03-37-0117
Side:ラブ
ぼくは山を登りつつドーヴァルを確実に始末していく。
ここまで山が臭いなら、ここを殲滅すれば文句は無いだろう。
もう一つは西に行った林の中にあるらしいけど、そっちは行く必要なんて無い。
そもそも巣は一つと聞いてるんだ。
「そうだな。依頼料は巣一つ分なんだから、それで何ら問題は無い。
そもそも巣が2つなら、2つ分の依頼料を出すのが筋だ。
出せないなら襲われるなり好きにすりゃいい。それもまた村の連中の決断だ」
「王領の村だとか言ってましたけど、村の村長程度だとマスターが王様に情報を上げられるって事も知らないんでしょうね。
自分達の方を信じると思い込んでいる感じの態度でしたし」
「だな。
おそらくはハンターを見下すタイプのヤツなんだろうが、ああいう連中はどこにでも居る。
地方領だろうが王領だろうが変わりゃしねえ。
とはいえ、こっちが頭を下げる必要なんて無えんだ。
ああいう奴らは、そこのところを分かってないのさ」
「ハンターは依頼を拒否できますからね。
銀級以外は、みたいですけど」
「そうなんだよ。
銀級はどうしても無理な滞ってる依頼を請ける義務がある。
代わりに銀級となれば準男爵か騎士爵ぐらいの立場は与えられるんだけどな。
もちろん本物のお貴族様には負けるが、平民以上の立場にはなれる。そういう意味での強制依頼だ。
あの、のぶ……のぶり? 貴族の、のぶりとかいうヤツ」
「それは多分、ノブレス・オブリージュというヤツですね。
高い地位にある者の義務というものです。
準男爵や騎士爵の立場が与えられるなら、当然その地位にある義務を果たせという事でしょう。
少なくとも貴族は義務を背負っているわけですし」
「貴族がか………?」
「ええ。悪ければ地位を引きずり落とされたり、村や町の人の叛逆で殺されたりしますからね。
そういう義務は背負ってますよ?」
「ああ………そりゃ確かにそうだ。
平民には怒り狂った民衆に殺される責任なんてねえからな。
それを考えたら、確かに高い地位にあるヤツの責任だ」
どうやらバディオさんも納得できたようです。
良い悪いは別にして、自分が関係ない事でも怒り狂った民衆に殺される事もあるのが貴族。
王族もそうですが、時に理不尽な理由で殺されたりするんですよ。
それでも自らの地位の責任なので受け入れるしかない訳ですね。
「それもそれでキッツいな……っと。そろそろ巣の中心だ」
バディオさんが再び口を閉じます。
鼻が駄目になっているらしく、狼人族の索敵は出来ないみたいですが、それでも普通のハンター並みの事は可能なんでしょう。
ぼくとは違って経験が豊富ですからね、この辺りはやはり埋め難い差です。
ぼくも緊張しながら巣に近づきますが、そこには100は下らない数が居ました。
アッシュさんが国境の村で潰した巣は200を超えていたと聞きますから、やはり国境はおかしかったのがよく分かります。
本当に、アレは誰がやったんでしょうね?
ぼくとバディオさんはゆっくりと下がり、ある程度離れたら話し合いをします。
「流石にアレは一人で殲滅するには多すぎる。
普通は2チームか3チームが合同で狩る数だぞ。
でないと安全を担保できねえ」
「200をほぼ単独で狩ったのは、やっぱりおかしいんですね?」
「200を単独って……そいつはバケモノか何かか?」
「いえ、巣が2つあったらしく、それらを互いに争わせる事で共倒れを狙ったらしいです。
で、それは成功。残ったのはそこまで多くなかったそうです。
それでも30以上と統率者が居たそうですが……」
「統率者が居る30ってだけでシャレにならねえんだが、よくそいつ倒せたな?
どう考えても銀級下位の腕前だぞ」
「今ぼくと同じように鉄級昇格の試験を受けに行ってますね。
ですけど、おかしな強さなのはバディオさんの反応で分かります」
「銅級のヤツかよ……うん?
