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僕の妹は悪役令嬢  作者: 珠乃 響(ゆら)
第5章 修学旅行は
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第5章2話 帝国から来たお姫様


「どうしてっ、入試成績優秀クラスである1-A組学級委員長でマールブランシュ公爵家の、この僕が生徒会役員になれないのですか!

 それなのに成績劣等クラスの1-B組から、この二人の名を呼ばれたということは、まさか?」


「うむ、有り体(てい)に言って1学期末の総合成績で判断したとしか言いようが無い。ちなみにこの際、入試の成績なんか関係無いぞ。ところでお前は、学年何位だったんだ?」


 どういうわけか2学期になっても、僕と妹が学級委員長と副委員長のままだった。

 いったいどいつが推薦しやがったのかと思ったら、クラス全員が満場一致で採決されてしまっていたのです。

 そしてそのまま生徒会と全学年の学級委員との合同会議に呼ばれてしまい、どうやら今年度の生徒会役員の選出が行われているのでした。


「……5位です、がしかし! それではこれまでの魔法学園の歴史ある伝統がっ」


「くどいぞ。今、生徒会で必要なのは、現在、実力がある者達だ。これまで生徒会役員が1-Aから選出されていたのは、単純に成績優秀者だったからだ。

 お前も文句があるなら、学年1位になってから出直して来るんだな」


 どうやら生徒会長である王太子に、1-Aの公爵家のお坊ちゃんが難癖をつけているらしい。

 この魔法学園では生徒会長が選挙で選出されると、残りの副会長などの役員は会長の指名制になっているのでした。

 それにしても、3年生の王太子に面と向かってこれは……いくら、学内では家柄が不問とはいえ。


「くっ……」


「というわけで、エルネスティ、ユスティーナ譲それからアーサーとマリア譲には生徒会役員として、まずは補佐から手伝ってもらうことになる」


「お断りします」


 1-Aの公爵坊ちゃんが静かになったところで、珍しくまともなことを言っている王太子が会議室内を見回すと僕達を再度名指ししてくるので、きっぱりと断ってやるのでした。

 来春の婚約破棄と断罪回避に向けて忙しいってのに、よりにもよって王太子と【聖女】のいる生徒会なんかやってられるかってのよ。

 というか成績上位者と言っていたのに、アホの【聖女】マリアがここにいるのは何でだよ?


「なあっ、き、貴様、エルネスティっ! どういうことだっ、こととしだいによっては許」

「王太子殿下の側近としての事務処置業務が滞(とどこお)っておりますので、非常に残念ながら生徒会に時間を割く余裕がありません。

 しかし王太子殿下が本来なさるべき事務方業務の一部でも代わりに処理いただけるようであれば、私としてもぜひとも生徒会にはご協力させていただく所存です」


 まさか断られるとは思っていなかったのか、ギョッとした顔をして怒声をあげる王太子の言葉をぶった切って、僕が低い声で答えるのですが。

 面白いように目を見開いて急に視線をさまよわせ始めた王太子が、乾いた笑いを響かせるのだった。


「え? あ、あ~、あれかぁ。あれね? あれはしょうがないよね? うん、じゃあユスティーナ譲は」

「妹も放課後には王太子妃教育が詰まっていますので、生徒会に出席するのは難しいかと」


 脂汗を流し始めた王太子がすがるような視線を妹に向けるが、それをさえぎるように僕が再びぶった切る。

 まさか王妃がとり行っている王太子妃教育を休ませるような度胸が王太子にあるはずもなく、ついにはガックリとうなだれてしまうのでした。


「もう、お兄様ったら。また悪い顔をされていますよ? 

