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悪花狂乱  作者: 謙作
第五章 過去に沈む真実を探して

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華と要らぬ炎の礼


 炎の拳神サージェス…、昨日はデカ虫相手に善戦したものの、途中でペロを庇いに行った結果、戦闘不能になったまでしか知らないが…。


 「…………何であんたがここに?」

 カナン()と目の前にいるこの男が顔を合わせたのは昨日が初めてだ。当然丁寧に自己紹介をしたわけでもなければ、勤め先を伝えたわけでもない。

 この男と一緒の茶番は片手で数える程度しかしてないが、アレイシアみたいな間抜けと違い気は抜けない。

 何を言っても下手を打ちそうで言葉少なく問いかけるしか出来ないが、正直何故俺がここに居ると知ってるとか、一体俺に何の用があって来たのだとか詳しく聞きたい。


 俺はちらりとマドンナの方を見ると、コイツは澄まし顔で髪をさらりと後へ流しながら、

 「(ワタクシ)はこれから次回の舞台の稽古があるの。お構いできなくてごめんなさいね?」

 気取った口調でそんなありもしない予定を告げた。サージェスはそんなマドンナに軽く頭を下げる。

 「お忙しい中案内頂きかたじけない。」

 堅苦しい謝礼をしたサージェスに「お気になさらないで。」などとこちらもお行儀よく返してさっさと立ち去る。

 (…まぁ、舞台の時ならともかく普段は別に頼りにならないからな…アドリブに弱いし)


 マドンナがさっさとホール側の建物に去っていく姿を見届け、サージェスは俺の方に向き直った。

 「昨日は教会(こちら)の手落ちで怪我を負わせてしまったようで申し訳ない。」

 そんな事を言いながらどういうわけだか花束を差し出してきた。



 ( ――ッ!!?)


 何故花束が差し出されたのかわからない。

 "何のつもりだ?"その問いかけは目の前の花のせいで俺の頭から吹っ飛んだ。


 ―― 目の前にある花が見覚えのある紫色の花だったからだ。


 「どうかしたか?この花に……――!?」

 花束を差し出した時にはサージェスのこちらを試すような気配だったが、俺の顔を見て驚きと戸惑いへと変化する。

 サージェスの顔など見なくてもその感覚が俺に届いていたが……どうでもよかった。


 俺の目は紫色の……夢の中でハンナが語っていたあの教会の花壇の花束に釘付けだったからだ。

 「大丈夫か!?どうしたんだ!!顔が真っ青だぞ!!」

 慌てた様子でサージェスが声をかけてくる。よほど酷い顔色をしてたのかもしれない…。

 俺はなんとか花束から視線を外し「何でもない」とだけ返した。


 「それで……、ソイツは目当ての役者にでも渡せばいいのか?」

 気を取り直し、なるべく視界にその花を入れないようにしながら俺はそう問いかける。

 ここが劇場である事を考えれば、それはごく普通の推測だ。

 しかし、

 「……いや、君にだが?」

 推理から導き出された言葉で問いかけるがあっさりと否定された。

 ……俺に?…何故花束?

 先程と同じように花束を差し出したままどこか探るような感覚を滲ませ俺を見つめる拳神。花束に対しての俺の反応をどこか窺っている様ではあるが…。………………まさか…、

 「……すまないが、俺にそのテの趣味はねぇ…」

 「違う!見舞いの花だ!!」

 ひきつった顔で大声で被せ気味に否定してきた。小さな声で「どいつもこいつも…」とブツクサ云っている。…やはり教会の牧師だの神官だのはソッチの趣味のヤツが多いイメージがあるからそう勘違いされるのもまぁよくあるのだろう。


 花を愛でる趣味も持ち合わせてはないので正直いらないが、突き返して揉めるのも面倒か。

 「……まぁ、ありがたく受け取っておく。……用がこれだけなら俺はもう行かせてもらうが。」

 あまり長く会話もしたくないので、花束を受けとりさっさと立ち去ろうと試みてみる。

 が、

 「まぁ、そんなに慌てて立ち去らなくてもいいだろう。昨日はアレイシアが色々と世話になったようだし…。どうだろう?昼飯にしては少し早いかもしれないが、礼と詫びにご馳走させて貰えないか?」

 そんな事を抜かして来た。

 まぁ、多忙な≪奇蹟の人≫、しかもこの区域でリーダー格の様な立ち位置のこの男がわざわざこんな花束だけ渡しに来るわけないだろうけどな…。

 

 「……悪いが、よく知らん相手と飯を食う趣味もない。」

 心底面倒くさい状況にうんざりし、当然ながら拒否をする。

 「ふむ、昨日会ったばかりのアレイシアとはシチューを食べたと聞いたんだがな。」

 ………余計なことを言ってくれたな、アレイシアめ。そんな恨み言を心中で呟いてみたところで当然伝わる筈もないが。


 「なに、俺はただ教会の不手際を詫びに昼食に誘っているだけだ。断ってくれようと別に君の自由だとも。ただ…何かしら後ろ暗いものでもあるのかと少々勘繰ってしまうかもしれないが……。」

 わざとらしい位に白々と言うサージェスを睨むように見つめてしまう俺。

 「………。」

 (既にその発言が勘繰っているだろうが…。)

 完全な脅しだが、俺がこの劇場の関係者である事が把握されている以上、今は従わざるをえないか?

 サージェスが教会としての行動なのか、王国神官としての行動なのか…俺に察すること出来ないが……。行動を振り返れば確かに俺は怪しいだろう。

 助力を求められたわけでもないのに≪奇蹟の人≫の手助けなんぞし、≪異能持ち≫やら≪異形≫やらの戦いに首を突っ込んでいる。

 アレイシアとも初対面で、あの食堂に駆け込んできたおっさんや息子―名前は忘れたが…―とも面識がない一般人が、わざわざ≪異形≫率いる悪の結社の現れた場所にまで≪奇蹟の人≫を送っていったり、ましてや武器を取って戦ったり…………………誤魔化せる気がしねぇな、コレは。

 かと言って正直に話して媛さんの立場を危うくするわけにもいかねぇしな。


 どうにかこの男の食事の誘い(追及の場)を拒めないか俺は懸命に頭を回した―――



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