第5章1話 聖霊召喚士セラフィー
「それでエルネスティ、このお嬢さんをお前の従者にするというのは本気なのか?」
「ええ、よく考えると私には従者がひとりもいませんので。屋敷にひと部屋借りることになりますが、給料やらなんかは僕が雇い主といういうことで適当にやっておきます」
キルヴェスニエミ公爵家公邸に戻ると、珍しく屋敷にいた父にとりあえず報告だけはしておくことにしたのです。
「それはお前が何でもひとりでやってしまうからだろうに。
部屋ぐらいは構わんのだが、給料って……まだ学生のお前が。ああ、そういえば王太子側近としても、それから特殊作戦軍将校の分の給料もあったか。
まあ金の話は置いておいて、そのスイティアラ子爵家の親御さんの方はいいのか?」
「ええ、実の娘を借金のかたにフォンブリューヌ公爵家に売り飛ばした両親なんかに、口出しさせるつもりはありませんよ」
嫌な役職を思い出させてくれるが、金の方は上級地下迷宮ドロップの換金で小さな屋敷ぐらいなら買えるほどにはあるから心配ない。
セラフィーには悪いが実の親であろうと、邪魔をする者は誰であろうと排除するだけです。
「そうか。しかし フォンブリューヌ公爵家はどうするのだ? あの公爺が黙っているとは思えないが?」
「いらなくなって捨てたんだから、そっちも今さら口出しさせるつもりはありませんよ。何か言って来たら、それなりの対応をするまでです」
あの糞エロ爺には必ず生まれてきたことを後悔させてやる。
「う……仮にも同格の四大公爵家なんだ。手荒な真似はするんじゃないぞ?」
「ふぅ~、何を言っているのです。僕がやられた以上のことを仕返したことがありますか?」
やはり公爵家当主の父としても、同じ公爵家相手では多少なりともビビるようです。
「それが怖いんだよっ。実際、今年に入っていくつもの貴族家がこの王都から姿を消しているんだぞ?」
「それこそ何を言っているんですか。すべて彼らの自業自得じゃないですか。僕がやっているのは、二度と大切な妹に手出しできないようにしているだけです」
いらないゴミ屑が王都から消えて、随分とさっぱりしたじゃないか。
むしろ命を取らなかっただけありがたいと思って、心優しい妹に感謝してほしいぐらいです。
「そ、そうなんだが。はぁ~、それで学園にも従者として連れていくのか?」
何が哀しいのか盛大に肩を落とした父の言葉に、僕は一歩さがって控えているセラフィーに振り返ると。
「ああ、それなんですけど。セラフィーさんは魔法学園の二年生に復学することもできるけど、どうしますか?」
「いえ、実は私は一年生の単位を終了しておりませんので、おそらく留年して一年生からやり直しになりますし。今さら生徒として戻っても……。
あと、私のことは従者として呼び捨てでお願いします」
実は今後のことを考えて効率的なパワーレベリングのためにも、上級クラスである魔法学園の隠し地下迷宮にも連れていくつもりなので、学生の身分が都合が良かったりするのです。
「う~ん、貴族枠では確かに難しいかもしれないけど、平民枠でなら僕の従者として一年生に転入することができると思いますよ? 何なら僕と同じクラスでもいいですけど」
「えぇ? エルネスティ様と同じクラスですかっ! で、では、ぜひとも私もご一緒させていただきたく……うぅ、嬉しい」
黒髪の薄幸美少女であるセラフィーが綺麗な黒い瞳を見開くと、わずかに嬉しそうに微笑むのでした。
まあ、新しい学園長にはこれまでも沢山の貸しがあるから、これぐらい快く話を聞いてくれるでしょう。
