03-35-0115
Side:ラブ
「オレは銀3級のバディオ。お前さんの鉄級昇格試験の監査役だ。
で、お前さんの昇格試験の内容だが………これ正気ですかい?
北東の村の近くに出来たドーヴァルの巣の殲滅って、マジで言ってます?」
ぼくは今ガルセンツ王国の王都にあるハンター協会に居ます。
アッシュさんは試験の為に出発しましたが、ぼくはこれからですね。
とはいえ、何だか妙な試験内容のようです。
ドーヴァルの巣の殲滅……まぁ、出来なくもないですけど、簡単ではありません。
それが鉄級の試験?
「はい。正真正銘、それが鉄級への昇格試験です。
私もマスターに聞きましたが、彼の実力だとそれが順当だとマスターが言っていました」
「サブマスターがそう言うならいいんだが……マスターがねえ。
将来有望でコレだと引く手数多っていうか、女どもが放っておかない気がするがな?
流石にこの年齢じゃ犯罪だが」
「彼は62歳なので、そこまでではありませんよ。
単にヴァンパイア族なので見た目が若いだけです」
「ああ、お前さんヴァンパイア族だったのか。
通りでこんな小さい子に巣の殲滅なんて試験を出すはずだ。
ヴァンパイア族なら実力さえあれば、その体の小ささでも可能だろうよ。
ってもドーヴァルの巣の殲滅なんて、普通は鉄級のチームでやるもんだけどな」
「それはそうなんですけど、彼のチームメンバーはもっと大変な昇格試験ですからね。
それに比べれば随分とマシですよ」
「うぇぇぇっ、これよりも厳しいとか完全に銀級の試験だろうに。
そんなもん受けさせられるとか、マスターも厳し過ぎないか?」
サブマスターが言っているのは、おそらくアッシュさんの試験でしょう。
でもあれは金鉱脈を確保する為のものですし、何よりこの国の王様からの命令です。
拒否できるものでもありませんし、それにアッシュさんの実力なら解決するでしょう。
国境の村であるヴェルイーで巣の殲滅を何度も行っているはずですし、統率者すら一人で狩っています。
あれだけの実力があるなら狭い坑道の中でも戦えるでしょうし、鉱山の中なんて多人数が使えませんから少数精鋭で挑む必要があります。
そこにアッシュさんを配置したわけですから、ここのマスターの考えは正しいでしょう。
アッシュさんが一年も経ってない新人だという事を除けば。
「ま、ドーヴァルの巣の殲滅が出来る実力だと思われてるなら、さっさと行って終わらせるか。
時間を掛けても仕方ないし面倒なだけだからな。
それじゃ北東の村に行くか。王領の中で済むのはありがたい事だぜ。
出ると面倒な事になりかねないからさ」
「面倒な事、ですか?」
「オレ達のような銀級は強制依頼を請けなきゃいけない立場なんだよ。
様々な土地で滞ってる依頼の解決っていえば聞こえはいいが、危険な依頼の使い走りだと思えばいい。
下らない依頼なら突っ撥ねられるんだが、一応は聞かなきゃいけないんでな。
地方には行きたかねえのよ」
「銀級に出されるくらいですから、大変な依頼が多いんですか?」
「大変なのもあるが、それ以上に面倒臭えのが多いんだよ。
特にお偉いさんの依頼な」
「お偉いさん………ああ、貴族ですか」
「そういうこった。オレ達は庶民だ、当たり前だが貴族なんぞに絡みたくはねえ。
にも関わらず地方に行くと貴族絡みの案件がありやがるんだよ。
規約で突っ撥ねる事も出来やしねえ。
オレだって貴族の使い走りになる為に銀級になったんじゃねえってんだ」
「それでも下らない依頼をしてくる貴族は減りましたよ、昔と違ってね。
私達が現役の頃はもっと多かったのですから、それに比べればマシでしょう。
奴らの顔を見るだけで縊り殺したくなる私達よりはね」
「…………まあ、そこまでじゃありませんけどね」
