第4章2話 そうだ天空城へ行こう
「そうだ天空城へ行こう」
「え? お兄様、今何とおっしゃいましたか? 天空城って、かつて古の神話に伝承が残されている
、あの伝説の空に浮かぶお城のことでしょうか?」
魔法学園の教室で休み時間。いよいよ明日から始まる夏休みに、可愛い妹におねだりされた嬉し楽しい旅行を計画しているのです。
CMのように気軽に新幹線で行く古都ではないけど、前世のゲーム知識によると神の時代の古都なら今も普通に空を飛んでいます。
「うん、どんな伝説か知らないけど、たぶんそれだよユスティーナ。せかっくの学生時代の夏休みなんだから、誰も行ったことも見たこともないドキドキワクワクの旅行に無料ご招待しようではないか!」
「あのぉ~、姫様。これまでかつて誰も行ったことが無いのは間違い無いっスけど、空のどこにあってどうやって行くか分からないから前人未到なのでは?」
珍しく蒼い瞳を丸くしている妹の向こうの席から、見習い騎士のシュルヴィがそ~っと手を上げて、おずおずと聞いてくる。
確かに前世のゲームでも、天空城へはラスボス攻略直前に飛行船を手に入れないと行けない仕様になっていたが。
「そこは僕にまかせろっ。可愛い妹の望みをかなえるのは兄の務めだーっ、ははは~」
「あ~、もしかしてお兄様。この前の……?」
「ん~? 何っスか姫様、そのいやな予感満載ぽっいのは?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぎゃあああああああああああああ!」
「シュルヴィ、うるさい」
「うふふ、お兄様。それはしかたありませんわ。最初は私もビックリしてドキドキしましたわ」
「ひっく……………お嬢様、ミーアはもうダメですにゃぁ~」
という訳で天使な妹をお姫様だっこすると、見習い騎士のシュルヴィとネコ耳メイドのミーアを僕の腰にしがみつかせて、上位闇魔法【漆黒の堕天使】を使って漆黒の翼と共に雲の上まで一気に飛び上がっていた。
そう、別に飛行船なんか無くても一度ゲームクリアしてカンストしたスキルがあれば、空を飛ぶことぐらい訳無いのです。
「問題はどこを飛んでるかだけど……おぉ、あった。ほら、ユスティーナ見てごらん。あそこに浮いている島が、天空城だよ」
「わわっ、本当にありました。お兄様、とっても綺麗な白亜の城ですわ。あら、島の下の方は岩肌なんですのね」
高高度から惑星を俯瞰しながら探してみると、以外と簡単に見つかった。惑星の反対側に行ってなくてよかった。
そのままお姫様抱っこの妹と、気絶したので下位闇魔法【影繋縛】で僕の腰に縛り付けたシュルヴィとミーアを連れて、それほど時間もかからず無事に天空城へと降り立つのでした。
「わぁ~、お兄様。なんて美しい城下町なんでしょう。白壁に木組みの家ばかりで、窓にお花がたくさん飾られていて、石畳の小路がまるで迷路のようですわ」
「外敵となる隣国がいないから城壁がないんだね。だから田園風景からすぐにそのまま街並みが続くなんて、地上では見ない独特の風景となっているのか」
人々を驚かせないように街の入口に降りた僕達は、そのまま細く曲がりくねった路地をテクテクと街の中心に向かって歩くのですが。
生まれて初めてになる本格的な外国旅行に、妹は小さな子供のようにはしゃいで、蒼い瞳をキラキラさせてあっちをキョロキョロ、こっちをウロウロしながら蛇行しならが走り回っています。
「ぴくっ。うぅ~、姫様ぁ~ひどいっスよぉ~。空を飛ぶなら飛ぶって先に言ってくださいっスよぉ~」
「はっ……お嬢様っ、ネコは空を飛ばないのでしゅにゃぁ~」
「おっ、起きたかシュルヴィ、ミーア。何を言ってるんだ、空ぐらい飛べないで騎士もメイドも務まるもんか」
さっきからカンストした【身体強化】スキルを使って米俵のように両脇に抱えていた、見習い騎士とネコ耳メイドがやっと目を覚ましたようだ。
まったく、情けない奴らだ。これでリバースでもしていたら、そこらへんに捨てて来ているところです。