「そうですか。魔法実技の死なない地下迷宮攻略も、秋に泊まりである実技遠征も一緒の方が何かとやりやすいですからね。じゃあ、その方向で書類の方はまかせておいて」
「はいっ、何から何までありがとうございます。エルネスティ様、このご恩は一生忘れません」
そう言って、ひとつ年上のバインバインなナイスバディで優艶なカーテシーを見せてくれるのでした。
「お~い、結局お父さんの意見は聞いてくれないのか~い?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「やあ、アーサーくん。久しぶりだね。それにしても随分と焼けたんじゃないか?」
「ははは、実は夏休みの間は故郷に帰っていて、村の手伝いとか色々と」
約2ヵ月ぶりとなる、夏休み明けの2学期の登校初日。
やっぱり午前中はホームルームの後、1年生全クラスでの魔法実技の授業からのスタートとなっていました。
真っ黒に日焼けした【勇者】アーサーくんは、さらに精悍になっていてイケメン度アップしています。
「アーサー様、ご無沙汰しております。こちらはお兄様の従者となりましたセラフィーですわ。同じクラスに転入して来たのですよ」
「お初にお目にかかります。先日よりエルネスティ様の従者を務めさせていただいています、セラフィーと申します」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いしましゅ……」
よくできた妹が、転入生扱いとなったセラフィーを知り合いに紹介して歩いてくれています。
【勇者】アーサーくんは、年上で出るとことは出て引っ込むところは引っ込んだダイナマイトボディのセラフィーナにカミカミになっているのですが。
惚れっぽいのか? それとも、田舎育ちで純朴なだけなのか。
するとそこへ入試成績優秀な1-A組から、わざわざ足早にやって来たのは。
「なんであんたみたいな不潔な女がここにいるのよ! お爺様に取り入ってたかと思えば、いやらしい女っ。ここはあんたのような」
「やあ、フォンブリューヌ公爵令嬢殿ではありませんか。キルヴェスニエミ公爵家嫡男である私の従者がどうかしましたか?」
何の偶然か同学年の成績上位クラス1-Aにいた、あの公爺の孫娘が屋敷でひどい目に遭っていたセラフィーの顔を覚えていたのだろう。
いきなり実技演習場に響き渡るような大声で罵倒し始めたのです。
だからわざと途中で割って入ると、公爵家対公爵家の構図にすり替えることにします。
「え? い、いえ、エルネスティ様。私はこの女が……エルネスティ様の従者、ですか? まさか、このような穢らわしい女っ。【漆黒の公帝】であるエルネスティ様には相応しくありませんわ!」
「あ~、それ以上はここでは。そうだ、私のことをご心配いただいているようなので。いいことを教えて差し上げましょう」
急に僕がセラフィーの前に立ち塞がったからか、ビックリした表情で、でもなぜか頬を赤く染めてフォンブリューヌ公爵令嬢が自論を力説し始めました。
まあそんなことはどうでもいいので、僕は公爵家嫡男として教育されてきた紳士な仮面をかぶって優しく微笑みかけます。
「え? いったい、何を……?」
「この王国の法律で使用を禁止されている奴隷紋ですがね、主従契約をする時に主人の血液を奴隷紋に触れさせて登録する必要があるんですよ。
それでですね、今はもう綺麗さっぱりと跡形も無く解呪された奴隷紋でも、その時に契約で使用された魔導書の魔方陣が残っていれば、その元主人を【鑑定】で特定できるのですよねぇ。知ってました?
