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僕の妹は悪役令嬢  作者: 珠乃 響(ゆら)
第6章 学園祭を一緒に
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第6章4話 神聖市国


「そういう訳で1-A組であらためて協議した結果、校庭を使用しての模擬演習は取りやめて、教室での展示に変更となりました」


「ふむ、学園祭の直前になっての変更は大変だろうが、生徒会としても協力は惜しまないのでな」


 秋も深まった頃、学園祭に向けた実行委員会の席で、入試成績トップの1-A組が毎年恒例としていた花形演目の模擬演習を断念することにしたようです。

 まあ先の修学旅行で、軍事政権の本国に移送されたあげく人体実験に使用された10人の学生のほとんどが、魔力の高い1-Aの生徒達だったのでしかたがないのでしょう。


 その二日戦役では役に立たず邪魔しかしなかった王太子も、今は生徒会長として澄まし顔で学園祭のとりまとめに余念がありません。

 すると入試成績トップ組が登校できなくなったことで、1-Aクラスの学園祭実行委員の補佐を押し付けられた、今では生徒会役員補佐も兼任している【勇者】アーサーくんが小さな声でつぶやきます。


「ユスティーナ様の1-B組は舞台劇でしたよね? 俺……絶対、見に行きますので頑張ってください!」


「うふふ、ありがとうございます。それでは、魔法実技パーティーメンバーの特等席をご用意してお待ちしておりますね?」


 田舎育ちの純朴な少年とすっかり仲良くなった妹が、お淑(しと)やかな微笑みと共に小悪魔のように片目をつむって見せます。

 すると軍事政権の本国に移送された割には軽度の洗脳で済んだ【聖女】マリアが、新米の生徒会役員のひとりとしてゴホンッとわざとらしく咳をしてから。


「1-Bは舞台衣装の準備は進んでいるの? 古典演劇をするようだけど、私が神殿に言えば」


「衣装でしたら小道具を含めて、公爵家のドレスルームに売るほどありますのでご心配には及びませんわ。大道具もなぜか商業ギルド長がご用意してくださったので、最近では準備することが無くて困っておりますの。おほほ~」


 どういう風の吹き回しか知らないが、真面目に生徒会役員補佐の仕事をしているらしい【聖女】マリアが、前世の記憶からか裏方の膨大な仕事量を心配しているようだけど。

 舞台稽古では悪役令嬢役が板についてきた妹が、手の甲を口元にやると艶麗(えんれい)に微笑み返すのでした。


 それにしても攫(さら)われた軍事政権の地下研究施設では、主任技術者をやっていた異世界人とも顔を合わせたはずなのだが、洗脳が解けてもその時のことを話そうとはしないらしく。

 ただ最近では表立って逆ハーレムを目指すことも無くなったようで、王太子とも呪術刻印付きだが仲睦まじくできているようで平和の一言に尽きます。

 このままあと半年、来年の春までおとなしくしていてくれると良いのですが。


 するとそういえばと、妹が小さな声でこしょこしょとささやいてきます。


「でもでも、お兄様のご意見で舞台用化粧として新しく錬金術学で研究開発した乳液やファンデーションが、思ったよりお肌に優しいのに美白効果が絶大で。

 学園祭でも、錬金術学として特別展示をすることになったのですが。

 近くデボラの実家の工房で量産体制を構築できたら、クローネの家の傘下にある商流ルートから厳選した会員限定販売を始めようと思ってますわ」


「ああ、あれか。確かキルヴェスニエミ公爵家として、ユスティーナを代表取締役にして立ち上げた新商会だろう? しかも母上が夜会でサンプル配布をしたら、ご婦人方から事前予約が殺到してるっていう」


 学園に通うようになって、お化粧に気を使うようになったお年頃で乙女な妹のために、前世で言うところのお肌にも優しいナチュラルメイクをベースに色々と錬金術学の宿題を兼ねてアドバイスしたら、いつの間にかこんなことになっていたのでした。


 まあ、たとえ婚約破棄から断罪ルートになったとしても、この不労所得があればお金に困ることはないだろうし。

 そういえば転移門の魔法陣についても、かなりの莫大な金額が妹には王国から支払われているから、既に個人資産だけでも億万長者だったりするのですが。


 すると何を勘違いしたのか王太子が、不満そうな顔を隠そうともせずに歪めた口を開きます。


「エルネスティ、何かマリアに言いたいことでもあるのか? 心優しい彼女が生徒会役員として心を砕いているのだぞ、それを」


 はあ? 何をイキってるんだか知らないが、心優しい淑女が禁呪の【魅了】スキルを学生相手に辺りかまわずバラ撒(ま)くもんかよ。

 だからとばっちりを恐れて誰も言わない苦言を、この時ばかりは側近としてあえて呈(てい)してみるのです。


「王太子殿下におかれましてはそのような些事よりも、ご自身のクラスの催しである『メイド執事喫茶』なる奇天烈(キテレツ)で魔法学園の品位を落とすような真似は慎(つつし)まれるのが寛容かと」


「なぁっ、そ、それはマリアのアドバイスを採用しただけで……」


「まぁ、王子様ったら。心から優しい私を好きだなんて……ぽっ。私も当日は、メイド服でお手伝いしますのでっ」


 なんかここだけは、学園ラブコメみたくなっているのでした。

 この前、王城での王太子妃教育を健気(けなげ)にも続けている妹に聞いたんだけど、王妃が学園祭を見に来るって言ってたが、大丈夫か?