「う~、そんなぁ。空飛ぶ騎士なんて英雄譚の竜騎士ぐらいじゃないっスかぁ」
「にゃあ~、お嬢様ぁ。ゴスロリなメイド服を着て空飛ぶのは魔法少女ですにゃ~」
「うふふ、シュルヴィにミーア。そろそろ自分で歩かないと、悪い顔をしたお兄様に路地裏に捨てられますよ?」
すっかり泣きが入ったへっぽこ騎士と目がクルクルしているネコ耳メイドは、夢物語の中へとトリップしてしまったようです。
そんな自分の騎士とメイドに、なぜかちょっとだけ機嫌が悪い妹が蒼い瞳を細めて、ニコォ~っと微笑むのでした。
ぶるっ、となぜか背筋が寒くなったのですけど。
「ところで、ミーア。お前、最近、何かにゃ~にゃ~言ってないか?」
「ふふふ~、新人のシュルヴィが来て見習い騎士でボクっ娘とキャラが無駄に立っているので、ミーアも萌えネコっぽく対抗してみましたにゃ~」
ん~、だたのアホネコだった。
まあさっきから妹の方から危険察知がアラートをビンビン鳴らしているので、道端にへっぽこ騎士とぽんこつメイドを投げ捨てると、何事も無かったようにすぐ側にあった商店のウィンドウに並ぶ数々の売品を指差します。
「ぽいぽい。ほ、ほら、ユスティーナ。街のショッピングエリアに着いたようだよ。他では見られないご当地の名産品とかあるかもしれないね?」
「わぁっ、どれも細工が信じられないぐらい緻密ですわ。あら、これは何かしら……魔道具の腕輪?」
そして王国では見ることのない品々を手に取って見ていた妹が、ショーケースに入った商品を覗き込んていました。
「ああ、それは腕時計だね。横のリューズを指で回してゼンマイを巻く機械式のタイプか」
「まあっ、この小さな文字盤と針が確かに時計に見えますが。本当にこんな小さい時計なんて見たことがないですわ」
確かに王城や公爵公邸でも、のっぽな据え置きの大型時計だった覚えがある。
そういえば王国では腕時計をしている人って、これまで見たことが無いです。
するとメガネをかけたにこやかな笑顔の女性店員がやってきて、妹が見ていたショーケースから腕時計を取り出す。
「いらっしゃいませ。お嬢様がご覧になっているのは今年の最新モデルで、これまでの商品よりも薄型軽量となっておりますので、女性のお客様が腕につけてご使用になられても違和感がないかと。
今いくつかデザインの違う商品もお出ししますので、お手に取ってご確認くださいませ」
「え? あ、いえ、私は……お兄様ぁ」
「ああ、ユスティーナに似合う腕時計があればお土産に買ってもいいと思うよ?」
少しびっくりしてたじろいだのか、僕の二の腕を取って妹が身体を半分だけ隠してしまう。
でもちょっとだけ気になるのか蒼い瞳の奥をくゆらせながら、僕を覗き込むように見上げて来るのでした。
そんな妹の様子を見ていた女性店員が、キラリーンとメガネを光らせると。
「まあまあ、実は今年のシリーズには限定カップルモデルもございまして。こちらになりますが、恋人同士がペアでご使用いただけるデザインとなっております」
「か、カップルっ? こ、恋人ぉっ! ぺ、ペアぁ~?」
目の前に並べられたペアウォッチを食い入るように見つめる妹が、頬を桜色に染めながらも目を離すことができないようです。
「ふふふ、ユスティーナ。これでいいかい? はら、つけてみて。ああ、よく似合うよ。店員さん、これを包んでもらうよ」
「え? お、お兄様。よ、よろしいのですか? だって、か、カップルで、こ、恋人同士の、ぺ、ペアなデザインなわけで」
手首に巻いたペアウォッチを大事そうに豊かな胸元に抱くと、珍しいことに耳まで赤くしながらワタワタする可憐な妹なのでした。
だから僕も男性用を左手首に巻いてから、妹の胸元にあるペアウォッチと並べて見せると、とうとう細い首筋まで真っ赤に染めて、僕の二の腕にしがみついて可愛い顔を隠してしまうのです。
「……お兄様。ありがとうございます。大切にしますね?」
「うふふ、そんなに気にいったのならよかった。それじゃあこれは、このまま付けていくとするよ」
