03-25-0105
Side:アッシュ
壁の裂け目からロックセンチピードの統率者と思わしきものが這い出てきた。
<悪食>だと小さかった裂け目も、ロックセンチピードならば通れるのだろう。
まあ<悪食>は横に平べったいというか、横に大きな虫だからな。
それでは裂け目を通るのは無理だろう。
特に大きな<悪食>では通る事は不可能だったからこそ、ああやって閉じ込められていたのだと思う。
中で大きくなって出られなくなっただけだろうが、それでも大きな<悪食>を殺した相手だ。
緊張感を持って戦おう。
出てきたのはロックセンチピードの統率者ほど大きい個体だった。
という事は間違いなく統率者がもう1体居たわけだ。
厄介だなと思いつつも、私は左手の盾を前に出しながら近寄っていく。
「カチカチカチカチカチ………」
あの崩落場所で戦ったヤツと同じく、こいつも「カチカチ」顎を鳴らして威嚇してくるだけだ。
つまり今はまだ私を舐めているとなる。
このチャンスを最大に活かす為には……
「カチカチカチカチカチ、シューッ!!」
威嚇状態から一気に伸びて噛み付きに来たが、私は冷静に盾で受け止める。
ガキィッ!!
腕盾とはいえ鉄で補強されている盾だ。
前とは違い大きさもある。なら簡単には壊れたりしない。
そして守れるのは一瞬だけでいい。
私は盾に噛み付いているロックセンチピードの統率者に対し、右手で一気に掴みに行く。
レッドオーガになって一気に首の節の一つ下を掴んだ私に対し、慌てて手を外そうとするも遅い。
私は節と節の間を鷲掴みにしている。
そして牙を盾から外して全身で抵抗しようとするが、私は左手のランタンを地面に下ろし、そして左手で首元を鷲掴みにした。
「ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
プチプチプチプチプチプチ……
「かぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
ブチィッ!!
ブルーオーガにまで【身体強化】を引き上げたが、それでもロックセンチピードの統率者はこれが一番手っ取り早い。
首の所から引き千切った以上、生きるのは無理だ。
私はロックセンチピードの統率者の首を放り捨て、ランタンと<邪獄樹の棍棒>を拾う。
「………いやいやいやいやいやいや。
おかしいだろ、その勝ち方!!」
「アッシュはこんなものじゃぞ。
言いたい事は分からんでもないが慣れろ、それが一番手っ取り早い。
それに安全に勝てるのであれば、引き千切っても構わんであろうよ」
「それはそうだけどさ……それと、さっき肌の色が変わってたんだけど、アレってなに?」
「私は【身体強化】をすると、何故か肌の色が変わるのだ。最初は赤、更に強化すると青になる。
その状態では素の時の3倍ほどのパワーが出せるが、結構魔力の消費が大きいので多用は出来ない力だ」
「【身体強化】が多用できないのは、あたしも含めて誰も変わらないさ。
それよりもロックセンチピードの、しかも統率者を引き千切るって凄いよ。とんでもないパワーしてる。
幾ら【身体強化】といえども、最初の力が低けりゃ強化したって大した事は無いからね」
そうジャネスが言うと、ロッドン殿も「うんうん」と頷きながら口を開く。
「まったくじゃ。そもそもアッシュのパワーはエゲつけないからのう。
それが更に強化されるとなれば、ワシらには想像もつかん怪力になっておるであろうよ」
そうロッドン殿が言うと、今度はその言葉に対してジャネスが「うんうん」と頷く。
「それよりも残りはストーンゴーレムぐらいだ。
コイツの甲殻を外してしまうので待っててくれ」
私は解体所で見ていた通りに甲殻を剥がしていく。
解体所で聞いたのだが、ロックセンチピードは基本的に甲殻しか持ち帰らないんだそうだ。
他のハンターも甲殻を剥がして残りは捨てて来るという。