 


◆◇◆◇◆◇◆◇



「ようこそ神聖市国へ。これで離れた貴国とも転移門を通じて、より親密な関係を築くことができることでしょう。

 また、王国の【聖女】殿に相見(あいまみ)えることができたことは幸いである。おお、神のご加護のあらんことを」


 友好国への転移門の魔法陣設置の一環として、隣国では無いものの西の共和国を隔(へだ)てた先にある神聖市国へとやって来ていたのですが。

 元々、神聖教徒だけで構成されている神聖市国で、転移門の魔法陣が設置された大聖堂の祭壇に立ち、さっきから説教を垂れているのはこの国のトップである教皇猊下だったりします。


 それから実は今回、転移門の開通式典に外務大臣達や妹達技術スタッフとは別に、神聖市国側から特にご招待のあった【聖女】マリアとなぜか付き添いとして王太子が出席しているのでした。

 ところでいつも護衛をしているクリームヒルト第一王女だが、先日の帝国第二王子の一件がこたえたのか、今日は王城でお留守番となっています。


 そしておもむろに、教皇が立つ祭壇から一段下がった位置にいた、修道服に身を包んだ女性が慈愛の微笑みを浮かべて。


「それでは王国から来られた【聖女】殿には、しばらくこの神聖市国に滞在していただき、この私――大聖女が神の理(ことわり)を説いて差し上げます」

 

「え? なにそれ。え、いやよ。国王から命令されて、こんなとこまで来てあげたけど。終わったら、さっさと帰らせてもらうわよ」


 大聖女とやらの宣言に、外務官僚達を含めて王国からの出席者があっけに取られている間に、空気を読まない転生者の【聖女】マリアは素で返すのでした。

 しかし全世界で最も多くの信者を有する神聖教の大聖女様は、そんなことは気にする様子もなく、先程からの慈愛の微笑みを浮かべたまま。


「なにを遠慮することがあるのです。本来【聖女】は、我ら神聖教会の管理下にあるべき存在なのです。これは神託によるもので、たとえ王国といえど逆らうことは許されません」


「なっ……いや、それでも【聖女】マリアは我が王国の民のはずだ。ああ、マリア。大丈夫、心配することは何も無いからね」


 今回も招待されていないのに勝手について来た王太子が、女性主人公(ヒロイン)である【聖女】をかばうようにその肩を抱くのですが。

 え~、でも禁呪【魅了】を使って反省の色も無い転生者に、本来の【聖女】教育とやらを叩き込んでくれるのなら、その方がいいんじゃないのか?


「王子様ぁ~。私、王子様と離ればなれなんて嫌ですからね?」


「ふん、かまわん。神聖騎士隊、さっさと連れていけ」


 王太子の腕にすがりつく【聖女】マリアだが、一転して冷めた目をした大聖女の指示で白銀鎧の神聖騎士たちが、ガシャガシャと耳障りな音をさせながら取り囲んでしまうのでした。

 それにしても自称大聖女だが、上級レベルの【偽装】スキルで隠しているつもりらしいが、ジョブリストに【聖女】なんてものが見当たるどころか、なんと一次職業が【詐欺師】だったりします。

 

「え? いやっ、やめて! 離してよっ」


「おいっ、乱暴は止めろ! くそっ、私は王太子だぞっ」


 あっという間に神聖騎士達に取り押さえられた【聖女】マリアは、引きずられるようにして王太子から引き離されてしまうのでした。

 あ~、そんなすがるような目で僕を見てもねぇ。

 どうやら外務大臣達も、護衛の近衛騎士達ですらもどうすることもできずにいるようです。


 するとその時タイミングが悪いことに、大聖堂の祭壇奥のステンドグラスを突き抜けるようにして突然降りそそいだ光が、僕達の――いや、セラフィーを照らすと。

 中空に透明な少女が、その姿を顕現させるのだった。


「わわっ、聖霊ホーリーちゃんっ。急に出てきてどうしたの?」


「……そ、それは、聖光! しかも神の代行、聖霊様かっ?」


 その場にいた全員がギョッとして固まる中、聖霊ホーリーちゃんは降りそそぐ聖光から現れた、子供の姿に小さな白い翼の天使から、小さな弓矢を受け取ると。

 それをそのまま、蒼い瞳を見開いていた妹に渡すのでした。


 あ~、これはもしかしなくても前世のゲームで中盤イベントであった。

 悪魔王に唯一とどめをさすことのできる、魔滅(アモール)の弓矢を入手するというものだったはずです。

 でも、時期的にずいぶんと早い気がするのは気のせいか。


 すると我に返ったらしい教皇が、白髪を振り乱してしわがれた声で叫び始めてしまう。


「そ、その聖霊をつかまえろ! 天使から授かった弓矢もだっ。それは神聖教会の、この教皇である私のものだ!」


「「「はっ!」」」


 ガシャガシャと白銀鎧を身にまとった神聖騎士達が、セラフィーと妹を取り囲もうとするので、上位闇魔法【闇黒衝撃(ダークインパクト)】を並列起動させて、瞬時に連撃させる。