 まあ、私も生徒会にご協力したのは山々なのですが、なにぶん全生徒の代表として使える時間が限られておりますので、十分な働きをすることは難しいかと」


「ユスティーナは気にすることはないよ。こういう学園のお山の大将のような生徒会なんてものは、時間に余裕のある王太子にでも任せておけばいいのさ」

 

 それでも心優しい妹はわずかに眉を下げるので、本当は王太子さえいなければやらせてあげるのも、青春のいい思い出になるのだけれどとも考えるのですが。


 実は魔法学園における生徒会の影響力というのは、それほど大きいものではなかったりするのです。

 それはそうだ。なんせその長い歴史において、ずっと王侯貴族のお坊ちゃまやお嬢様が歴任しているのだから。

 特に今年、担(かつ)がれた神輿(みこし)が王太子であることからしても、誰が見ても一目瞭然なのでした。

 まあ実権という意味では、新任の学園長に山ほど貸しがある僕の方が、圧倒的に裁量権を持っていると言っても過言では無かったりします。


「ぐっ……エルネスティ、お前はどうしてそう」


「王子様、私も【聖女】としてお手伝いしますので。ね、がんばってください」


 しょぼくれている王太子の横にいつの間にか行って、ちゃっかり支えているのは【聖女】マリアです。

 本当、何で最初からそうしなかったのか。

 入学初期の計画が破綻して黒幕からの指示が沈静化しているようなので、これが本来のあるべき【聖女】マリアの素の姿だったりするのだろうか?


「そういうわけでアーサーくん、あとは任せたぞ?」


「ええっ、俺――私も生徒会に入るのですか? い、いや、いくら補佐って言っても、俺って平民ですよ?」


 あまりの寸劇にポカンと口を開けていた【勇者】アーサーくんの肩をポンポンと叩くと、急に我に返ったのかワタワタと慌て始めます。

 まあ、がんばれ最強の【勇者】くん。

 するとすっかり忘れられていた1-A組の公爵のお坊ちゃんが、何やら頭を抱えて壁に向かってブツブツつぶやいているのでした。


「くっ、平民風情が生徒会役員などと……これでは父上になんと言って」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「それではお兄様、後程(のちほど)」


「ああ、ずいぶんと久しぶりなんだからユスティーナも無理をしないようにね? 何かあれば、すぐに駆け付けるから」


 そう言って僕は、自分の左耳の妹とお揃いのイヤーカフスを指でつついて見せます。

 すると何年かぶりの王城への登城(とじょう)だからか緊張した表情の妹も、わずかに微笑むと自らも右耳につけたイヤーカフスに触れて見せるのです。


 そうなのです。

 実は妹は天空城から帰るとしばらくして、今までやっていなかった王城での王妃直々の王太子妃教育を再開すると言い出したのでした。


 これまでは公爵家公邸から一歩も出ないので、王太子妃教育といっても公邸に王家指定の家庭教師を呼んで行っていたぐらいだったので。

 それを王家も容認せざるおえない事情があったため、特例として許されていたのですが。


 急にどうしたというのでしょうか。

 夏休みの天空城で、何か妹に心変わりをさせるようなことでも、あったのでしょうけど。

 まあ、あのお姫様と兄上のことが原因だとは思うのだが、最後にお姫様が小声で言っていたことも気になります。


「それではユスティーナ様、こちらへ」と言う王城付き侍女に連れられて行く、妹の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、僕は呼びつけられていた国王執務室へと向かうのでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「今日はよく来てくれましたね、ユスティーナ。あなたが再び王城での王太子妃教育を受ける決断をしてくれて、とても嬉しく思いますよ」


