03-20-0100
Side:アッシュ
アースワームを倒した私達は先へと進んで行く。
ちなみに死体を放置したのは帰りに回収すればいいからだ。アースワームで売れるのは皮だけらしい。
なんでもアースワームなどのワーム系の皮は、基本的に水を弾くらしいので、雨具などに使用されている。
他にも家の屋根に掛けている所もあるらしい。
雨が多く降る地方では、雨で屋根が傷まないように掛けるのだそうだ。
確かに家が傷むのであれば、皮の方が安上りなのかもしれない。
家は建てるのに大きな金額が必要だ。それに比べれば……
「そうじゃの。とはいえほとんどは雨具にされるがのう。
っと、次はロックセンチピードの群れ…………」
ロッドン殿が黙るのも分かる。
ロックセンチピードは確かに居る、統率者よりも小さいのがだ。
しかし空洞の中ではそれだけでなく、小さな虫達との総力戦のようになっていた。
中には大きめの虫も居るのだが、そいつらがロックセンチピードを倒しているらしい。
「アレは虫が虫を喰らっているのか?
もちろん自然界では普通の事だが、モンスターでも似たような事は起こるのだな」
「アッシュ、それどころではない。あの小さな黒い虫、あれは<悪食>じゃ。
なんでも食って餌にする。
そこから<悪食>と呼ばれておるのじゃが、あの虫は本当にマズい」
「そうなのか?」
「あの<悪食>は何でも食う上に繁殖速度が早いのだ。
あまり大きくはない小さな虫であるが故にな。
弱点は火をつける事なのだが、今ある火はランタンしかない。
流石にこのままではマズいわ。後ろに下がるぞ」
「分かった」
私はロッドン殿が言うように後ろへと下がり、空洞の入り口から離れた場所で話し合いを行う事にした。
「あの<悪食>をどうにかせんと殲滅した事にはならんぞ。
しかしアレを殲滅するのは簡単ではない。
空洞の中には<空気草>も沢山生えておったので、息が出来んというのも期待できん。
あれは水さえあれば生きられるので重宝する草なんじゃ」
「しかし今は虫達の呼吸を手助けしているわけか。
仕方ないとはいえ、どうにもならないな。
火をつけるには松明を買ってくる必要があるが……」
「あの<悪食>の弱点は火だ。
やつらは異様に良く燃える虫でな、どうやら体に油を纏う事で何かしらを防いでおるらしい。
よく分からんが、研究者がそう結論をつけたのを知っている」
「油をな。
それなら確かによく燃えるだろうが………アレだけ小さいと火を着けるのにも苦労するぞ。
上手く出来るだろうか?」
「どう考えても無理じゃろ。一旦戻って対策を考えるしかない。
もはや鉄級の試験とか言うてはおれん。
アレを何とかせねば国が何を言ってくるか分からんのでな。
ハンター協会としても解決せんとマズいのだ」
ロッドン殿の言っている事も事実だろう。
そもそも王様から念押しをされたくらいだ。国としてもここの金鉱脈に期待しているのは確実。
それが解決できませんでしたは、相当に立場を悪化させる。
とはいえ昇格試験として単独で行うのは無理だろう。
あれほどまでに虫が大量に居て争い合っているとなれば、単独での解決は難しい。
更にはいたずらに刺激すると、私達が開通させた穴を通って出て来る可能性すらある。
そうなったら最悪だ。
しかも奥に見えたストーンゴーレムは動いてもいなかったので期待できない。
「そうじゃの、まったく動いていないという事は敵視しておらんという事じゃ。
それに虫達もストーンゴーレムには一切近づいておらんかった。なのでストーンゴーレムには期待できん。
それよりも、まずは一旦町まで戻るぞ。あの鉄10級の女ハンターを探すんじゃ」
「ジャネスと名乗っていた女性オーガ族か。
確かに彼女は赤い髪だったが、【火魔法】が使えるとは限らないぞ」
「鉄10級まで上がっとるのに魔法が使えんというのは、非常に考えにくい。
