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第17.5話:『ifの彼方で——それぞれの対話』星乃ヒカリの空間:静かな部屋

静かに分岐空間へ導かれたタロットたちは、それぞれの“if”——選ばなかった選択肢と対面していた。その空間は一人ひとり異なり、まるで心の奥底を可視化したかのようだった。空も地面も、記憶と後悔と願いで構成された幻影。だが、そこに映っていたのは紛れもなく、彼ら自身の“もうひとつの可能性”だった。

白い壁紙、静かな木目の床。どこにでもあるような小さな部屋に、少女は座っていた。


アイドルではなく、ただの“星乃ヒカリ”として過ごす日々。


朝起きて、ご飯を食べて、少しだけ読書して、音楽も聴かずに眠る。誰にも求められず、誰にも応えない生活は、心地よい沈黙に包まれていた。


彼女は歌を歌わず、誰の前にも立たなかった。


周囲からの期待も、視線も、声援もない日常。あのステージの喧騒は幻のようで、彼女は一度も“声”をあげることはなかった。


だが——その瞳だけが、どこか遠くを見つめていた。


「……静かだね。何も起きないし、誰も泣かないし、誰も傷つかない」


それは、穏やかで、平和で、そして——あまりに寂しかった。


彼女は机の上の小さなスピーカーに触れた。通電すらしていないそれは、かつての自分の象徴だった。


「誰にも聴かせなくていいと思ってた。自分だけが満足できればいいって。でも……」


窓辺に立ち、空を見上げる。そこには、どこまでも広がる青があった。雲ひとつない空は、美しく、けれど——何かが足りなかった。


「私……やっぱり歌いたかったんだ」


その呟きに応えるように、空から柔らかな光が差し込む。


その光は彼女の背に降り注ぎ、肩を、背中を、胸を温かく照らしていく。


そして——音が聞こえた。


遠くから、微かに届いたのは、かつての自分が歌った旋律。誰かが口ずさんでいる。誰かが、それを覚えている。


ヒカリの頬に、涙が一筋だけ流れた。


「歌いたいって思っていいんだよね……もう一度、あの場所に立ちたいな」


少女の背には、再び“ステージ”へとつながる道が開かれていた。

そして——

すべてのifが過ぎ去ったあと。

全員は一つの場所に集い、互いの選ばなかった未来を見送り、それでも“今”の自分を、もう一度見つめ直していた。

そこには、選ばなかったことの意味を携え、今を選んだ“彼ら”がいた。

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