ダイモン・ギルバーナ
世界を調整する…ギルバーナ一族…。
随分と大層な言葉に、
「……………………そうか。」
俺は長い沈黙のあと、そう呟くように返すしか出来なかった。
おそらく…リンドウが言ってた、劇場の修復が終わってから演る予定の演目の役なんだろう。
役者らしく役にのめり込んで、ついには本気で思い込むようになったのか。
役者としてはいいことなのかもな。人としてどうかは知らねぇが。
「ちょっと待った!!えっ!?ナニその反応!その痛い人見るような蔑んだ冷たい目!!!」
デュランタが慌てたように俺にいうが、
「蔑んだつもりはねぇ。憐れんでるだけだ。」
首を横に振り俺は正確な心情を伝える。
若干関わりたくないと云う心境もあり、もしかするとそんな思いが俺の視線を冷たくしてるのかもしれない。
「え!?何で!?アレだよ?本当に本当のこと言ってるからね!?妄想とかそんなんじゃなくて、俺本当にギルバーナなんだよ!?」
「別にそこを疑ってるとかじゃねぇよ。……そもそも何だよ、そのギルバーナ一族ってのは。有名なのか?」
エラい勢いで弁明してくるが、そのギルバーナ一族とやらは実在する存在なのだろうか。
「そこからっ!?えぇっ!!知んないのッ?聖者フォルソーン位有名だよ!?教会にある絵本にだって載ってるんだからな!?」
どうやら有名らしいが、聖者フォルソーンとタメはれるってのはフカし過ぎだと思う。絵本に載ってるというのが本当なら、確かに有名なんだろう。本当ならば。
少なくとも俺が昔いた教会にはそんな絵本はなかったな。カミサマとやらが壊れかけた世界を救う為になんかしたとか、そんなんなら見たことがあったかもしれねぇけど。
そのまま放っておくとその名前が出てる絵本を取りにいきそうだったので、それを引き止め、
「それで、その世界の調整係サマが…何故俺に攻撃してきた。俺の左肩の何を知っている?」
俺は気になる事を自称『ダイモン・ギルバーナ』ことデュランタに尋ねた。
「あー、うん…それね。まぁ、ぶっちゃけ見たから。」
さっきの威風堂々した態度はどこへやら。気の抜けた雰囲気でデュランタは答える。
「見た…だと?」
一体何をだと、俺の疑問が伝わったのかデュランタは続ける。
「お前は気を失ってたから知らないだろうけど、そもそも学舎からお前を拾ったのが俺なんだよ。」
「何だと…?」
デュランタの顔を睨むように見つめるが、目の前の男はウンウンと頷いてみせてから腕組みをし、何かを思い出すように宙をみる。
「爆発後の学舎のデカい部屋で倒れてたトコをな。その時もお前の左肩が昨日みたいに嫌な光り方してたんだよ。…………そんでお前さ、どこまで自覚してる?」
デュランタの気の抜けた顔つきがふと真顔になる。
巫山戯てるのか真面目に話を進めたいのかどちらかにして欲しいもんだ。
「……何をだ。」
「《異形》になりかけてる事。」
苛立ちながら尋ねれば、間髪入れずに返ってきた言葉に俺は息を飲んだ。
今までなんとなく感じていた感覚をあっさり言い当てられ、今更ながら動揺する。
何も言えず黙る俺に、デュランタはボリボリと頭を掻きながら、
「ギルバーナは《異形》を倒すことを己が使命と課している。《異形》が世界を脅かす存在である事、ギルバーナは遥か昔からその理を一族に伝え続けて、そして狩り続けている。」
静かにギルバーナの役割をデュランタは話す。
「……それで、昨日俺を処分しようとしてたってことか。」
サージェスの言っていた事は嘘でも誤解でもなかったわけか。
理由は理解出来た。だが、心のどこかでモヤモヤとした不快な何かが広がっていく。
(……ばかか、俺は。こんな理不尽な事なんざ……今更だろうが…)
デュランタにとって、そしておそらく媛さんたちにとっても…俺は見張るべき厄介事で、道具でしかないのだ。
自分でも気づかない内に、仲間意識でも持ってたんだとすれば、余りに滑稽な話だ。
気がつけば強く握りしめていた拳の力を俺はゆっくりと抜いた。
「………殺すならさっさとしろよ。別に抵抗する気はねぇ。」
俺は斬りやすいように軽く腕すら開いて、デュランタに促した。
デュランタはそんな俺をどこか呆れたように眺めてから、はぁ〜ッとわざとらしい位デカい溜め息をついて見せた。
「お前ってさ〜…、ホントにさ〜…。」
そうしてまたボリボリと今度は首の後ろを搔いてまた溜め息をつくデュランタに、俺は顔をしかめる。
心底バカにされているような感じに、
「何だよ…いった…」
「正直な…わかんねぇのよ。」
噛みついてやろうと口を開くと、かぶせるようにデュランタがまた話し出した。
「……何がだよ。」
舌打ちしながらデュランタの言葉を問えば、デュランタは顎に手を当て、うーん等とコレまたわざとらしい仕草で悩んでみせる。
「昨日は確かにな、お前を仕留めようとはしたんだよ?本意じゃないけども。でも邪魔が入って失敗して〜、どうしようか改めて悩んでぇ、んで、もしかしたら失敗して逆にラッキーだったかも?と、思い直したのよ。」
先程の真面目な顔をどこにやったのか、普段の緩んだ口調で呑気な事をのたまい始める。
「……何をだ。」
苛つく俺に「そんなピリピリすんなよ。」と肩を竦め諭すデュランタに更に苛つかされる。
「《アレ》が獣だの植物だのの身体を依り代にこちらに顕れた事は何度もある。だがだ、生きてる人を依り代にしたって話は今まで聞いたことがない。」
また真顔に戻ったデュランタが説明を始め、俺は口を閉じる。
「人の身体が駄目ってわけじゃない。生きた屍ってのも、おそらくは《アレ》の依り代になった結果で生まれた化物だろうし?だけどな、依り代に自我が残ったまんまってのは郷でも記録にねぇんだわ。」
デュランタは暫し空中を見て記憶を探る素振りをした後、軽く首を振って思い出せないアピールをする。
「…お前らが知らないだけじゃねぇのか?」
訝しげな視線をデュランタに向けながら可能性を提示する俺に、「かもな。」と軽く返してきた。
「だけどな、お前みたいなのが自然に出てきたのならヤるのも仕方ないかなって思うんだけど、人為的にお前はそんなんなっちゃったじゃん?偶然そうなったのか……或いは狙ってやってのかで話が違うっつうか。」
「一体何が言いたいんだよ。」
デュランタが何を言いたいのか理解できずに俺は急かす。
「お前を殺すこと自体が最悪な結末になるかも知んないって話だよ。例えば…」
「『世界崩壊』の再来とかさ。」