「ご無沙汰しております。王妃様におかれましてはご機嫌麗しく。こちらこそ長きに渡り登城できずご迷惑をおかけしました」


 お兄様と別れたユスティーナは、王族専用の応接室で王妃に面会していた。

 侍女ミーアと見習い騎士のシュルヴィを従えてはいるものの、二人だけで面と向かうのは初めてのことだ。


「うふふ、もういいのよ。でも急にどうして心変わりを?」


「それは……こんな情けない私でも愛(いつく)しんでくださる、そんな敬愛する兄の隣に立って恥じない淑女(レディー)になりたいと思い立ったしだいです」


 今日まで王太子妃教育をおろそかにしていたことへの苦言だと受け取ったユスティーナは、自身の過去を顧(かえり)みた上で心底から真摯な気持ちで自分の気持ちを伝える。

 しかしそれを聞いた王妃はわずかに眉を下げると、小さな声でつぶやく。


「そう、……王太子のためではないのね」


「え? いえ、いずれは微力ながら王国のお役に立てればと」


 本当は王太子殿下のお隣に私などとでも言えれば、よかったのかもしれないが。

 王家が取り決めた貴族の婚約という名の契約なのだと理解はしていても、どうしてもあの王太子の横に立つ自分の姿が思い浮かばないのだった。


「あはは、これはいよいよ脈が無さそうね」


「あ、いえ。決してそのようなことは、あ、あり、ありま……」


 そう、貴族の婚姻に本人達の気持ちなど必要では無いのだから。

 自分の本当の気持ちなど、まったくもって関係する余地があるはず無いのだ。

 だからこそ、眉をハの字にして今にも泣き出しそうな顔で微笑むユスティーナは、その先、何を言おうとしたのか自分でも分からず言葉を詰まらせてしまうのだった。


 それが分かってしまった王妃も思わず視線をそらせて、窓の外に広がるどこまでも青い空を見るしかなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「エルネスティ、お前、生徒会役員を断ったろう? もう少し堪えることはできなかったのか?」


「あの国賊【聖女】マリアがいる生徒会室なんかに、妹をいさせる訳にはいきませんので。何か不味いことでもございましたでしょうか?」


 そうなのだ。なぜか妹の登城にあわせて、ついでとばかりに僕も国王から直々に執務室へ呼びつけられていたのです。

 前回は両親も王妃も一緒だったのだが、普通、今回のように唯の一学生が国王と一対一でサシで話をするもんだろうか?


「はぁ~。実はユスティーナ譲のことについては、彼女に傷がつかない方法での婚約解消を検討だけは進めているんだぞ?」


「……そうですか」


 それは夏休み前に両親からも聞いていたので、別に今さら驚くようなことではなかったのです。

 それよりも、なぜ今になってそれを言うのかということだが。


「なんだ、あまり嬉しそうじゃないな。お前の希望にも沿ったものだと思うんだが、違ったか?」


「いえ、決してそのようなことは。ただいずれにしても、この婚約も王太子殿下に関係なく、妹が卒業するまでのことなので」


 仮にも相手は国王なので、あまりにハッキリとした物言いはさすがにできませんが。


「うん? それは……。

 ユスティーナ譲が卒業するまでは、王太子の婚約者でいることが余計な害虫から守るのに都合がいい。

 王太子は【聖女】マリアや他の貴族令嬢といようが、ユスティーナ譲にむやみに近寄らないなら実害とはならない。

 ということか? いやいや、それではさすがに我が息子である王太子がかわいそうでは」


「いえ、まさかそのような。これも独り言なのですが、王太子殿下もご卒業までは自由にされればよろしいかと」


 それでもやはり賢王と呼ばれるだけはあるということなのか、僕の言葉の裏を読み切って自分で解析してしまうのはさすが伊達ではありません。


「う……それは王太子も【聖女】マリアと勝手によろしくやっているのだから、文句を言われる筋合いではない。

 むしろ婚約を解消されていらない婚約話が来たり、王太子が積極的にユスティーナ譲に絡むよりはよっぽどマシだ。

 ってことかよっ。怖(こ)え~よ、お前!」


「お話はそれだけで?」


 いい加減この押し問答も飽きてきたので、先に妹のところに行って待っていようと思うのだけど。


「いや、実はお前の報告にあった違法借金奴隷契約についてだが、今すぐこれでどうこう出来ないのはお前も承知のとおりだ。だが牽制ぐらいにはなるから、すぐには公爺としても表立っては手出しはして来ないだろう」


