蒼晶の理
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しばらく、眠れずにいた。
彼のはからいで私は部屋を一つ借りたが、
どう見てもこの部屋はいわく付きだ。
この国の昔の名残りなのかもしれないが、
部屋は外側からしか鍵がかけられない。
鍵は既に破壊されているが、
扉の内側にはおびただしい数の爪跡があった。
この部屋の歴史を知ろうとするのは、
やめたほうがよさそうだ。
ありがたいことにベッドまで用意されてるが、
こんな場所でぐっすり眠れるはずがない。
この国はハリスヴェンド王国。
人間とエルフが共存しているらしい。
3つあった大陸の一番西、”レンドフェル大陸“の南東に位置する。
国王は、人間だそうだ。
空に浮かぶ青い塊は、
“蒼晶”。
およそ270年前、大地のマナが気化して蒸発。
純粋なマナの塊になって空に浮かんでいる。
落ちない理由は彼らにもわからないらしい。
マナは、言い換えれば魔力といい、
大地の地脈を循環して微量に流れている。
その流れが滞り、何百年もかけて結晶化したものを、
“魔晶石“と呼ぶ。
エルフ達はその魔晶石を使い、
内部に残ったマナを引き出すことで
あらゆる魔法が使える。
だが、マナが枯れるとただの石になるそうだ。
大地のマナ循環が滞り、
地脈の流れが止まると、その土地は死ぬ。
草も生えない、作物も育たない、
不毛の地になるらしい。
魔晶石は本来、存在してはならないのだと。
あの怪物は、“魔獣”。
王国周辺の悩みの種となっている。
私が倒した魔獣はリザードマンといい、
通常個体は1mあるかないかぐらい。らしい。
あのリザードマンは、突然変異で巨大化した、
いわば、“異獣”。
ここ最近、異獣の報告が後を経たないという。
地面の下に、見えない力が流れている。
81年生きてきて、
そんな話は一度も聞いたことがなかった。
彼の名はヴァリエス。ハリスヴェンド王国、
”蒼晶騎士団“の騎士長であり、900歳ほど。
エルフの寿命は1000年程度で、
ある一定から老化が止まるらしい。
最後は突然、跡形もなく消え、骨も残らないそうだ。
...にわかには信じがたいが。
彼は長年にかけて、
この王国を危機から守って来た、いわば英雄だ。
それなのに。
門が開いた時、誰一人として彼に視線を向けなかった。
それがどうも引っかかる。
魔晶石を使わなければ魔法を使えない彼らにとって、
蒼晶は奇跡の産物だ。
魔晶石を持たずとも、範囲内であれば魔法が使える。
王国の安定は蒼晶と共にある--。と。
彼らの居住区が蒼晶の下に位置するのは、
蒼晶を守るためだろう。
...だが。蒼晶が原因で、
魔獣が変異している可能性がある。と彼が言った。
原因は不明だが、
ここ数年、突然異獣が現れたらしい。
そのため、エルフ達は緊急時以外に、
ヴァリエスの許可なく魔法を使うことは
固く禁じられている。
--あの光の原因はわかった。
蒼晶のマナを使って魔法を放つと、
蒼晶そのものが一瞬、発光する。
強い魔法ほど、強く輝く。
ヴァリエス曰く、
あの時私の剣に流れ込んだマナは、
尋常ではない量だったらしい。
ただ、異音の原因は全く不明。
彼は、何も聞こえなかった。と話した。
幻聴かもしれない--。私も疲れている。
聞こえてきた“声”については、彼には話さなかった。
剣は彼が回収していった。
なんでも、剣自体が直接マナを吸収している可能性が
高い。とのことらしい。
人間の私が魔法を使えるわけはない。
そこの意見だけが、唯一納得できた。
......全く、わけわからん。
蒼晶とかマナとか異獣とか。
頭パンクしそうやわ。
夜風に当たろうと外に出たとき、
夜なのにとても明るく見えた。
蒼晶の光が、夜を青白く照らしている。
私にはそれが少し、不気味に感じた。
この蒼晶は、希望なのだろうか--。




