03-29-0109
Side:アッシュ
私の左側から体を出したジャネスは、手を前に出して魔法を使おうとしている。
そんな事をしなくても使えるはずだが、気合を入れる為だろうか?
「喰らいな! 【華炎扇】!!」
ジャネスの目の前に炎が吹き荒れている。
斜めに広がっていく形の炎は一気に坑道を進み、塊になっていたロックセンチピードを焼き払っていく。
「「「「「「「「「ギィィィィィッ!!?!?」」」」」」」」」
ロックセンチピードが焼かれて悶えている。
そんな中、私は動く者を発見した。
1匹のロックセンチピードが塊を離れ、ジャネスに噛み付こうとしていたのだ。
私は慌ててジャネスの体を左腕で引き寄せて右腕を前に出す。
ジャネスが左に居るから、右腕で引き寄せる事が出来なかったのだ。
ランタンは既に手放している。
ガキンッ!! ………ジュウウウウ!!!
まさか大きくないロックセンチピードが腕防具をひしゃげさせるとは思わなかったが、それよりも腕防具から変な音と異臭がしてきたので慌てて蹴り飛ばす。
するとロックセンチピードが離れたが、なんだかおかしいぞ?
「アッシュ! そやつはステージ3にまで到達しておる!!
甲殻の色が<混沌の種>の色じゃ!!」
私はランタンを落としてしまったので見えないが、おそらくは背中の甲殻が王都で見た<混沌の種>の色をしているんだろう。
私はすぐさま<邪獄樹の棍棒>を出し、ジャネスを離すとロックセンチピードに相対する。
それにしてもまさか、小さいとはいえ統率者だとは思わなかった。
統率者というのはどれも大きいと思っていたが、ステージ3に入ると<混沌の種>が小さくなっていくように、統率者も小さくなっていくらしい。
初めて知ったな。………知りたくもなかったが。
「まさか、こんなヤツが居るなんて思わなかったよ!
他の奴らと絡んでた所為で見分けがつかなかった!」
私の後ろに居るジャネスが言うが、アレは仕方ないだろう。
ムカデ玉を見て見分けろと言われても、果たして何人ができるのやら? といったところだ。
そもそも夜目が利くロッドン殿でも分かっていなかったくらいなのだ、ランタンが無ければ見えない私達にはもっと無理だろう。
「ジャネス、離れていてくれ。どんな戦闘になるか分からない。
私もステージ3を超えたヤツと戦うのは初めてだ」
「ステージ3を超えているヤツなんて、普通は数チームで戦うものだよ。
実際の数で言えば15人から20人以上さ!
アッシュ一人で勝てるわけないだろ!!」
「ジャネス、ワシらは邪魔だから離れるぞ!
アッシュの邪魔をするんじゃない!!」
「は? 何言ってんだ!? 正気かい!?」
「アッシュは<混沌の種>を消す事が出来るんじゃ!! それもステージ3や4の物までな。
アッシュはそういう特殊な能力を持っておる。
ワシらではどうにもならん相手でも、アッシュならば大丈夫じゃ!! むしろ邪魔だから離れろ!!」
「………っ、くっ!!」
どうやらジャネスは離れてくれたようだ。
これでまともに戦えるが、それでもスペースが少ないのが厳しい。
すでに目の前のヤツしか残っておらず、他のロックセンチピードは焼かれて動けないか死んでいる。
たとえ生きていたとしても、足が燃えて駄目になっていたら死んでいるのと変わらない。
なので私は統率者に集中すればいいだけだ。
私は集中しつつ、じりじりと近づいて行く。
すると先程と同じく一気に飛び掛かって来た。
「シューーッ!!」
「ふんっ!!」
ドゴォ!
今度は盾に噛み付かせる事もなく、腕盾で裏拳のように殴ってやった。
そして顔から飛ぶロックセンチピードの統率者。
私はそこに<邪獄樹の棍棒>で追撃を加えようとするが、すぐに身を捩って狙いを定めさせない。
それでも私は叩きつけたが、思っている以上に感触が鈍かった。
こいつ、柔らかくて硬いのか?