「ええ、どうせ公爵家免責特権が適応されることでしょうし」


 すると急に話が変わってしまって、僕にも関わりのあるフォンブリューヌ公爵家の借金奴隷問題です。

 国王としては肥大化し続ける四大公爵家のパワーバランスを取ることで、何とか調整したいのだろうけど。


「それよりも、やっぱりセラフィー譲を欲しがった場合だな。なんせ世界唯一のユニークスキルだからな。しかも将来は最強が確約されていると来たもんだ」


「恐れながら、誤解の無いよう申し上げますが。今はセラフィーを守るために僕の侍女をさせていますが、いずれは妹の守護役をさせようと私が自(みずか)ら教育しております」


 そんなことは、わかっているさ。

 この僕がそれを知っていてなお、彼女をあの地獄から救い上げたのだから。

 だからセラフィーが一人前になるまでは、敵対するもの全てを殲滅してでも僕が命に代えても守り抜くのです。


「ああ~、やっぱりユスティーナ譲のためか。はぁ~、今回は分かりにくかったから、他の貴族連中は変に勘ぐっているのもいるぞ?」


「それはご心配をおかけして申し訳ありませんが、降りかかる火の粉は払うのみです」


 額に手を当てて国王が大きなためいきをつくけど、それもこれも全て妹の幸せのためなのです。


「お前はどうしてそう……そう言えば公爺の孫娘に何したんだ、お前?」


「何も。授業中に新しい転入生のセラフィーのことを聞いてきたので、簡単に説明しただけです。お話はそれだけですか?」


 そういえばあのフォンブリューヌ公爵家のお嬢様、最近授業で見かけないけど。

 もしかして14才にもなって公衆の面前でお漏らしをしたから、恥ずかしくて屋敷にでも引きこもってしまったのだろうか。

 まあ公爺の下で辛い目に遭っていたセラフィーに、自分は見て見ぬふりをしていたくせに、人前で酷いことを言っていたので自業自得ですね。


「だあ~ぁ。いや、本題はこれからだ。入ってくれ」


 飛び切り大きなため息をしてから国王が手をヒラヒラと降ると、国王執務室の扉が静かに開かれて、金髪にヘーゼルカラーの瞳をした高価なドレス姿の美少女が入って来ます。

 嫌な予感がしてすぐに【鑑定】すると、思わずビックリして表情を隠すのに苦労してしまうのでした。


「それでこちらが帝国の第一王女でクリームヒルト殿下だ。魔法学園の1年に留学することになっている」


「初めまして。紹介にあずかりましたクリームヒルト・ヴェラ・ヴァイトリングと申します」


「こちらこそお初にお目にかかります。私はキルヴェスニエミ公爵家のエルネスティにございます。この度はご尊顔を拝し奉り恐悦至極にございます」


 なぜかドヤ顔の国王がムカつくが、隣国で最大の強国である帝国のお姫様に失礼があっては、すぐに国交問題となるので片膝を着いて臣下の礼で挨拶を返します。

 すると少しだけ困ったような顔をして、お姫様は微笑むのでした。


「まあ、すぐにご学友となるのですから、もう少し気安く話しかけていただけると助かりますわ」


「はっ、御心のままに」


 それでも顔を伏せて膝を着いたままの、僕を見かねたのか。


「硬い、硬いなぁ~。わざわざ、事前にオフレコで執務室に呼んだ意味がないじゃん? もうちっと、フレンドリーに会話できないの?」


「で、僕はクリームヒルト第一王女殿下の魔法学園での護衛をすればよろしいので?」


 このチャラいおっさんが国王とは。

 何かムカついたので、先に要件を済ませてしまうことにするのでした。


「うっ……うん。見知らぬ遠い地に来て不安もあるだろうから、よろしく頼むよ?