それってもしかして、マスターが巡回狩人を命じたヤツじゃねえのか?」
「そうらしいですね。
言われた当の方は然して気にもしていないようでしたが……」
「そりゃ強いに決まってる。
そいつは違法闘技場で裏の暗殺者や暴れ者を殺しまくってたヤツだぞ。
なんでも裏の組織の奴らが口封じの為に放り込んでたらしいんだが、それを悉く始末したんだと」
「悉くですか……」
知ってますけど、一応驚いておきましょう。
変に関わられても困りますし。
「その後、遂には大物連中も目を付けて殺しに行ったらしいが、全員が帰ってこなかったそうだ。
それで裏の界隈に<触れるべからず>っていう、お達しまで出たらしいからな。
流石に尋常じゃねえんで誰も絡まねえだろうさ。誰だって死にたくはねえ」
「でしょうね。
それよりあのドーヴァル、どうやって殲滅しましょうか……」
「正気か? ここは一旦戻って説明。
それで数チームと合同で殲滅するべきところだぞ」
「それだと鉄級の昇格試験じゃなくなりますからね。
ぼくとしては外に出て来る者達を削っていけば何とかなると思うんです。
ドーヴァルだって何も食べずに生きられる訳じゃありませんし、食料は必ず必要です。
それに、誰も帰ってこないとなれば、更に外に出さざるを得ないでしょう?」
「まあ、そりゃそうだが……」
「外に出てきた者を殺し続けていれば、やがて殲滅できるだけの数まで減るはずです。
幸いにも今のところ統率者は見ていませんし、居ないのならば勝機は十分にあります。
流石に統率者は無理でしょうけど」
「そりゃな。オレが協力すりゃいけるかもしれないが、お前さん一人じゃ無理だ。
とりあえず100体もの巣を一人で殲滅したなら余裕で合格となる。
出来るなら、だがな」
「とりあえずは出来るだけ頑張ってみます」
そう言い、ぼくは巣の周りを回りつつ、ドーヴァルが居れば即座に首を切って殺害。それを繰り返していく。
睾丸を切り取る事をしなくてもいいのが楽であり、ドーヴァルを奇襲で殺す事はそこまで難しくない。
仮に出会い頭に戦闘になっても、冷静に離れて首を切れば終わる。
「それは言うほど簡単じゃねえんだが、お前さんの場合は血の武器があるからなぁ。
手で持たずとも使えるし、いきなり首を切られたら防ぎようが無いぜ。
さっきのだって、ドーヴァルにワザと攻撃させている隙に近づけて切ってたからな。
宙に武器が浮いてるってのは反則だろ」
「そう言われても、これがヴァンパイア族の血の武器ですからね。
それにこう見えて結構苦労してきたんですよ。
普通に血を操るだけだと切れ味なんて全くありませんし、鈍器としては脆いですしね。
色々と工夫して、やっとドーヴァルなら切れるというぐらいです。
駄目ならノコギリ状にして無理矢理に切る必要があるところでした」
「ノコギリねえ……敵を倒すのに時間が掛かりそうだな。
ま、だからこそ使わねえんだろうけどさ。
とはいえ30以上を殺してるって自覚しろよ? お前は既に鉄級として十分な実力を持ってる。
依頼は巣の殲滅だが、ここまでの巣だとは思ってもなかったからな。
依頼内容と本当の中身が違い過ぎる」
となると本来は30ぐらいの小規模な巣をイメージしてたのかな?
30ぐらいだと巣とは思えないんだけど、もしかしてアッシュさんに毒されてるのかも……
だってアッシュさんなら30ぐらいすぐに殲滅するし、そうなると大した数に思えないんだよね。
で、実際にぼくも出来てるしさ。
それが当たり前の人が居て、しかもぼくも出来るとなると………どうしてもズレるんだろうなぁ。
今さら普通が分かっても遅い気がするのは何故だろうか……




