炎と怪しげな聖騎士
――― え? ―――
話している言葉は分かるのに、意味が一瞬分からなかった。
『…《異能持ち》とは云え―――実戦で初めて斬ったのが子供ではな。』
(斬った?子供を?誰が?……サージェスさんが?)
言葉を区切りながら、意味を飲み込んでいっても、理解出来なかった。
(何か間違い…それか事故とかだよね、多分。)
真面目で正義感の強いサージェスさんがそんな事するはずない。
そう思いながらサージェスさんが言葉を返すのを待っているが、サージェスさんは何も言わずにただ黙っている。
「この大陸には《異能持ち》どもが徒党を組んで活動しているらしいな。一人でも討ち取れたのか?」
「……奴らとの戦闘の場合は《魔のモノ》の討伐が主になりますので…。組織で行動するだけあって幹部連中の腕はかなりのもの。《魔のモノ》を相手にしながら捕らえるには《奇蹟の人》だけでは手が足りないかと…。」
責めるような言い方をする目隠し騎士の言葉に弁明するサージェスさん。
(……ていうか、『討ち取る』って……殺すって事?)
まるでソレが普通みたいに言い放つ目隠し騎士の言葉に背筋がゾワリとした。
「……それに公国内では《異能持ち》をむやみに殺害する事は禁じられています。」
キチンとサージェスさんが釘を刺したので、私は少しばかりホッとした。しかし、
「…ハッ、温い事よ。…《異能持ち》如きにそのような温情などかけるとは。やはり猊下の仰る通り、この国は堕落している。《異能持ち》の公女などが《奇蹟》の力を持っているなどと嘯いているのだからな。」
『はぁッ!!?』と思わず言ってしまいそうな口を慌てて押さえて何とか堪えた。
目隠し騎士の吐き捨てるような言い方に、どこか怖いと思っていたんだけど、腹立たしい感情があっさりとソレを上回ってきた。
(公国の姫様に対して何ほざいてるの!?このオッサン!普段《魔のモノ》との戦いの時は現場に出てこないくせになんなの!!大体《異能持ち》如きなんて見下した言い方もなんかムカムカするし!!)
多分聖騎士だから教会の偉い人にあたるんだろうけど…、すっごく嫌な奴だと思う。
「…この公国の媛は民からの人気が絶大です。余りそのような物言いは…、」
サージェスさんが冷静に注意する……てか、もっと強く言ってやって欲しい。
「フン。公国のうちにあろうとも、この聖堂は猊下の庭。かような小娘に気を遣う必要などあるまい。」
やっぱり全然反省しない目隠しのオッサン。
サージェスさんはそれ以上に何かを言うことはなかった。
(う〜ッ!!聖騎士は偉い人だろうから仕方ないだろうけど〜。厶〜カ〜ツ〜クぅ゙〜!!)
歯噛みしながらも口に出しそうなのを耐える。
何とかギャフンと言わせて欲しいのにサージェスさんは反論らしい反論をしてくれない。
……相手の立場が上だからなのかもしれないけど、それでもらしくないサージェスさんの態度になんだか不安になってきた。
あまりにもいつものサージェスさんらしくない。
不服に思いながらも私はコッソリ隠れたまま、2人の会話を見続ける。
「まぁいい。それよりも…。今のお前は聖騎士の立場にないが、戦力としてはなかなかのモノになったとの報告も受けている。いずれ正式に通達があるだろうが、公国より北にあったある施設へ我々と向かってもらう。」
「…施設?」
「あぁ、とある情報筋から入った話によると、公国のネズミが向かってるらしくてな。ソレを押さえれば猊下の目指すものが手に届くかもしれんそうだ。」
クックックと喉を鳴らして嗤うその様子は圧倒的に悪人面だ。目見えないけど。
(『公国のネズミ』……って言われ方するとこそ泥みたいに聞こえるけど、どう考えても悪人っぽいあの目隠しが言うと、なんか調査している公国のお役人って感じがする。)
言ってる事もいちいち悪人っぽいし。
ラナンキュラスやペロ組織の黒い男が言ってた通り、上の偉い立場の人って……やっぱ悪い人達とかだったりするのかな…。
モヤモヤと胸の奥の辺りが燻ってくるような嫌な感覚に包まれる。
(…ううん。私は自分の正義を守る!)
ラナンキュラスに向かって言ったあの時の言葉は本気で思ったからだし。
むんっ、と人知れずやる気を出している間に話が終わったのか、目隠し騎士の方が立ち去ろうとしている。
「お待ちください。一つお聞きしたいことが…、」
「何だ。」
その目隠し騎士をサージェスさんが呼びとめ、目隠し騎士は立ち止まるけど振り向きもせずに短く問う。
「あの群島諸国の教会での事…、あの時分…あそこには老いた牧師と幼い子供たちしかいませんでした。……貴方はソレをご存知でしたか?」
群島諸国…?、確か公国の南の方の幾つもある島で出来た国だったっけ。
何のことか私には理解できないけど、目隠し騎士には多分わかったのだろう。
ハァッとこれ見よがしに溜め息をつくと、
「ソレが何だ。そうだろうとなかろうと、結果は何も変わらん。誰に何を吹き込まれたかは知らんが一々気を取られるな。くだらん。」
「――ッ…。」
ギリリと音が聞こえそうな程に強く、サージェスさんは拳を握りしめていた。
「………失礼いたします。」
静かに、サージェスさんはその謎な目隠し騎士の背に頭を下げ……、こっちに歩いてきた!!
(あわわわ…、マズイヤバいマズイ!なんか分かんないけどマズイ!)
別に盗み聞きとかするつもりは無かったんだけど、結局そうなっちゃったし、なんだかシリアスな雰囲気のその内容は意味が分かんなかったけど、聞いちゃいけなそうな感じだし…、
私がワタワタと隠れられそうな場所を探している間にも、サージェスさんはこちらへと歩みを進めている。
(もうダメだ!!)
別に何もダメでは無いはずなのに何故かそう思いながら、私はギュッと目を瞑り柱の陰に縮こまりながら隠れていると、
「やぁ、サージェス。こんなところで何をしているのかな?」
まるで私を庇うかのように涼やかな声がサージェスさんへと向けられた。




