炎と雷と不穏なやりとり
グラナトを一言でなんと表記するか悩みましたが、取り敢えず能力の“雷”で。
もっといい表現が出れば直すかも。
涼やかな声が私の隠れていた柱の向かいの柱の影から響いた。
まるで舞台演者の演出のように優雅にマントを翻し、カツカツと靴音を響かせながらその声の持ち主がサージェスさんの前へと姿を見せる。
「………グラナト。…またサボりか、お前は。」
呆れたような、怒ったような声でサージェスさんは涼やかな声の持ち主、グラナトさんへ返す。
「嫌だな。キチンと司教様の有難い御高説を聴いていたとも。ただ不思議なんだよ。気がついたら司教様の声がどんどん遠のいていってね。彷徨い歩いてきたら…何故かこんな場所に。まるで恋と同じだね?時に見失い迷い…自分の届かない遠くへ行ってしまう…。」
(……えーと…、ソレ…抜け出してきたんじゃ…?)
グラナトさんは憂い顔でつらつらと言葉を流れるように出していく。
ありがたいけど、一言モノを言いたい。
「猊下の演説中に抜け出してきた上に、その巫山戯た言い訳か…。流石に目が余るぞ。」
サージェスさん私の言いたいことを言ってくれてありがとう。
だけどごめんなさい。私も結果的に司教様の演説聞かなかったです。
本当ならここで出ていって謝るべきなんだろうけど…、その勇気が出ない。
なんだか聞いちゃいけないことを聞いてしまった様な気がして出ていけないのだ。
どうしようか悩んでいる間にも2人の会話は進んで行く。
「はて、この場合君も同じ穴のムジナじゃないか?冬将軍。浮ついた話が出てこない君が、かねてより敬愛する司教様の、有難〜いお言葉を聞くこともなくこんな人気のないところで逢引き。しかも相手がまさかあの聖騎士殿とは。君たちの関係が……とても気になってしまうよ。」
グラナトさんの言葉はいつも通りの恋バナ探しの内容で。でもどう見たってサージェスさんとさっきの人とそんな話になるわけないのに…。
なんだか意味ありげな言い回しが、二人の間に不穏な空気を漂わせている。
「……お前のくだらない話に付き合う程暇じゃない。最近は色々とイレギュラーな事が起きている事位分かっているだろう。上との擦り合わせは重要なことだ。」
たけどサージェスさんはいつも通りにお説教じみた返事をグラナトさんに返した。
「確かにね。昨日のようなイレギュラーがここ最近ちょこちょこ起きている筈なのに、一々上にお聞きしないと禄に状況を把握出来ないこの現状。私もキチンと分かっているとも。」
普段通りに爽やかに話しているグラナトさんなのだが、言葉の端々に何かを感じさせる。
「……分かっているのなら一々注意をさせるような行動を起こすな。お前のその行動が上からの不興を買うことになる。」
サージェスさんの方も普段通り冷静に話してると思うんだけど、どことなく苛立ちを含んでるように聞こえた。
「しかし知らなかったな、サージェス。君がまさか元聖騎士さまだったとはね。」
「随分とエリートだったんだね?」と、チラリとサージェスさんの方を見て、グラナトさんは薄く笑みを浮かべた。
その瞳はどこか探るような感じだ。
「……盗み聞きか?随分と悪趣味だな。」
私の方からはサージェスさんの顔はよく見えないけど、声音からは不快感を感じさせる。
「失礼だな。私はそんな悪趣味ではないよ。ただの出歯亀さ。」
「もっと悪趣味だろうが!?」
サラリと前髪をかきあげ、いつもの調子で返すグラナトさんに、サージェスさんも思わず大声で突っ込んだ。
(…グラナトさんは別に何も深く考えてないのかも。)
意味深なやりとりが気の所為だったかと思わせる位いつも通りに感じる。
「前から疑問だったんだよ。王国神官として派遣されてきた君が…司教様と面識があったのが。確か司教様が以前いらしたのは群島諸国のとある地方。海に囲まれ大陸からは離れていたからか、あまりフォルソーン教が布教されていない地域で信者を多く増やした功績でこちらの大陸に数年前に新たなる司教として任命されてきたとのお話なのに…一体どこでお知り合いになったのかなって。それ以前はこことは別の大陸にいらしたらしいし。」
……そうなんだ?
数年前は私も《奇蹟の人》になる前の話だから知りようもないんだろうけど、よく知ってるなぁ…グラナトさん。
そういう偉い人の経歴って皆知ってるもんなのかなぁ?
サージェスさんと司教様が知り合いらしい事も知ってるし…恋愛話以外でも情報通だったりするのかな?
「……聖騎士見習い時代に俺も群島諸国にいて、当時たまたまお会いしただけに過ぎない。俺には聖騎士という立場の荷が重いと感じたため故郷の王国に帰り、神官戦士という立場に戻った。その後は数年前に王国の命でこの聖堂に派遣され―」
「たまたま同じタイミングでこちらに司教として任命された猊下に劇的に再会!と云うわけか。実に運命的だ!!恋物語ならば約束された恋人たちとして描かれるね?うん!!」
(……司教様っておじいさん寄りのおじさんだったよね?……やだな、そんな恋物語。)
想像してちょっと気持ち悪……いやいや、そういう話じゃないよね?
グラナトさんはいつも通りの表情に見えるけど、やっぱりいつもとどこかが違う。
サージェスさんの何かを追求している。
…何かは分かんないけど……。
「……何が言いたい?」
表情は見えないけど、怒りを含んだようなサージェスさんの問いかけに、いつも通り飄々とした笑顔を返すグラナトさん。
「いや?別に?……ただ、司教様や盲目聖騎士殿と昔からのお知り合いだったんだね、そう聞いただけだよ?」
「……そうか。」
グラナトさんもサージェスさんも暫く黙ってお互いを窺うように向き合っている。
数秒間―気分的にはもっとずっと長い時間のように感じたけど―そのまま立っていたけど、サージェスさんは私に背を向けたまま廊下の奥へと歩き始めた。
しかし、
「グラナト。」
背中を向けたままグラナトさんの名を呼びかけ、
「……お前が何を探っているかは知らんが、俺の邪魔だてするようなら容赦はせんぞ。」
いつもより静かで怖い声で警告した。
そんなサージェスさんの方を見ることなく、グラナトさんは肩を竦めて、
「……おっかないね。心得ておくよ。」
いつも通りに返した。
二人のやりとりが何なのか、私には全然理解できないけど……、酷く不穏な雰囲気だけは伝わってきた。