そこまで行けば己の力量は正しく把握しておるし、使える物は何でも使うようになっとる。
というか、そこまでせんと鉄10級には上がれんよ」
「なるほど、加護の魔法も使えないという者は滅多に居ない。
それが鉄10級という級位なのだな?」
「それぐらい厳しい依頼もさせられるのが鉄級じゃ。
銀級になれば更に厳しくもなるし、何より強制依頼をさせられるようにもなる」
私達は帰りながら話していたのだが、ロッドン殿が再び【土魔法】の【土操作】を使っている横で話を続ける。
「強制依頼?」
「その地方などで、どうしても解決できぬ依頼などを強制的に受けさせられるんじゃ。
それを嫌ってハンター協会に顔を出さぬ銀級ハンターも多い。
とはいえ実力としては最高位とも言えるハンターだ、当然だが解決を求められる。
どうしても駄目な場合は免除されるが、一応確認はせねばならん」
「どうしても無理な場合というのは?」
「例えば目的の場所にドラゴンが居座っておるとか、後は目的の物が既に無いとかの。
そういう場合には依頼自体が無効になり免除される。
それと既に依頼を請けておる場合じゃな。
この場合は先に請けておる依頼が優先されるので、請ける必要は無い」
「確かに嫌うのも分からなくはないな。
それぐらい面倒臭そうではある」
「とはいえ雑用依頼なら突っぱねられるので、そこまで気にするほどの事でもないのだがの。
下らぬ雑用なので滞っておる依頼もあるが、そんな雑用に銀級を使う事は許されん。
もしやれば支部長と副支部長が問答無用で解雇されるわ」
「銀級を都合のいい駒にされても困るからか。
そんな事になれば誰もが鉄10級で止めてしまうだろうからな」
「それだけではない。
ハンター証を紛失すれば木の1級から再スタートとなる。
つまり、いつでも銀級を辞める事は出来るのじゃよ」
「そんな事が多発したらハンター協会の信用も失墜するか。
とはいえ銀級に上がるのにデメリットが多ければ、当然銀級を辞めるだろう。
そこまで実力があるなら、木や銅の階級などすぐに超えられるだろうしな。
まあ、面倒臭がって鉄級への試験すら受けない可能性もあるが……」
「それもあるのう。
どのみち強制依頼は面倒なものが多い。だから基本的に銀級は別の場所に移動したりはせん。
自分のおる所なら仕方ないが、他の地域の面倒事まで引き受けたくないからの。
アッシュが初めての銀級の巡回狩人になるかもというくらいだ」
私達は町まで戻って来たが、ロッドン殿が驚きの事を言う。
つまり銀級の巡回狩人は一人も居ないという事か?
「そうじゃぞ。巡回狩人は鉄級までじゃ。
それも確か鉄4級ぐらいの者ではなかったかと思う。
それもあってマスターはアッシュに巡回狩人になれと命じたのかもしれんな。
強制依頼というより、実力者の巡回狩人として」
「なるほど、私をそう……っと、ハンター協会に着いたか」
「とりあえず入って聞き込みじゃ。
他の赤い髪の者がおったら募集を掛けるか」
「強制は出来ないから、地道に頼むしかないな。
最悪は松明と油で何とかするしかないが」
「そうじゃの。とりあえず<悪食>をどうにかせねばならん。
アレさえ何とかすれば、後はモンスターを狩るだけで済む。
しかし<悪食>はモンスターでさえない虫じゃからな、素材を含めて何の利益にもならん」
「それなら金銭を支払った方がいいかもしれん。
雇うという形なら大丈夫だろう」
「それならしっかりと実力が分かっておる者にしておけ。
金を払うと飛びつく阿呆がよくおるが、基本的にそういう連中は役に立たん。
実力者は高くつくが、それでも優秀な事には変えられん。
命が懸かっておるからのう」
確かにそうだ。命が懸かっている以上は、誰でもいいとはならない。
それだけ数多く雇えるお金があれば構わないだろうが、有象無象を連れて行っても死にに行くだけか。




