華と安らぎのない昼食会
………結果、断れなかったわけだが。
昼と言うには少々早い時間、劇場から少しばかり離れた小さな食堂の中へと入る。
あの後、頭を回してみたものの…巧い言い訳など思い付く事もなく、結局俺はサージェスと昼食をとる運びとなってしまった。
始めはこの男の行きつけとやらに連れていかれそうになったが、流石にそれは拒んだ。
おそらく育ちのよいであろう男の行きつけなぞ俺みたいな手合いが落ち着けるわけもなく、それ以上に何を探っているかわからない相手にホイホイ付いてけるわけもない。
本当ならいつもの安酒場に行こうとも思ったが、考えてみればこんな時間には営業してはない。仕方なく通りすがりにあったこの店にしたのだ。
こんな時間だからか客は俺たち以外におらず、店主に席はどこも空いているから適当にかけてくれと言われた。すぐに立ち去れるように入口付近に座ろうとしたが、サージェスの方が一足早くさっさと奥の席へと進み席に着いた。
面倒だという気持ちを隠さずにため息をつく俺を気にすることなく、サージェスはテーブルに置いてあるメニューを俺に手渡して来る。
「なんでも好きなものを頼んでくれ。」
どこか不敵な笑みを浮かべて頼もしげにそう言った。
(太っ腹な事だ)
俺は特に遠慮することもなく今欲しいものを注文することにした。
「エール…いや、生命の水。あと、この川魚の塩漬け。」
つまみの肴と普段より上等な酒を注文してメニューをサージェスへと渡すと、サージェスが真顔でこちらを見つめる。その目は信じられないモノを見るような、なかなかに失礼な視線だ。
何故そんな目で見られなきゃならないの分からないが、俺は程なくして届いたソレらに手を伸ばしたが、何故だかサージェスから待ったがかかった。
「待て待て待て待て…。昼前に酒…、しかも他につまみ程度で食事らしい食事も並んでないぞ。………まさかそれでお仕舞いではないよな?」
サージェスからそんな指摘が入る。
別にこの後仕事らしい仕事なぞないから問題はない。
もしかしたら≪異形≫関連で何か起きるかもしれないが、その時はその時だ。そんな事を考えていたらいつになっても酒など呑めない。
「この後は帰って寝るだけだから問題ねぇし、俺は大体昼はあまり食わない。」
フジやデュランタにはもっと生活を改善しろとか言われてるが、飯を食うのはめんどくさいし、そんなのに金かけるより酒を呑んだ方が気が紛れる。
「いやいやいやいや、お前はまだ20歳位だろう?必要な食事量が全然足りてないだろう!?というか、こんな時間なのに帰って寝るだけ!?怠惰が過ぎる!!!それに飯は抜くな。不健康極まりない!!!」
この男…先ほどまで"君"呼ばわりだったくせにいきなり距離感がおかしくなった。どうやらデュランタと同じお節介な型のようだ。傍迷惑な説教をしだした。
「止めてくれ。今までこれで大きな問題は起きてないんだから構うな。そういう世話はアレ…だ。あの光の神子さんにでもしてやれよ。」
危ない。ついアレイシアの名がすんなり出ちまうとこだった。昨日あの時限りの間柄で名前を気安く呼ぶのはおかしいだろうしな。
「……アレイシアはその手の事で世話を焼く必要は無い。フォルソーン教の教えの中には健全に日々を過ごすというものもある。申し訳ないが俺の目の前でその様な不健全な行いを見逃すことは出来ない。」
今度は俺が信じられないモノを見るような目でサージェスを見た。
(……真面目すぎるだろう、この男。仮にも礼をすると言うのならせめて好きなものだけ注文させろよ……)
拒絶する俺を完全に無視し、サージェスは普段の俺では決して食わない位の量の料理を注文し始める。
暫くするとテーブルにズラリと並ぶ彩り豊かな料理が並んだ。
「……おい、こんなに俺は食えねぇんだが?」
額を手で押さえ呻くように抗議してみたが、
「成人した男ならこの程度は平均的なものだ。身体を使う職に就いているなら尚の事この程度の食事を常日頃取れ。」
腕組みをし威圧するように命じるサージェスの行動に深々とため息をつく。
(違う意味面倒なことになった気がする………)
俺は更に憂鬱な気のままフォークを手に取るのだった。
アクアヴィテとは蒸留酒の事になります




