03-21-0101
Side:アッシュ
私達は赤髪の人物を探すべくハンター協会に入ったが、ちょうどタイミングよくオーガ族の女性が居てくれた。
なので話をすると思いっきり渋面をされてしまう。
「そりゃ渋面もするさ。事もあろうに<悪食>を殺す為に手を貸せと言われりゃね。
あんなの見たくもないっていうのにさ、そんなのと戦う事になるなんて誰だってゴメンさ。
周りを見てみなよ、皆一斉に逃げたろう。当たり前の事だよ」
「とはいえ坑道が使えんと困るうえ、この町にも影響が相当に出るぞ?
その為にワシらが来ておるというのもある」
ロッドン殿がそう言うと、オーガ族の女性はジロジロとこちらを見て来た。
その後に口を開いたが……
「4番坑道には空洞が見つかり、中にはモンスターが大量に居た。
けど、掘った連中に聞いたら最初は居なかったっていう。
そして鉱脈などの確認をしていたら突如出て来たってさ。
となると空洞とどこかが繋がってるって事だ。
そして空洞には鉱脈があったとは聞いた」
「「………」」
私とロッドン殿は金鉱脈とは言えないので黙っているが、女性オーガはおそらく察したのだろう。
態度を少し変えてきた。
「どうしてもモンスターを排除しなきゃいけないなら、あたしは雇われても構わない。
ただし条件がある。
雇われるんだから当然お金は貰うけどね、あたしにはここに来た理由があるんだよ。
それは………この左手さ」
そう言って女性が差し出した左手は、いたって普通の左手だった。
いったいどういう事だ?
「…………ほら、見てみなよ。ほとんど動かせない。
あたしは毒切花を採取する仕事を請けたんだけど、その時にしくじってコレさ。
一月ほど前だけどね、コレの所為で銀級の夢も絶たれたんだ。
鉱山街ならいい【生魔法】使いか医者が居るんじゃないかと思って来たんだけど……
医者からは無理だと言われたし、【生魔法】使いは見つからなかった」
「つまり、その左手を治せる【生魔法】使いか医者を見つけてこいと?」
「その通りさ。それが出来るっていうなら、まとめて中銀貨1枚で雇われてやるよ。
どうする?」
「私は雇わせてもらいたい。
<悪食>と聞いて嫌な顔はされたが、それでも逃げなかったのは貴女だけだ。
他の者は雇ったとしても役に立たない」
「なら【生魔法】使いか医者を連れてきな。そしたら請けよう」
「先に雇われてはくれないか? 実は昇格試験なので一人で来ているが、私の仲間が王都に居る。
そしてその仲間はオレンジの髪の妖精族だ。なので必ず居るし紹介できる」
「オレンジの髪の妖精族って、まさか【拷問官】オースティフェかい?
………冗談じゃなく本当に?」
「というか、マーヤは嫌だと言われていたが、きっちり【拷問官】という二つ名は覚えられてるじゃないか」
「マーヤ?」
「正しい名前はオースティフェ・デム・マクゥーイヤファというのだ。
で、妖精族は名前が後ろだそうなので、マクゥーイヤファが名前となる。
でも呼びにくいので私はマーヤと呼んでいるんだ。
まあ、本人からもそう呼べと言われている事もあってだが」
「一応ワシからも言っておくが、アッシュが言っているのは本当の事だ。
そもそもマスターとも知り合いだったみたいだしの」
「割と親しげに会話をしていたし、その時にマスターが【拷問官】と言ったのだ。
マーヤは嫌っていたが、妖精族を侮辱したのだから当然だとも言っていたよ」
「侮辱?」
「【拷問官】と言われるようになった理由は、伯爵子息に対して治療と拷問を繰り返したかららしいが、そもそもの理由は「羽虫」と呼ばれたからだという。
それは妖精族に対する禁句とも言える侮辱だそうで、だからこそ治療と拷問を繰り返して心を壊したと聞いた」
「ああ………そんな酷い侮辱をしたのかい。そりゃ拷問されても仕方ない。
【拷問官】という名前は有名だけど、その理由までは知らなかったよ。
バカな貴族のガキも居たもんだ」
