03-30-0110
Side:アッシュ
私は疲労しているものの、赤鉄製のナイフを使って必死に甲殻を剥ぎ取っていく。
しかし弾力がありながらも硬い皮は、そう簡単には切れてくれない。
四苦八苦しながらも何とか切っていき、私は甲殻を剥がしていく。
これは自分で使う事にしよう。だから売らずに王都に持ち帰るか。
「その甲殻、売ればどれぐらいするんだろうね?
ステージ3のロックセンチピードの甲殻だ、ハンターが目の色を変えて群がるよ。
もしかしたらオークションで値段が釣り上がるかも……」
「この甲殻は売る気は無い。
上手く加工できるなら、私の新しい短剣かナイフにしてもらいたいのでな。
確かモンスターの皮とか甲殻は、魔力を流せば強化できるんだったはず。
こいつの甲殻なら十分に良い物が出来るだろう」
「そうじゃの。アッシュが今持っとる物よりも格段に良い物が出来るであろう。
倒した者の特権じゃし、ついでにワシも黙っておこう。
ここだけの話にしておけば、鬱陶しい輩が絡んで来る事もあるまい」
「中には良い素材が欲しくて、殺して奪おうとするバカまで居るからね。
情報が漏れても碌な事にならないさ。
あたしも話す気なんて無いし、普通は漏れるのが漏れないからね。
今回のは守り通せるはずだよ」
「今回のは?」
なんだか妙な言い方なので聞くと、昔ジャネスはステージ3の討伐に参加した事があるらしかった。
チームで参加したのだが、その時には6チーム32人が居たそうだ。
「6チームで32人………
という事は1チームで5~6人ぐらいか?」
「実際には多い人数を抱えておるチームもあれば、2人のチームなどもあったりするからのう。
大所帯になればなる程に実入りが厳しくなる。なので8人や10人のチームなど滅多に無いな。
5人平均という事は、10人ぐらいのチームが1つあったのではないか?」
「そうだね。<赤の閃光>と名乗るチームだったけど、一人の男に女が群がってるチームだったよ。
たまにあるけど、アレ系のチームは碌なもんじゃない。基本的に協調性が無いから邪魔でしかないんだ。
そのうえいちいち格好をつける男がウザいのなんのってさ。役にも立たない癖に鬱陶しい」
「それ聞いた事あるのう。
たしかヴァンパイア族が女を侍らせとるチームではなかったか?
長生き種族じゃから強いのもあって、文句をつけても僻みみたいに受け取ると聞いた事があるぞ」
「その通りだよ。
しかもこっちのチームにまで絡んできて、鬱陶しい事このうえないのさ。
今はどこで何やってるのか知らないけど、あの時の戦いでも邪魔しかしなかったね。
終始、恰好をつけてただけさ」
「なら実力は大した事がないのか?」
「いや、それなりの実力はしてたよ。ただ、いちいち恰好をつけるから面倒で仕方ないんだ。
なんかさ、攻撃する度に自分の中で恰好いいと思っているポーズをとるんだよね。
それが本当に邪魔で仕方なかったのさ。
真面目に戦えば結構強いはずだよ」
「なんというか、碌な事をせんヤツじゃの。
真面目に戦わんなど死にたいのかと思うし、愚か者が真似をしたらどうするつもりじゃ。
おそらく自己責任で済ませるんじゃろうが、下らぬ事をするマヌケは他にもおるからのう。
面倒な事をするヤツじゃ」
本当にその通りだな。闘技場ならば恰好をつけるのは分からなくもない。
あそこはそういう場所だし、客にアピールなどもしなければいけない所でもある。
私は嫌われ役というか、悪役みたいな感じであったがな。
それでも“そういうアピール”は必要であった。
「急に笑顔になってどうしたんだい?」
「ああ、私は少し前まで闘士をしていてな。
そういうアピールもしなければいけない仕事だったのだ。
それを思い出していただけさ」
「…………少し前かい?
