華と目を逸らしていた現実
「と、まぁ、こんな感じの絵本にあるように…」
「ギルバーナなんて言葉出てねぇじゃねぇか。」
結局デュランタがどこからともなく持ってきた絵本を読まされた。
だが、こいつの云うギルバーナとやらが全くと言っていいほど出てこなかったので、俺はつい思わず遮ってそう指摘する。
デュランタは口をとがらせ不機嫌そうに、
「うっせぇな。コイツは新興派の絵本なの!多分。だからフォルソーン一人が活躍しちゃってんの!!」
ガキみたいな口調でいい年したおっさんがプンプン怒っているのを見て、俺は軽く引きながらも疑問を口にした。
「何だよ。ハダート派ってのは。」
「あぁ〜あ、ほぉんとカナンくんは世間知らずでモノ知らずですねぇ。こんなの一般教養ですよぉ〜?」
どこかの食堂の店員を彷彿させる物言いにイラッとする。
「教会の二大宗派だよ。新しい方の派閥、ハダート派は聖者フォルソーン至上主義で、《奇蹟》は選ばれた者であるフォルソーンと信者にのみ与えれらたものだって謳ってる。《異能》を迫害し始めたのもコイツららしいな。もう一つの原典派は《異能》に対してそこまで差別的じゃないとは言われてるが、だからといって《異能持ち》を進んで保護してるって訳でもなさそうだな。」
そう説明をされるとなんだか昔そんな話を聞いたことがあるような気もしてくる。
そう言えば俺の昔いた教会の牧師も、特に《異能持ち》に悪意を持ってなかった。
俺たちを襲ってきた聖騎士どもも同じ宗教の教会の筈なのに何故なんだと思った事もあったのが…、もしかしたら俺たちのいた教会はそのハトハル派ってのだったのかもしれない。
「まぁ、そんな教会の歴史は今はどうでもいい。今問題なのは世界の歴史だ。」
そう言いながら、デュランタは最初のページのボロボロの風景を描いた部分を指差す。
「このページが表現しているのが『世界崩壊』、かつて壊れかけた世界を救済の聖者フォルソーンが修復し、ほぼ崩壊しかけた世界を再生したという伝承だ。」
『世界崩壊』、さっきもデュランタの口から出た言葉だ。
一応聞いたことがあるといえばあるんだが、神話レベルの昔話だ。確かにこんな感じの話だったような…少し違ったような気もするんだが……、あらすじとしては同じようなものだ。
大昔に世界が壊れかけて、カミサマだかその使いだか…、ここではフォルソーンが《奇蹟》を起こし世界は救われた。
そんな退屈なお話だが……、
「こんな昔話に出てくる大災害が実際にあったとでも?」
「そうだ。」
間髪入れずに断言するデュランタに思わず口を閉ざした。
「そもそも、『世界崩壊』を引き起こした原因こそが《まのモノ》と書かれている存在。つまり俺たちが《異形》と呼んでる奴らだ。」
にわかには信じ難い話だ。
《異能》のような特殊な攻撃以外ほぼほぼ通じない奴らは、確かに異常な存在だ。
この絵本の絵にあるように溢れんばかりに無限に存在すれば、まぁあり得るだろうが…、
「大昔は《異形》がこんなに存在してたってのか?フォルソーンは本当に絵本の通りになんとか出来たってのか?」
どう考えたってあり得ないだろう。
幾ら凄まじい《奇蹟》を持っていたとしても、たった一人で世界中に現れた《異形》をどうにかするなんて。
「ところがどっこい、なんとか出来ちまったらしいな。」
そう言いながらデュランタはページをめくり、とあるページのセリフを指さした。
『またいつ«マモノ»がむこうがわからくるかもしれません。』
聖者フォルソーンらしき人物のセリフだ。
「この『むこうがわ』。ソレこそが《異形》の存在する場所だ。世界崩壊の時に崩れ落ちた向こう側とこちら側の壁を、フォルソーンはどうやったかは分からないが修復し、こちら側に顕れた《異形》を、本来あるべき場所へと還した。」
こちらだの向こうだの曖昧な表現だ。というか、
「壁ってのは何処のだよ。てか本来あるべき場所ってのは何だよ。」
「ソレは言えない。」
当然の疑問をバッサリと切り捨てたデュランタの顔を思わず睨む。
しかしデュランタは睨む俺を無視し話を続ける。
「向こう側に還された《異形》だが、それでもこちらに顕れて来る。向こう側とこちら側の境目にある僅かな隙間を通って。その隙間を俺たちギルバーナは、《穴》と呼んでいる。」
この絵本の通りだとすれば、向こう側とやらは物理的なものではなく、異界……とかそんな怪しげなモノなのだろうか?
だが、確かに《異形》どもはそうとしか思えない存在ではあるが。
「……結局、《異形》ってのは何なんだ?」
少なくとも人の敵だってことは理解している。
生き物を殺す。普通の攻撃が通じない。その存在を認識するものが増えると強くなる。
そして―――俺の中にも存在している。
俺が分かっているのはその程度だが、デュランタ…いや、ダイモン・ギルバーナは当然知っているだろう。
しかし、
「言えない。」
やはり迷うことなくそう即答された。
「……俺にもソレが混ざっているんだろう。なら俺にも知る権利があるんじゃねぇのか。」
口にするのに若干戸惑いが生まれたが、流石にもう今の現実から目を反らせる状況じゃなくなった。
《異形》が俺の中にも存在している…。
それは紛うことなく事実なのだ。
26.9.23 一部修整。




