王都への招待状
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...人、ご婦人!」
扉を叩かれて目が覚めた。
寝たんか......私。
こんな状況で眠れるなんてどうかしている。
どうやら私は、思っている以上に神経が図太いらしい。
急いでベッドから立ち上がり、
せめてドアノブぐらい付けといてえな。
と、心の中で悪態をつきながら、扉を押し開けた。
外に立っていたのは、昨日騒いでいた男の一人だ。
ヴァリエスの問いに対して、
真っ先に返事をしたあの男。
「騎士長がお呼びです。」
「こんな朝早くに?人使い荒いな」
「いえ、もう昼です......。」
......そんなに眠っていたのか、私は。
自分の家のベッドでも、
まともに眠れた試しがなかった。
昔から寝つきが悪く、すぐに目覚めていた。
それに、早起きだけは誰にも負けなかったのに。
私は一旦扉を閉め、昨日借りた服に袖を通した。
それにしても身体が軽い。よほどぐっすり眠れたんだろう。
そそくさと外に出ると、
広場に乾いた音が響いていた。
大勢の男たちが、木で出来た剣を打ち合っている。
見覚えのある顔が多い。
どうやらあの後、
ヴァリエスから大目玉を食らったらしい。
「ご婦人!」
呼ばれた方向に顔を向けると、
彼が馬を連れて待っていた。
「あれ?馬は走ったらあかんのちゃうの?」
「いえ、それは”雑区“だけです。
ここから内壁を回って、王都まで向かいます。」
あの町、雑区って言うんや...。
そういえば、肝心なヴァリエスがおらん。
「あれ?ヴァリエスは?」
「騎士長は城にいます。乗ってください。」
少し早口になりながら、私を馬に乗せる。
彼が約束の時間を、
大幅に過ぎているのであろうことが伝わってきた。
背中に身を寄せる形で、同じ馬に乗った。
まさか、人生で一度も乗ったことのなかった馬に、
こうも続けて乗るなんて。
不思議な気分やわ...。
そんなことを考えている間に、馬は走り始めた。
居住区の合間を縫うように通ったが、
エルフ達は避けながら、怪訝そうな顔で私を見てくる。
......やっぱ、歓迎ムードってわけちゃうな。
「あ、ほんまごめんな。」
「何がですか?」
彼は前を向いたまま聞き返す。
「いや、私が起きひんかったから、約束の時間過ぎてるんやろ?
なんかあったら次は開けてくれてええからな。」
もちろん、本心では開けてほしくはないし、
彼の気遣いはありがたかった。
ただ。ここに身を置かせてもらってる以上、
あまり迷惑はかけられない。
「いえ、時間は過ぎてません。
私もつい先ほど、王都から戻ってきたところですから。」
「あ、そうやったん?なら良かったけど。」
「実は王都に行くのは今日が初めてでして。
朝から騎士長が、私を連れて行ってくれたんです!
城の外まで......ですが。」
彼は嬉しそうに続けた。
「でもこうして任を頂けました!
私みたいな、“若造”にです!」
「......一応聞くけど、あんたいくつなん?」
「歳は72になります!」
彼は張り切って答えた。
--“若造”って。
でもまあ、エルフにしては
かなり若い部類になるんやろうな。
妙に納得してしまった。
寿命が1000年程度だの、魔法が使えるだの。
そういえば、ヴァリエスは900歳ぐらい...か。
歳を重ねると数えなくなるんだろうか。
気持ちは多少わかる。......はず。
「ほんなら、私より歳下やわ!」
「本当ですか?てっきり、同じぐらいかと。」
「お世辞やめや!
エルフに言われても、案外嬉しいもんやな。」
自慢ではないが私は昔から、
歳よりも、かなり若く見えると言われてきた。
今でも、80代なのに60代後半に見える!
というような具合だ。
童顔。というわけではないが。
「申し遅れました!私は、エリセルと申します!」
彼が振り返りながら話した。
「私はサチコ。よろしくね。」
彼は不思議そうな表情で続けた。
「珍しい名前ですね。」
「私からしたらあんたらもそうや。
呼ぶとき、噛んでまいそうやもんな。」
エリセルと談笑しながら、しばらく走った。
--王都に近づくにつれ、景色が変わってきた。
二階建ての家屋が並び、
窓には小さなガラスがはめ込まれている。
昨日見た継ぎ接ぎの木造ではない。
馬はゆっくりと歩みに変え、
広い通りを緩やかに曲がった。
「もうじき城壁です!」
エリセルが嬉しそうに話す。
地面は石畳に変わり、きちんと舗装されている。
道はまっすぐで、幅も広く、
荷車や馬車がすれ違っても余裕があるほどだ。
行き交う人々の服も違う。
布は染められ、色がある。深い赤、落ち着いた緑。
上質な布をまとった者の袖口には、細かな刺繍が施されている。
雑区で見た、擦り切れた布とは明らかに違う。
通りに面して、看板が建てられている家屋もある。
パン屋、酒場、織物商--。
商人達は張りのある声で客を呼び込んでいる。
最後の城壁はもう、いよいよ目の前だ。
......高い。
昨日の壁よりも、はるかに高い。
塔が等間隔にそびえ、矢狭間が無数に開けられている。
城壁には戦いの跡が傷跡として、無数に刻まれていた。
大きく欠けたであろう部分には、新しい石が継ぎ足されている。
正面には、またも門があったが、開放されている。
城門の脇には、鎧を着た騎士が数人立っていた。
城壁の上からも厳重に監視し、
王都の門をくぐり抜けるものを選別している。
「道を開けてくれ。」
脇に立った騎士が、門周辺の人々に指示した。
「さて、降りましょう。さあ、こちらへ。」
エリセルは素早く馬を下りて、私に手を差し伸べた。
......結局、昨日と同じく、抱き抱えられる形になってしまったのは言うまでもないだろう。
この先が王都か。なんか急に緊張してきたわ...。
私は、エリセルと共に城門へと足を進めた。
--「この裏切り者が!!!」