最近、違法な闘技場が見つかって潰されたって聞くけど、まさか……」
「ああ、そうだ。私は22年奴隷闘士をさせられていた。
まあ、ジャネスは信用できそうだから別に構わない。
そこで私は悪役というか嫌われ役のようなものをやっていたんだ。だからこそ対人経験はあるんだよ。
あそこは違法闘技場であり、殺し合いは日常だったからな」
「なんてこった……
違法な闘技場って聞いてたけどそれだけで、妙に情報が出回らないはずさ。
殺し合いが日常って、メチャクチャ過ぎるだろうに」
「本当にのう。
まあそんなアッシュだからこそ、酒場で調子に乗っておったマヌケなど相手にならなんだのだがな。
ジャネスと飲み勝負をしておったヤツだ」
「ああ、あのバカかい。あいつは弱い癖に飲み勝負を始めた初日から突っかかってきたヤツさ。
あいつはここオゥリーで一番級位が高いってんで調子に乗ってたんだよ。
あたしがボコボコにしたら、戦いじゃ勝てないから飲み勝負で勝とうとしてたってわけ」
「なるほどのう、そういう事か。
それにしても、鉄級にまで昇れておる割にはマヌケなヤツじゃのう。
ここでロックセンチピードの統率者に襲われ右腕が駄目になっとるし、なんであんなのが鉄級にまでなったんじゃ?」
そういえばそうだな? あんな愚かな事をするヤツは普通もっと下の級位だろう。
少なくとも実力者の階級である鉄級には昇れないはず。
「あんたは王都のハンターだから知らないんだろうけど、地方では金を握らせれば査定が緩くなる所はあるよ。
王都で鉄級になるってのは一種の称号みたいなもんなんだ。
あたしも昔に王都で試験を受けたけど、やっぱり地方で受けたヤツとは扱いが違うものさ」
「なるほどのう、そういう事か。
一応マスターに情報として上げておくが、マスターは知っておるじゃろうの。
とはいえ、そういうのは簡単に表には出てこんものだ。
当事者だけで収めてしまえば、他の者には分からん」
「そう。だからこそ王都に来なきゃ受けられない銀級の試験には大きな意味があるんだよ。
銀級は下らない事が無い、純粋な実力者の証だ。だからこそ銀級になりたかったのさ。
暗部の事も知りたかったしね」
そうジャネスが言うと、ロッドン殿の目が鋭くなる。
暗部とはいったいなんだ?
「お主………暗部の事を知ってどうするつもりじゃ」
「そんな凄まなくても答えるさ。
あたしの名前はジャネス・ガンドベル。
兄の名前はバルザーグ・ガンドベルだ」
「<鋼のバルザーグ>殿の妹だったのか。
となると、お主も裏の賞金稼ぎになるのが目的か?」
「違うよ、あたしはそこまでになる気は無い。
ただ、兄貴に言われていただけさ。
暗部になれる銀級になったら、オーガ族の秘伝を教えてやるってね。
兄貴がそこまで言うんだ、暗部ってのは相当に大変なんだろう?」
「まあのう。ターゲットを尾行して森の中で殺す。
あるいは酒で酔っぱらっている所を狙って、というのもある。
とにかく素行の悪い者や犯罪者を始末するのが暗部じゃ。
更に言えば、他の国から来ておる工作員を始末もしておる。
おそらくアッシュが銀級になれば、暗部から誘いがあるはずだ」
「私にか?」
「暗部で何より求められるのは実力。
それもモンスターと戦う実力ではない、殺し合いの出来る実力じゃ。
とにかく生き物相手は全く違うからのう。
駆け引きや読み合いもあれば、奇襲で殺してしまうという方法もある。
とにかくそういう手練手管が何より物を言うのが暗部。
殺し合いをしてきたアッシュは、暗部としても欲しい人材となる」
「違法闘技場で殺してきたから………って事だね?」
「それだけではない。アッシュは裏の界隈で有名だった者まで始末してきておる。
つまり暗部がターゲットとしている者達を殺せる実力が、既にアッシュにはあるという事よ。
その事が一番大きい」
「裏の界隈の連中を殺してきたって………誰を殺ったんだい?」
「すまないが、物心ついた時には既に闘技場に居てな、私はそういう事に疎くてよく分からない。
聞いたのは<悪逆のドフォーグ><戦鬼レレデオ><死切のジャジャ><剛腕のセッバル>だったと思う」
「えっ? <戦鬼>をブッ殺したのかい?
………アレはオーガ族の中でも祖先に回帰したとか言われるほど、暴力しかないオーガ族だったと聞いた事がある。
それを……と言っても、さっきのアッシュを思い出したら<戦鬼>が勝てないのも道理か」
そんな当たり前のように言われてもな。
確かにあのオーガ族は他のに比べたら大した事がなかったが……




