光が覗いた炎の過去
アレイシア視点です。
―― ア…シア、…レイ…ア ――
微睡みにゆらゆらと意識が揺られている中、女の人の声が微かに聞こえてくる。
「……う、ん。」
浮上しそうで、でもぐいっとまた意識が下に引っ張られ、私はまた眠りに…――
「アレイシア!!起きなさい!!もうお昼になっちゃうわよ!!」
つく事なく、強制的に母さんに起こされ――あれ?
「お…昼…?……お昼…。――お昼ッ!?」
慌ててガバリと布団を蹴飛ばし飛び起きた。
「もう!やっとこさ起きたわね?今日は教会の偉い人が来る日なんでしょう?間に合うの!?」
呆れたような顔で私を見下ろしてる母さん。
確かに今日はチェスコバローン聖堂で一番偉い司教様が戻ってくるという話だった。
司教様は公国のあちこちへ出向いて、日頃の民たちの苦労を労う為の…イロー?だったっけ?ソレを行なってるから普段は聖堂にあまりいないらしい。
その司教様が珍しく帰ってくるから、昨日お休みを頂いた時に司祭様に教えられたのだけど、
(確かお休みの次の日の昼に司教様の有難いお話があるから、時間に遅れないように必ず出なさいって言ってた……)
「みにゃあぁあぁぁーー!!!」
私は直ぐ様最低限の身支度を整え、慌てて聖堂へと走った。
「はぁっ…はあ……う…門…し…閉まっ…てるぅ…。」
なんとか聖堂に着いたんだけど、正門は堅く閉ざされていて、門番の人も立っていなかった。
どうやら門の中の守衛室にいるんだろう。
(流石にこの高さをよじ登って行くわけにもいかないし…登れたとしても絶対に怒られるよね…。)
走ったせいで荒くなっている呼吸を整えながら、仕方なく私は裏門へと回る。
正門から結構離れている裏門には幸い見張りの人がいたので、事情を説明して中へと入るが、入り口付近には全く人がいない。
今日戻ってくる司教様の演説がお昼に行われるという話だったらしいから、おそらくは聖堂敷地内のみんな、司教様の演説を聞きに行ったのだろう。
建物の中に入ってみたけど、普段は人が行き来している長い廊下にも人の気配はなく、ガランとしていた。
(……正門から裏門に来るまでも結構時間経っちゃったよね?……司祭様やサージェスさんにバレたら怒られる〜!)
既に演説は始まってしまっているだろうケド…せめて、せめて終わる前に演説してるトコにいれば…など少し狡い事を考えて廊下を早足で歩いていると、人の声らしきモノが聞こえてきた気がして足を止めた。
(もしかして、私と同じような遅刻しちゃった人が他にも!?)
私だけが遅刻したわけじゃないと思うと心強い。不謹慎だとは思うけど、一緒に演説のトコに行ければ…などと考えながら、声の聞こえてきた方へと移動する。
いつもなら生活音などで聞こえない位の声なんだろうけど、シンと物音一つない静かな状況だからどこから声がするのかが分かる。
その声が聞こえる方へ進んでいけば、少しづつ声がハッキリとしてきた。
廊下の角の向こうから聞こえてくるみたいだけど…、大人の男の人の声だ。
(う…、誰だろ…。)
辺り見ると、普段入ったことのない場所に来ちゃったかもしれない。余り見覚えのない部屋が並んでる。
ひょっとして偉い人が使ってる部屋とかかもしれない。
(普通の教会と違って聖堂って広いし、何ていうかオゴソカって云うの?下手にウロウロ出来るような雰囲気じゃないからな〜。)
もしかしてだけど司教様のお付きの人とかが待機してたり…。そんな事を考えながらコッソリと角から覗いてみる。
(―――ッ!!?)
見覚えのある背中に慌てて曲がり角の柱と壁の隙間に、隠れるように身を寄せた。
恐れていた人物がそこにはいたのだ。
(サージェスさんだぁあー!!)
早く逃れなければと思ったが、ふと何故こんな所にいるのかと思い至る。
普通に考えればサージェスさんも司教様の演説を聞いてる筈だ。
もしかするとまだ始まってないのだろうかとも思ったが、5分前行動が基本の真面目なサージェスさんが、ギリギリになってから向かうはずがない。
もう一度気づかれないように気をつけて覗き込むと、サージェスさんと向かい合って誰かがいる。
年は……30歳?40歳?…よく分かんないけど、取り敢えず金髪のおじさんだ。
シュッとして、多分カッコいい感じがする。
多分とつけたのは、目元が白い布で隠れていて分からないからだ。……前、見えないんじゃないかな。アレ。
格好はサージェスさんのみたいに銀の鎧をつけてるけど、サージェスさんと違って真っ白いマントを羽織っている。
初めてみたけど、聖騎士だと思う。
(聖騎士と知り合いなのかな?サージェスさん。)
確か聖騎士はエリートで高い身分の貴族しかなれない選ばれた存在で…、現場には出ず、催事とか教会の偉い人の護衛とかについたりするのが基本って教えられた気がする。
私たち《奇蹟の人》と違って…偉い人しか護らない……、なんて考えちゃいけないんだろうけど…。
頭の中でラナンキュラスの言ってた言葉がリフレインする。
『特権階級の素晴らしい事だ。お前もそんな奴らのために媚びへつらい、身体を張って頑張っているのか?』
(いやいやいや!ラナンキュラスが言ってた事が本当って限んないでしょッ!!)
ブンブン頭を振っていけない考えを振り切っていると、聞き慣れない声が耳に届く。
「お前が剣を捨てて、もう何年になるか…。」
あの目隠し聖騎士が何かを思い出す様な風にサージェスさんに言う。
内容から察すると昔の知り合いっぽい。
…ていうか、サージェスさんって前は剣使ってたんだ。
「………。」
サージェスさんは静かに項垂れてるだけで、何も言わない。
なんだか、いつも背筋を伸ばして真っ直ぐに立っているサージェスさんらしくないなと感じた。
「たかだか薄汚い咎人一匹斬った程度で握れなくなるとは…惰弱だと思っていたが…。無手でここまで高められるとはな。それだけに惜しいものだ。」
心底惜しむように言ってるのは分かるんだけど、その言い方がなんて言うか…何となく嫌だなと感じる。
(『とがびと』って…確か悪いやつって事だったと思うけど…。あの目隠し騎士って聖騎士なんだよね?)
確か聖騎士って、普通の国の騎士と違って人を殺しちゃいけないって教えられたような……。
なんでだろう。なんか胸の中ザワザワとして、嫌な気持ちになる…。
「……当時は未熟者だった故、…申し訳ない事です。」
静かなで…震えているように聞こえるくらいささやかな声は、本当にサージェスさんが出してるのだろうか。
いつものハッキリと堂々としているサージェスさんとは思えないような声だ。
らしくないサージェスさんの様子が気にはなったんだけど、盗み聞きはよくないだろうと気づかれない内に去ろうとして、
「まぁ、仕方ないか。当時はお前も13、才覚はあったが、精神も幼かっただろうしな。…《異能持ち》とは云え―――実戦で初めて斬ったのが子供ではな。」
私の耳にとんでもない言葉が聞こえてきた。