 ていうか、同じ王族なのに俺の扱い酷くない?」


「いえ、決してそのようなことは。では私はこれにて失礼いたします」


 先にネタ晴らしをされたからかキョドッた国王は、それでも隣国のお姫様の前だからか気取った態度を変えようとはしません。

 いい加減アホらしくなってきたので、さっさと帰ろうと話を切り上げることにします。


「おいおいおい、いきなり帰るやつがあるか。せっかく来たんだから、王城の中庭でもご案内して差し上げろよ?」


「くっ……それではクリームヒルト第一王女殿下。不肖、この私めがご案内仕ります。ではこちらへ」


「ふふふ、それではエルネスティ様。よろしくお願いしますわ」


 ニヤニヤ笑いやがって、何だあのいやらしい中年オヤジは。

 チッ、これは体(てい)のいい見合いだな。これが今日わざわざ僕をひとりで呼びつけた目的というわけか。 

 もしかしなくても、今回の登城を僕に伝言して来た両親もグルか?

 これは一度、キッチリと話をしておかないとダメそうですね。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「本日王城にて、帝国からの留学生とのことで、クリームヒルト第一王女殿下にお会いしました」


「そ、そうかっ。でっ、どうだった?」


 あの後、妹の王太子妃教育が終わるまで間ずっと帝国のお姫様の話し相手をさせられてしまい、くたくたになって妹を公爵家公邸に連れて帰ると。

 今日もなぜか待ち構えるように早く帰っていた父を捕まえると、母も呼んでもらい執務室で報告を始めたのですが。

 この食い気味の父が、なぜか無性にムカつくんだけど。


「どうもこうもありません。国王陛下からは魔法学園での護衛を仰(おお)せつかりましたが、それだけです」


「え~、可愛かった~とか、話が合った~とかないのぉ?」


 ブスッとした顔を隠そうともしない僕に、ほわほわした母が不満そうな声を上げます。

 だからわざと大げさに肩をすくめてみせると、逆にニヤッと笑って言い切るのでした。


「何を期待されているのか、だいたい想像がつきますが。僕の婚約者候補であれば、今ここでハッキリとお断りしておきますね?」


「げっ、会ってすぐにそれか?」

「えーっ、綺麗なお姫様って聞いてたわよぉ~?」


 しかし目論見通りにいかなかった両親は、てきめん困った顔をするのでした。

 だからこんな僕を育ててくれた両親には感謝の気持ちを込めて、できるだけ懇切丁寧に説明するよう心がけるのです。


「ともかく、国王陛下には父上からよく言っておいてくださいね。まかり間違って王女殿下の前で婚約話が出たとしても、僕はきっぱりとお断りしますので。

 それで帝国との関係が壊れて困るようなら、やめておくことをお勧めします」


「ほらやっぱり、怒ったじゃないのよ~」


「だってぇ~、国王陛下に黙って婚約させてビックリさせるのと、どっちがいいって言われたらさぁ。そんな危ない真似なんで、できないじゃんかぁ。

 確かに公爵家嫡男としてこの年で婚約者がいないってのは、普通じゃない訳だし」


 どうやら今回もやっぱり、国王の差し金だったようです。あの王家は本当にろくなことをしないな。やっぱり潰すか?


「僕が妹の幸せを見届けるまで、相手が誰であろうと結婚するわけがないことはご存じですよね?

 はぁ~、最悪は帝国が滅びれば婚約は成立しませんけど?」


「最悪だよ! やめてっ。ホント、やめてね? 冗談じゃすまないからね?」


 ささくれ立った気分のまま、最悪のケースを想定して事前に確認を取っておくことにするのだが。

 慌てた父は一気に泣きそうな顔になると、両手でテーブルを叩きながら逆切れし始めてしまうのです。


「僕も冗談を言ったつもりはありませんが? 僕が妹のことで冗談を言ったりすると思いますか?」


「い、いえ……わかった。わかったから。国王陛下には私からよっく、よお~く話しておくからさ」


 僕の本気の誠意がようやく伝わったのか、すっかり老け込んだ表情の父が祈るように両掌を合わせて上下に振るのでした。

 その隣では母が孫の顔が~とかつぶやいていますが、まあ放っておいてもいいでしょう。


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