「「「ぎゃあっ」」」


「ミーア、シュルヴィ! 武器使用許可っ、だが殺すな! ユスティーナとセラフィーは魔術結界と聖霊結界を多重展開、このまま撤退戦だっ。大臣達は先に転移しろっ」


 腰を抜かした外務大臣が、官僚達に引きずられるようにして転移門を抜けていく。

 それを見逃した神聖騎士達が大聖堂の中を埋め尽くすように、後から後から湧いて出てくるのだが、魔術結界と聖霊結果に阻まれて近づくことができない。

 しかも白い翼を広げて低空で滑空する、魔法剣を手にしたミーアとシュルヴィに、自慢の白銀鎧ごと次々と切り倒されていくのです。


 それを見ていた自称大聖女が、とうとう金髪を振り乱して喚き散らし始めます。


「な、何をしているのです! 神聖魔法を付与された武装で、なぜそんな者達に負けるのですかっ」


「貴様らっ、我が神聖魔法を食らうがよい!」


 そして分厚い魔導書を手にした教皇が、何やら呪文を唱え始めるので、超位闇魔法【暗黒洞穴(ブラックホール)】を無詠唱の極小規模で即動させると。


「ぎゃああああああ!」


「教皇猊下っ、貴様らぁ! 聖霊様と弓矢は後で回収すればよいから、かまわん皆殺しにしろっ」


 魔導書を持っていた手ごと、小さな漆黒の闇に飲み込まれて消え去って、教皇は涙と涎と小便をまき散らしながら祭壇から転げ落ちてきてしまい。

 それを支えることになった大聖女が、青筋を立てながら目を吊り上げて絶叫するのでした。


 しかし、その頃には立っている神聖騎士はひとりもおらず、誰も彼もが白銀鎧を陥没させたり、片腕を切り飛ばされたり、白銀鎧の中から黒煙を上げたりしているのでした。

 まあ魔法剣を持ったAランクハンターが妹の上級バフを受けたら、そうそう切れないものは無いだろうからなぁ。


「さてと……この落とし前は、どうつけてくれるんだ?」


「ひっ、き、貴様らこのままでぶっ……ぎゃっ……ごおっ」


 ただ一人まだ立っていた自称大聖女の襟首を掴むと、鼻っ柱を次々と殴りつけてやるのだが。

 最初は澄ました美人顔だったはずだが、ぼこぼこに腫れあがって全ての歯が抜けた頃には、ずいぶんと大人しくなっているのでした。


「で? 王国から招いた外交団を急襲した神聖市国としては、戦争するってことでいいんだな? それじゃあ、まずは手始めにここにいる神聖騎士達と、教皇と大聖女には戦利品になってもらうか」


「……ひっ、い、いえ。しょ、しょんなことは、しぇんそうなんて、しょんな」


 転がっている神聖騎士達を上位闇魔法【漆黒の門(ダークゲート)】で異界に落としながら、ニヤァッと口を耳まで裂いて見せると、つるし上げていた大聖女は床に温かい水滴を漏らしながら泣き出してしまうのです。

 泣くぐらいなら、初めからやるなよ。


「まあいいや、ユスティーナ。転移門の魔法陣は、神聖市国は武器の持ち込みを禁止するモードに変更してから、帰還することにしようか。

 おい、そこで祭壇の後ろに隠れている……枢機卿か? こいつら戦争犯罪人を返してほしくば、無条件降伏でもひっさげて王城に来るんだな」


「……コクコクコク」


 どうやら下っ端らしい枢機卿に伝言を頼んでから、随分とスッキリと人がいなくなった大聖堂内を見回すと。

 いつの間にか解放されていたらしい【聖女】マリアが、王太子と抱き合って床に座り込んでいました。


「ああ、お前は【聖女】教育とやらをこの神聖市国で受けるんだったか? よかったな、別に卒業まで帰って来んでもいいからな」


「……ひっ」

「え、エルネスティ。貴様っ、さっきはマリアを見捨てようとしたなっ」


 震える二人をそのままに、小便臭い教皇と大聖女の髪の毛を引っ掴んで、引きずるようにして転移門へと向かう。


「それじゃあ、帰ろうか?」


「もう、お兄様ったら。また悪いかお顔をされていますよ?」


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