、私は王領の村の村長だぞ!!」
「それで?」
「なっ!? …………それでだと!?」
「何を勘違いしているのか知りませんが、村長は唯の村長でしかない。
それ以上も、それ以下も無い。
王領だろうが地方領だろうが、村長はしょせん村長でしかありませんよ?」
「貴様!! たかがハンターとかいうゴロツキの分際で……!!」
「それも含めて王都には報告をしておきますので、どんどん言ってください。
言えば言うほどに立場が悪くなりますからねえ」
「ふざけるな!! 貴様ら、必ずや生きていけなくしてやるぞ!!!」
「どうやってです? ハンター協会のマスターは貴族位にある子爵様だ。
たかが村長と子爵様、どっちの意見が採用されるかも分からないのですかね?
そのうえ一つの巣を潰す金銭で二つ潰せだ。それはガルセンツの陛下の顔に泥を塗る行為でしかない。
貴方の首には縄が掛かってますよ」
「………」
ぼくがそう言うと、何故か「キョトン」とする村長。
どうやら全く理解していなかったらしい。
田舎村の村長が何様のつもりなんだろうね?
ようやく事態が呑み込めてきたのか、段々と顔が真っ青になっていく村長。
ようやく自分のやっている事が、一国の王を激怒させる事だと理解したらしい。
既に遅いけどね。
「わ、私「先に言っておきますが」はだな!!…………」
「先に言っておきますが、今回の依頼は私の鉄級昇格試験です。
つまり私達の口を塞ぐのは不可能なのですよ。
試験内容をお決めになったのはマスターですので、絶対に報告しなければいけません。
………分かりますよね?」
「………」
村長は口をパクパクさせながらも、言葉が出て来ないようだ。
まあ、当然だろうとは思う。
村長が助かる道なんて、後はぼく達の口を塞いで無かった事にするしかない。
だからぼくは先手を打って、口を塞ぐ事は不可能だと言ったんだよ。
報告の義務があるから。
「情け容赦なくやったなぁ、オレとしては痛快で楽しいけどよ。
しかしこいつらがやってくる事はまだあるぜ?」
「知ってます。
この家の外に村人が集まってますからね、後はぼく達を殺すという事ぐらいでしょう。
死んだ事にしてしまえば自分達に災難は降りかからない。そう考えたのでしょうが、あまりにも愚かに過ぎます。
貴方がたは最初から間違えたのですよ」
「わざわざ陛下の事を“ガルセンツの”って言ったもんな?
………お前、何者だ?」
「ぼくの名はラブアトゥヌ・フェ・デューエフ。
カルバス海国、デューエフ辺境伯家の三男ですよ」
「「辺境伯!?」」
辺境伯は侯爵家に次ぐ家柄であり、完全に高位貴族家に分類される。
それも他国の高位貴族家に村人が手を出したとなったら、完全に戦争だ。
この村の者達にそれは絶対に出来ないし、してきたらドーヴァルのように殺すだけ。
「だからお前さん妙に色々な事に詳しいし、淡々とモンスターの赤ん坊でも始末してたんだな。
貴族家の者なら優先順位を間違えたりはしねえ」
「ええ。そもそも貴族家とは最小限の犠牲で済ませるものです。
多くの者の為に少数を切り捨てる。
たとえ少数の家族に怨まれようと、多数の為に怨みを背負うのが貴族なのですよ。
この者どものように腐ってなど居られないのです、特に高位貴族家はね」
「だろうな。腹の立つ事も多くあるが、だからといって貴族の行動が理解できないわけでもねえ。
特に銀級にもなると色々と知る事になるんでな、様々に考えちまう。
自分だったらどうしたと考えるとな、貴族だからってだけで恨む気持ちは持ちにくい。
それでも面倒臭いのは嫌いだがな」
「そこは心配いりませんよ、だって貴族でさえ面倒臭い事なんです。
建前を含めて色々としなければいけませんが、貴族の立ち位置や立場の為のものですからね。
やらなくていいなら、したくないんですよ。貴族の側も」
「………お貴族様だい、ってアピールするのも貴族の務めか。
本当に面倒臭い生き方をしなけりゃいけないんだな?」
「ええ。貴族ってそういうものなんですよ。
それはともかく、外の貴方がたはどうするんですか?
更に立場を悪くしたいなら、そのままでいいんですけどねぇ……」
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」
ドタドタドタドタ、バタバタバタバタ、ダダダダダダ………
凄い勢いで走って逃げたなー。
ま、ぼく達もさっさと出て行こう。
今から歩けば、夕方までには隣村に辿り着けるだろう。
この村で泊まるなんて自殺行為でしかない。