そう言えば来週には王家と四大公爵家のトップ会議がありますが、その前に国王陛下にあの違法借金奴隷の魔導書について報告しないといけないですね。
困りましたねぇ。いやぁ~、困りました。
だから、お前んトコのクソ爺に言っておけ。二度とセラフィーに手出しするんじゃねぇ。分かったな?」
キョトンとした顔をしたフォンブリューヌ公爵令嬢に、最後は口が耳まで三日月のように避けた微笑みで、心から真摯な態度とともにお願いすると。
見開いた目はそのままに、ボタボタと冷や汗を流しながら顔を真っ青にして、口をパクパクさせると壊れた人形のように首を縦にガクガクと振るのでした。
「……こくこくこく」
「ああ、それから契約書は控えもキチンと公爵家で管理できる場所に置いておくことをお勧めしますよ?」
そうなのです。実はあれから当然のように、スイティアラ子爵家に「お嬢さんを(従者に)ください」とご挨拶にうかがいました。
するとご両親は敵対派閥の公爵家が突然乗り込んで来たからか、喜び勇んで泣きながら頭を床に擦り付けていたのです。
まあ、セラフィーが自分の人生を棒に振ってまで救った子爵家を潰すのは忍びないですから。
後から夜闇に紛れて上位闇魔法【迷彩幻影】で子爵屋敷に侵入して、隠し金庫にあった借金奴隷売買契約書関連を、一切合切借りて来るだけにしました。
ただ他の契約書を見る限りではどうやら子爵家は、黒髪黒目美少女のセラフィーを見初めた、エロ公爺に負債を押し付けられて騙されただけのようでしたが。
「ひっ……」
「ああ、失禁してしまいましたか。しかたがないですねぇ。先生、何だか彼女、気分が悪いようですよ?」
別に【威圧】スキルは使用していないのですが、フォンブリューヌ公爵令嬢は立ったままジョオロジョオロ~と、足元に湯気を上げながら水溜まりを作ってしまうのでした。
あ~、1年全クラスの生徒達が見ているというのに……婚約者さんとか社交関係のご友人とか大丈夫なのでしょうか。
まあ、僕には関係ありませんけどね。
そうしてなぜか顔色の悪い実技演習担当の優男教諭の指示で、夏休み明け久しぶりになるゴーレムの的当てを始めました。
最近では、複数のゴーレムがゆっくりとですが動き回る的の仕様になっています。
夏休みの間にどのくらい魔法の威力が上がっているかを確認するための、簡単な抜き打ちテストのようですが。
僕はともかく、最高難易度S級地下迷宮を踏破して大量の経験値をゲットした見習い騎士シュルヴィと、特にSランクハンターになった妹は力の加減ができなかったようで。
二人して実技演習場に巨大なクレーターを作って、優男教諭と女担任教諭に加えて他の生徒達の度肝を抜いてしまったのでした。
そうして1-Bクラス最後に登場したのは、謎の美少女転入生のセラフィーです。
実は前世のゲーム知識から、王都から西に行ったところにある砂漠地帯の最奥にある、太古の神殿に一緒に行って契約をしてもらってあります。
そうして僕のパーティー後衛としてセラフィーには、この世界でたったひとりのオンリーワン職業を極めてもらうようお願いしたですが。
1-B担任の女教諭がいつものゆったりとした口調で、慣れない転入生に優しく声をかけます。
「それでは~転入早々で大変でしょうが、セラフィーさんの番ですぅ。初めてなので無理はしないようにね~?」
「はい、先生。……【聖霊召喚】!」
5mほどの距離でゴーレムの的の前に立ったセラフィーが、ひとことだけ言霊を詠唱すると。
突然、光の洪水と暴風が吹き荒れて、その中空から半透明で純白の美少女が姿を顕現させました。
そう、これがこの世界でセラフィーの持つ唯一無二の超レア上級職業【聖霊召喚士】による、神の代行たる聖霊の現界への召喚なのです。
「聖霊ホーリーちゃん、攻撃!」
年上の女性ならではのどこかホワホワした台詞に、半透明の美少女が右手を上げると無言のゼロタイムで、ゴーレムの的が煌めく閃光の後で轟音と共に全て薙ぎ倒されてしまいました。
「わぁ~、セラフィーったら。初めてなのに、凄いですわ」
「お~、姫様。これはボクも負けていられないっス、ふんす」
「え、えへへ~。そんなぁ、全部エルネスティ様のおかげなんですよぉ~?」
一緒に授業に出ていた妹と見習い騎士のシュルヴィが、その単純な威力に驚いていますが。
そんなセラフィーはというと、先日仲良くなって契約したばかりの純白の美少女である聖霊を抱きしめながら、長い黒髪をフリフリするとダイナマイトボディも嬉しそうにクネクネと踊らせるのでした。
実はこの聖霊さん、一般にこの世界でも見られる精霊とはまったく神格が桁違いで、どちらかと言うと神聖魔法における神の御業の代行者に近かったりします。
だからレベルが上がると、今のような範囲殲滅だけでなく、何と部位欠損の復元やら、天候や地形操作に加えて、果ては蘇生まで出来たりするとかしないとか。
う~ん、早いとこ自衛できるぐらいまでパワーレベリングしておかないと、Sランクハンターになった妹よりも前に、アホな貴族連中に誘拐されないか心配だったりします。




