華と炎と一触即発
「ふむ、たまたま見つけた店だが、なかなか悪くない味だ。」
そんな感心した呟きが向かいに座っている男から聞こえてくるが、俺は普段食わない量の食事にゲンナリする。始めに届いたアルコールはサージェスの手元に置かれ、俺が手にすることは出来ない。
(何が礼だ。ただの罰じゃねぇか…)
サージェスの感想通り、確かに味はいい。普段の俺の行きつけである安酒場などとは比べ物にならないだろう。だが、そもそも食に興味のない俺にとってはどうでもいい話だ。早く終わらせようと、俺はさして減ってもいない腹に無理矢理詰めこむが、正直食い切れる自信はない。
目の前に広がる料理どもと格闘して数分、サージェスが口を開く。
「…そういえば、君のその髪色はここいら辺では見ないな。生まれはどこなんだ?」
必死に詰め込んでいる俺にサージェスは世間話のつもりかそう質問してきた。
「さぁな。」
長話をする気もないので適当に短く返す。
ガキの時に学舎に連れられる前の街の名は覚えてはいるが、国の名前までは知らない。学のない孤児だから仕方ないと思うが、そんな事情を話すつもりもない。
「……、以前南の方へ派遣された事があるが、群島諸国では君と似た髪色の者が多かったな。」
「…へぇ。」
群島諸国ってのは確か複数ある島が寄り集まって出来た国……だったっけか?確かに市場には魚が多くがあったような気がしなくもない。
「………特にその地域では《異能》の迫害が苛烈だったと聞く。」
「…………へぇ?」
カマかけかは分からないが、またこちらを伺うような感覚がサージェスから向けられている。そちらに顔も向けてはいないが、強い視線も感じた。
「そのあまりの過酷な状況からこの大陸へと逃げ延びたものも少なくないらしいな。現在では難しいのかもしれんが、少し前まではこの大陸もゴタゴタしてた為そういった亡命行為が、ツテが無くとも可能だったそうだ。」
手に掴んでいたフォークをテーブルに静かに置き、サージェスは語りかけるようにゆっくりこちらへ言葉を紡いでいく。
確かに言われてみれば、《異能持ち》はそういるものではない。少なくとも俺の昔いた街で会ったのはたった一人だけだ。…………数少ない知人に一人いるなら十分かもしれないが、それでも劇団のように複数人がいるのは、媛さんが公国の権力者だから出来た事だと思っていたが、それだけが理由じゃないのかもな。
「……そうか、物知りだな。」
サージェスの言葉に俺は端的に応えた。
無論この男の望んでいる言葉でないのは分かっている。わざわざこんな面白くもない内容を詳しく話してきたのだ。単なる世間話のわけがない。
フォークを動かすのを止め、俺は視線だけサージェスの方へと向ける。
目があった。
不思議な事に朧気に捉えていた感覚が明確になったと感じる。
何を考えているかは分からない。しかし、感じているのはハッキリとしていた。
俺は料理から顔を上げるとサージェスの方へと向けた。
「……迂遠的に話をするのは、やはり趣味じゃないな。」
軽いため息をつくサージェスの目が鋭いものへと変わり、俺の目を見つめてきた。
つい目を逸らしたくなるのを堪え、俺は何気ない風に装いながら視線を返す。
その視線を視て流れ込む感覚で理解する。
今からこの男が口にする言葉は何らかの確証を持っているのだと――
「――君は《異能持ち》だな。」
疑問ではなく確認の言葉だ。
ここまで確信を持って言えるのは何故なのか疑問を覚える。もしかして全員戦闘不能の状況のあの時、この男の意識は保たれてたのだろうか……?
いや、ならばデュランタ…デルフィニウムと俺の会話が聞かれてた筈だが…だとしたらこんな悠長に会話せずに捕まえるか……。それともある程度距離があったし、デュランタの奴も腹話術みたいな事してたから会話は聞き取れず《異能》の感覚で捉えたとかか?
…ともかく確信はあるようだから、否定したところで意味はないだろう……、俺は持っていたフォークを皿の横に置く。
「……仮にそうだと答えれば一体どうする気だ?…俺を捕らえるか?それとも…斬り殺すか?」
否定もしないが、素直に肯定する気も起きない俺は感情を込めずにそう返した。
挑発的に聞こえたかもしれないが、俺としては投げやりな気持ちの方が強い。流石に捕らえるのはマズイが、戦いになっても構わないとも思った。
俺はテーブルの上にあった手を下ろし、普段忍ばせている懐剣へと密かに手を伸ばした――




