夜の散歩
モロンジュを連れて夜の散歩。
不機嫌な千種の後ろで、どうしたものかとヴィオラが続く。
アスハが来るので家には居られなかったわけだが、結果としてモロンジュを一匹にしてしまった。
世話を頼まれてたのにヴィオラがいなかったことに千種が腹を立てているわけだ。
本当のことを話すわけにもいかず、文句を言わせるだけ言わせて、気が治まるのを待っていた。
(人間の子供やあるまいし、そこまで世話する必要もないと思うけどな)
千種は少々過保護すぎるんじゃないかと思うが、自分も千種に過保護だったのだ、気持ちがわからないでもないので何も言わなかった。
「なーなー、学校どうやった?」
「学校? 別になんとも。水衛が教室からあんまり出なかったから楽だったわね」
「あー……うん」
ハルの監視が目的だと思い込んでるが故の感想だが、聞きたいのはそんなことじゃない。
「でもあれやな、初日から友達連れてくるくらいなんやから、もっと友達できるかもしれんなー」
「どうだろ? ただ男はムカツクわ」
「お? なんかされたんか?」
「呼んでもないのに何人かに声を掛けられた。彼氏はいるのかとか、携帯番号を教えろとかうるさいんだあいつら」
「ほぉ!」
意外だった。
(まさか千種が男にモテるとはなぁ)
ツンツンした性格がアダになるかと思いきや、そうでもないらしい。
ひいき目に見ても千種はスタイルが良いし、黙っていれば顔もいいほうだろう。
社交性のある性格なら、人気者になっていたかもしれない。
「ほんでどないしたん? にぃちゃんとアス……後輩の彼氏以外の男の知り合いはできたんか?」
「だから男はムカツクって言ったでしょ。近寄ってきただけで蹴散らしてやったわよ」
比喩ではなく、本当に蹴ったのかもしれない。
「……まあ人それぞれやし、そのうち千種の気に入る男も出てくるで」
そうなったら家に連れてきたりするんだろうか。
そのまま付き合ったり。
ボーイフレンド?
「ああああアカンで! ウチはそう簡単に千種をやらんからな!」
「はあ? なに言ってんの?」
今まで色恋沙汰には無頓着だった子だ。
好きな男ができたら一気にのめり込んでしまうかもしれない。
「ええか、簡単にキスとかすんなや? ファーストキスは一生もんなんやからな、簡単に許すなよ!」
「急にわけわかんない。キスならもうヴィオラとしてるじゃん」
千種が小さいころに、あまりに可愛いものだからキスをしたことがある。
「あー、そやったな、ファーストキスはウチがもらったんやったー……それとこれとは別や! あれはなんちゅーか……とにかく別もんなんやて!」
「うるさい。夜なんだから騒ぐな。心配しなくても、男とキスなんてこっちからお断りよ」
今はそう言っても、好きな相手ができれば簡単に気持ちなんて変わるものだ。
「あーどないしょー。行き遅れんのは困るけど、まだ早い気もするしなー……」
「……なに言ってんだか。もう少しこの子遊ばせたら帰るから、先に帰ってれば?」
「ええねん。ウチも散歩したい気分なんや」
千種の交友関係がどうあれ、こうやって二人で歩ける時間はもうあまりないのかもしれない。
夕刻に会った能力を持った子供。
あいつは明確に自分を殺すと言ってきた。
その時の事はクラリスに全て話したし、あいつに従うつもりもない。
ただ、自分が無事でいられる保証もない。
こんなことは初めてだったが、焦りや恐怖はない。
それにクラリスが数年前に、この街には自分たち以外の能力者がいるかもしれないと言っていたのだ、それがあのユメリの姿をした子供だったとしても驚くことはなかった。
高い確率であの子供を迎え撃つことになるだろう。
そうなったら家を空けがちになってしまう。
こんなときに千種に友人ができたことは、本当にタイミングが良かった。
少なくとも一人で過ごす時間は減るだろう。
「なにぼーっとしてんの?」
「お? おお。ちょお考えごとや。それよりや、久しぶりにラーメンでも食いに行かへんか?」
「これから? モロンジュがいること忘れないでよ?」
「わかっとるわ。チビッコロがいても大丈夫なようにするさかい行こーや」
「ご飯食べたばっかりだからお腹空いてないけど、どうしても食べたいの?」
食欲はないが、今は千種と外食をしたい気分のヴィオラ。
「食いたい。飯食うたかて、ラーメンの一杯くらい食えるやろ?」
「しょうがないな。明日も学校あるんだから、あんまり遅くなるのはダメだからね」
「ほいほい、そんじゃ行こかー」
ヴィオラは千種と腕を組んで並んで歩いた。
昔は下から見上げていた娘も、今では腕が組めるくらい成長した。
十年は長いようで振り返ればあっという間だった。
こんな感傷に浸るのは、少しは歳をとったからだろうか。
楽しそうな二人の気配を感じ取り、モロンジュも一層シッポをふって前を歩くのだった。