「殴った感触が妙だ。硬い癖に柔らかいという訳の分からない感触がした。
もしかしたら打撃武器は効きにくいかもしれない」
「面倒なヤツじゃのう。柔らかくて硬いなど、流石はステージ3か。
大きければ対処はもう少し楽かもしれんが、普通のロックセンチピードと大きさが変わらんからのう。
ステージ3でも相当に進んだ個体なのが分かる。
となると生半可な強さではないという事だ」
「余計にあたし達が協力して戦わなきゃいけないと思うんだけど?」
「この狭い坑道では広がって戦えん。更にはロックセンチピードの方が有利に動ける。
あやつらはこういう穴倉でも自在に動けるからの。
ワシらの最大戦力はアッシュじゃ。そのアッシュの邪魔をする訳にはいかんのだ。
迂闊に援護も出来ん、この狭さではな」
「まあ、それはそうなんだけど……」
私はロックセンチピードの統率者に攻撃した後ですぐに離れたが、大して効いてもいないのかこちらを窺っている。
やはり相当に厄介なのは間違いない。
間違いないが、それよりも硬くて柔らかい防御と小ささが問題だ。
体長2メートル50センチ、胴の直径は20センチ。
こう考えると大きいと思うかもしれないが、長細い形なので攻撃が当てにくい。
更には天井でも這えるような足の多さだ。そのうえジャネスの炎でも焼けていない。
非常に厄介だと言わざるを得ない相手だろう。
「カチカチカチカチカチ……シュッ!」
「ふんっ!!」
ドゴォ!
再び裏拳で吹き飛ばしたが、それを見越していたロックセンチピードの統率者は、地面に体が落ちた後で私の足を攻めてきた。
裏拳のようにして殴られると見越したうえで、私の足を攻めて来るとは……
私は裏拳を振り抜いた態勢から、強引にパープルオーガの力を使って右手でロックセンチピードの統率者を掴む。
ステージ2までの統率者より小さいので掴みやすく、私はその掴んでいる体を地面に押し付けた。
「ギィィィィッ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
私は体の向きを変えて正対し、暴れるロックセンチピードの統率者の首を左手でも掴んで左右に引っ張る。
流石に首元を持たれていてはこっちに噛み付く事も出来ない。
そんなロックセンチピードの統率者に対して、全力で左右に引っ張って引き千切ろうとする私。
「ギィィィィィィィィィッ!!?!?!
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
ピチ、ピチピチ………プチプチプチ
「シューーーーッ!?!??!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ………かぁぁぁぁっ!!!」
プチプチプチプチプチプチ………ブチィッ!!!!
パープルオーガの全力で引き千切ろうとしたのが良かったのか、敵に抵抗させないままに引き千切る事が出来た。
しかし澱のような魔力を相当に消費してしまったな。
勝てたからいいが、これからはもうちょっと消費を少なくしたい。
「はーっ、疲れた……」
「ようやった、アッシュ!!
まさかステージ3にまで到達しておる統率者を引き千切るとは思わんかったぞ!
どんな怪力しとるんじゃ。ワハハハハハハハハハ!!!」
バン! バン!
笑いながらロッドン殿が叩いてくるが、今はその痛みも心地よい感じだ。
引き千切る事が出来て良かったが、このステージ3の統率者は強すぎる。
私がパープルオーガの力を全力で使わなければいけないなど、おかしいにも程があるぞ。
「おかしいのはアッシュもなんだけどねえ……。それでも本当に助かったよ。
アッシュが殺してくれなきゃ、あたしは間違いなく喰われてた。
もし逃げても鉱山から逃がしちまうから最悪の結果だったろうしね」
「そうじゃの。本っ当にここでアッシュが始末してくれて良かったわ。
でなければ何重もの意味でマズかったとしか言えん」
確かにそうだ。
私がここで始末していないと、多くのハンターが駆け付けるまでにどれだけ暴れられたか。
それを考えると澱の魔力が減ったというのは、大した被害でもないな。




