第17.5話:『ifの彼方で——それぞれの対話』不破ミツルの空間:崩れない塔
静かに分岐空間へ導かれたタロットたちは、それぞれの“if”——選ばなかった選択肢と対面していた。その空間は一人ひとり異なり、まるで心の奥底を可視化したかのようだった。空も地面も、記憶と後悔と願いで構成された幻影。だが、そこに映っていたのは紛れもなく、彼ら自身の“もうひとつの可能性”だった。
整った街。規律のある人々。豊かに整備された都市機能。中央には、荘厳な塔がそびえ立っていた。
それは誰にも壊されず、何の災害にも襲われず、ただ悠然と存在し続ける象徴だった。
——理想郷。あるいは、牢獄。
「すっげぇな……完璧すぎて、笑えてくる」
ミツルは街を歩きながら、胸元のペンダントを無意識に弄ぶ。爆破系スキルなど必要とされないこの世界で、彼の力は存在価値を失っていた。
彼のスキルは一度も発動されず、誰も傷つけず、誰も恐れない。すべてが平和で、すべてが安全で、すべてが予定調和だった。
だが、その空気が彼には堪らなく息苦しかった。
「壊れないって、安心なんだろうな。俺以外の奴らには、たぶん」
彼は塔の前に立ち、ゆっくりと手を伸ばす。手のひらを、無傷の石壁に当てる。その表面はひんやりと冷たく、まるで意思のない彫像のようだった。
「でもさ……俺の“手”ってさ、壊すためにあるんだよ」
塔の基礎に触れたその瞬間、かすかに石壁が軋んだ。
それは幻かもしれない。だが、ミツルの心には確かに熱が灯った。
「崩れる音が好きだ。再誕の兆しが、好きだ。壊すってのは、終わりじゃねえ。始まりだ」
塔の影が彼の身体を覆う。だが、彼の目は闇を恐れなかった。
「平和すぎて……息苦しいな。少し、壊してやろうか」
その言葉は、祈りでもあり、呪いでもあった。
彼は一歩、塔へと近づいた。足音が響くたびに、世界の空気が揺らいでいく。
——そして塔は、微かに震え始めた。
そして——
すべてのifが過ぎ去ったあと。
全員は一つの場所に集い、互いの選ばなかった未来を見送り、それでも“今”の自分を、もう一度見つめ直していた。
そこには、選ばなかったことの意味を携え、今を選んだ“彼ら”がいた。