貴族を見るだけで縊り殺したくなるって、どれだけの横暴を押し付けられてきたんだろう。
流石にウチではそういう事は無いけど、確かに酷い領地は酷いからなぁ。
領地が酷いって事は、領主が酷いって事だ。
領地を豊かにするも貧しくするも領主の手腕に掛かってる。
基本的にどこの国も同じだけど、どうしても儲からない土地ってあるんだ。
でもそういう土地って大抵が減税対象になる。なのでそこまで酷くはならない。
結局は領主が過酷な税を課したり、領内に対して碌な方策をとらなかった結果なんだよね。
だからこそ無能扱いされるんだけど。
「とにかく移動馬車に乗って、さっさと北東の村まで行くぞ。
あそこは王領の北東の端でもある。
それなりに時間は掛かるから、のんびり行く事になるけどな。
朝早く出発して行ける所まで行く」
「分かりました」
ぼくはそう返事をし、監査役の方と一緒にハンター協会の外に出る。
このバディオさんという方は狼人族で、鼻を活かした索敵を得意とするらしい。
割とお喋りなので疲れるけど、それでも馬車旅は暇なので助かったとも言えるかな。
寝ているかバディオさんと喋っているかで移動し、2日目の午後には目的の村に着いた。
移動馬車はここから先へと行くみたいなので、ぼく達はここで途中下車だ。
到着した村を見ると普通の村で、特に可も無く不可も無くと言ったところかな。
よくある村といえばそれまでだけど、王領の村って感じはしないね?
「どうしたんだ? 村を見て随分と不思議がってるみてえだが」
「何と言うか、王領の村って感じはしないなと。
どこにでもある村って感じしかしないので……」
「ああ、そういう事か。
とはいえ村ってな、どこでもこんなもんだぞ? 村は村なんだから変わりゃしねえよ。
町なんかは特色があったりするが、村なんてのは王領だろうが地方領だろうが変わる事はねえ。
なんたって村に求められるのは作物の栽培だからな」
「確かに、そうですね。
それが一番求められる物である以上は、畑のある景色は変わらないのか……」
ウチの領地にも村はあったけど、確かに辺境伯の領都と砦の分の食料生産拠点だった。
村がそういう場所だっていうのは、王領であっても変わらないのか。
とはいえ言われれば当然でもあるね。そもそも王都なんて一番人数が多い町だし。
それだけの食料が必要なんだから当たり前だ。
きっと、こういうところが駄目だから早くに出されたんだろうなぁ。
本の中の知識も、本当の意味で使えなければ意味が無い。
ただ覚えてるだけじゃ意味が無く、それを現実に活かせなきゃ価値が無いんだろうね。
ぼくがこれから学ぶべきところは、多分そこなんだろう。
頑張っていこうと思うけど、まずは村長さんの所に行って話を聞こう。
ドーヴァルの巣があるって話だけど、どこにあるかとか知ってるかもしれないしね。
それにもう試験は始まってる。自分で依頼を熟して解決しないと。
「とりあえず村長さんの所に行きます。
そこで話を聞けるでしょうから、ドーヴァルの巣について出来るだけ聞き込みます」
「おう。お前の思う通りにやってみろ」
監査役というのは、基本的に口を挟まないと聞きました。
バディオさんはお喋りなんですが、何故か依頼に関する事は全くと言っていいほどに喋りませんでしたし。
そこのところは軽く見えるようでいて徹底しているようですね。
情報は全く得られませんでしたから。
ぼくは村長さんの家に移動して話を伺おうとしたんですが、何故か最初から訝し気な視線で見られています。
「お前さんが、ドーヴァルの巣をかね?
…………そこの御仁ではなく?」
「はい。ぼくが請けた依頼になります」
「………」
まだ訝しそうにしていて話そうとはしない。
ドーヴァルの巣に困ってるんだから、さっさと話せばいいのに。
何で話そうとしないんだろう?