とはいえ死体を置いておくと<悪食>が繁殖しそうだしなぁ……
「すまないがロッドン殿、後で<悪食>の所の壁を開けてほしい。
私があの中を何とかする」
「正気かい、アッシュ!? そんな事は他のヤツに任せりゃいいさ!」
「そうじゃぞ。ワシらはモンスターを倒す事でこの坑道が使えるようにすりゃええんじゃ。
それ以上する必要は無い」
「言いたい事は分かるんだが、こいつらの死体も残しておくと<悪食>の餌になる。
そうなるとまた大繁殖しかねないのだ。そうなる前に埋めておく必要があるだろう。
私の昇格試験を失敗にされても困る」
私がそう言うと、ロッドン殿は目を閉じて考え始めた。
ジャネスも何も言わない所を見るに、おそらく難癖をつけられる可能性はあるのだろう。
やはり私の想像した通りか。
「確かにアッシュが懸念しておる通り、失敗扱いにされる可能性が無い訳ではない。
特に繁殖しとったのが<悪食>じゃからの。
これがそれ以外ならば良かったのだが、<悪食>は……」
「こいつら繁殖力が高過ぎるんだよね。
そこを開けてくれたら、改めて私が【火魔法】をブチ込むよ。
流石にそれで完全に焼けるだろ」
「すまんが頼む。どうせやるならワシがさっさとやってしまうわ。
そもそも試験の監督もワシの査定に響くのだからな。
アッシュにとっては鉄級への試験じゃが、ワシにとっても評価を上げる為の依頼なんじゃ。
お互い様というところよ」
「手を抜いて試験を受けたヤツが失敗ともなれば、評価は確かに下がるだろうね。
試験とはいえ依頼だ。失敗したとなれば評価は当然下がる」
「まあのう。だからこそ失敗する訳にはいかんのだ。
ましてここは……の鉱脈じゃからな。国からの評価にも関わる。
疎かには出来ん」
「出来るだけ早く終わらせる為に、さっさと始めよう。
ここで話をしてても意味ないしね」
「そうじゃの。
アッシュよ、すまんがお主が持っとるスコップを貸してくれ。それで死骸を処理する」
「分かった」
私は背中の鞄を下ろすと、中に入れておいたスコップを取り出して渡す。
そしてロックセンチピードの統率者を解体し、甲殻と<混沌の種>を取り出した。
やはり思った通りにあったが、崩落現場に出てきた統率者よりは少し小さかった。
個体としては強い方が先に出てきていたらしい。
それもなんだかなと思ってしまうが、私は気を取り直して<混沌の種>を吸収すると、鞄に甲殻を詰めていき背負う。
そして<邪獄樹の棍棒>を右手に持つと、ストーンゴーレムへと近づいて行く。
どこまで近づけば動き出すのかは知らないが、モンスターもそれなりには近づいていた。
なのでそこまで反応はしないと思うんだが………
そう思うも、いきなり不意打ちなどは受けたくないので、私は少しずつ慎重にストーンゴーレムに近づいて行く。
すると2メートル程度の所まで近づいた段階で動き始めたのだが、その動きは遅く十分に距離をとる時間を稼げた。
2メートル以上離れたものの、一度動き始めると止まる事は無いらしい。
私がそのまま見ていると、ストーンゴーレムはゆっくりとした動作で動き始める。
これなら難しくはないかと思った矢先、それまでとは比較にならない速度で動くストーンゴーレム。
ブォン!!
「危なっ!? いきなり速い速度で動くとは………さっきまでの遅い動きはワザとか。
反応できなければ直撃を受けていたな」
石の拳。ようするに石の塊が当たっていたら怪我では済まなかった。
相手はモンスターなのだという事を肝に銘じ、舐めずに戦わねば。
まさかこんな方法で罠に嵌められそうになるとは思わなかったが、本当にしっかりと緊張感を持っていよう。
私は<邪獄樹の棍棒>を強く握ると、ストーンゴーレムの出方を窺う。
鉄の腕盾でも耐えられるかは分からないので、確実に回避する形で戦わねばならないだろう。
このストーンゴーレムは何も持ってないが、他のストーンゴーレムには得物を持っている者もいる。
そちらは要注意だな。