「その後に伯爵は子息の首を落として謝罪したと聞く。
伯爵はまともだったが、その子息は酷かったらしい」
「その話は横に置いておくとしてじゃ、それよりも構わんか?」
「そうだね。あの有名な銀10級のオースティフェ殿が居るなら後で構わないよ。
それじゃ、昼食を食べたら行こうかい」
「その左手で昼食は大丈夫なのか?」
「全く動かない訳じゃないんだよ。
毒切花の毒も毒消しを処方してもらったんだけどね、戻るまでに時間が掛かり過ぎたんだ。
モンスターに結構襲われてさ。
毒消しを持って行ってりゃ良かったんだけど、作成待ちだったんで逸って出発したのが失敗だった」
私達は女性オーガ族ことジャネスと共に酒場へと行く。
流石に仲間なら名前で呼べと言われたのだが、「殿」を付けられるのを嫌がったので呼び捨てとなった。
「そりゃね。「殿」付きで呼ばれるなんてムズ痒くなっちまうよ。
あたしの性格には合わなさ過ぎるのさ」
「そうなのか。
まあ、とりあえずは食事をしつつ話し合いと行こう。状況の確認の意味もある。
といっても、そこまで話せる事は無いが」
「あたしは全く知らないからね、少しでも話してもらえると助かるよ。
この町に来てから坑道になんて全く行ってないし」
「モンスターの居ない道がずっと続いておるだけじゃよ。
そして崩落現場から先に空洞がある。
そこまでは側道など無いから迷う事も無い。
そして空洞には言ったように大量におって食い合いをしておった」
「統率者が生まれかねない危険な状況だね。
<悪食>は虫だから違うといっても、元々はモンスターだって虫とかだったと聞いた事がある。
いきなり<悪食>がモンスター化しても驚きはないけど……」
「勘弁してほしいわ。蜘蛛のモンスターなどがおらねば際限なく繁殖するぞ。
蜘蛛のモンスターは<悪食>さえ食うからの、だから奴らは爆発的に増えたりせんのだ」
昼食を食べながら話を聞くが、知らない事ばかりなので覚えていく。
いきなり全ては覚えられないかもしれないが、少しでも覚えておけば引っかかって思い出すかもしれない。
こういうのは重要だからな、生き残る為には。
「<空気草>はあるので呼吸が出来ずに死ぬ事は無いが、火を着けた場合に耐えらえるかは分からん。
おそらく大丈夫であろうと思う。
アレだけの<悪食>が居て呼吸はできておるらしいのでな」
「そんなに居るってのの方が問題なんだけど、それは仕事内容でもあるから文句は言えないね。
それ以外はいいのかい?」
「一応アッシュの昇格試験じゃからの、なるべくアッシュ一人でさせねばならん。
それにアッシュならストーンゴーレムがおっても問題ないのでな、むしろワシのメイスが壊れるのもイヤじゃから任せるわ」
「私の方も石を殴ったら流石に壊れるかもしれないのだがな?」
「そんな事がある訳なかろう。
アッシュは知らぬかもしれぬが、かつて蛮族将軍は岩を叩き割っておるのだぞ? <邪獄樹の棍棒>で。
今も折れずにあるという事は、ストーンゴーレムを殴った程度で問題はないという事よ」
ロッドン殿の言葉を聞いたからか、流石にアレシュが驚いて聞いてきた。
「ちょっと待ちなよ。
その言い方じゃ、アッシュが持ってるのは蛮族将軍の棍棒って事になるんだけど?」
「その通りじゃ。王様から特別に下賜されておる。
前にロックセンチピードの統率者を攻撃しておったが、傷一つ付いてなかったわい。
ロックセンチピードの統率者は甲殻も壊され、頭も潰されたがの」
「とんでもないねぇ……アレだって岩の様に硬いからロックセンチピードって言うんだよ?
にも関わらず叩き潰されるとは……」
なんだか呆れられたような気がするが、それだけの代物なのが<邪獄樹の棍棒>だ。
建国王の傍に居た将軍が持っていた武器だけはあるという事だろう。
「あたしが呆れてるのは、アッシュのパワーなんだけどねえ………」
そっちは尚のこと驚かれても困るのだが?