プシュ~っと白煙をあげる愛愛しい妹は、にへら~っと頬をゆるませて腕時計を見つめるので、つい初々しくて庇護欲を掻き立てるのでした。
ゲームの世界と同じく共通通貨で支払いを済ませて、深々と頭を下げながら「お買い上げありがとうございます。またのご利用お待ちしております」と微笑むメガネの女性店員に礼を言って店を出ると、ちょうど昼食の時間になっていました。
「さぁ、ユスティーナ。お腹も空いたし、何か美味しそうな郷土料理でも食べるとしようかい?」
「はいっ、うふふ~。うふふふ~」
元気な返事は帰って来るのだけれど、視線は手首のペアウォッチから離れることは無く、そんなテレテレな妹の細く柔らかな手を取って歩き始める。
「お嬢様っ、チーズ料理の専門店がございますよ? 石焼チーズリゾット、とろとろチーズグラタンにチーズフォンデュ……じゅるっ。美味しそうですぅ~」
「おおっ、姫様。ケーキバイキングもありまっスよ。すごいっス、どれにしよう……ごくっ」
先に行っていたネコ耳メイドのミーアが店先にならぶチーズに涎を垂らしそうになっているし、見習い騎士のシュルヴィは既にデザートから目が離せないようです。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うふふ、これが神代から天空にあった街並みなのですね。お兄様、このような素敵な場所に連れて来ていただいてありがとうございます」
「そうか。ユスティーナが喜んでくれたのなら、来てよかった。この階段広場の他にも古い歴史を持つ神殿や伝統の美術館に古代からの古書がある図書館とか。ああ、そういえばここには地下迷宮もあるんだよ」
昼下がりに神々の像を中心にした噴水がある大広場の前の長い階段に座って、手にしたジェラートを小さな舌で艶っぽく舐めている妹が、どこか遠くを見るようにして微笑んでいます。
小高い丘の途中だからか城下町の向こうには田園風景があって、蒼空のその先は真っ白な雲海がどこまでも見渡す限り水平線のように広がっているのでした。
「お兄様と良い思い出ができました。これできっと思い残すことはなくなる……はず、なのです」
「……ユスティーナ? 疲れたのなら、少し早いけど宿に行って休んでもいいけど。ああ、さっき高級ホテルのスイートを確保しておいたから、空が見える大きなバスルームにでも入ってゆっくりと」
「チッ……回り込まれたっ」
どうしてか辛そうに眉を下げてしまった妹の哀し気な横顔に、つい早口に関係ない余計なことを口走っていると。
ちょうどその時、長い階段を駆け下りて来た少女が、僕達が座っているすぐ横で舌打ちして立ち止まっていた。
見るとそらいろのワンピースを着た金髪碧眼の美少女が、両手にサンダルを持って裸足で立っており。
その周りを取り囲むように黒サングラスに黒服の見るからに戦闘のプロ達が階段の上下から近寄って来ていたのです。
もう、厄介ごとの予感しかしません。次の瞬間、その少女と目があってしまいます。
「……あっ! た、たすけ」
思わず無視してフッと反対に視線をそらせると、そこにはどこまでも澄んだ妹の蒼い瞳があって……無言で僕を見つめています。
少し前までは引っ込み思案で自分の意思をあまり表に出さなかった妹が、最近になって少しづつですが変わって来た気がするのです。
もちろん、いい意味で。
「はぁ~、まずは助けるだけだよ? いいね、ユスティーナ」
「はいっ、お兄様! お願いしますっ」
困ったようにため息をつきながらも、なぜこんなに期待に満ちた嬉しそうな顔で、祈るように両手の拳を胸元で握り締めるのだろうと。
抗う術を持たない僕は、ただ心の中で笑うしかないのでした。
「たすけ、てっ」
「【闇黒衝撃】!」
階段上の四人と階段下から来る二人の心臓めがけて、上位闇魔法を並列起動させる。
次の瞬間くぐもった低い破裂音がして、同時に胸元を陥没させた黒服全員が膝から崩れ落ちていた。
「た、すけて……え?」
「心停止させただけだ、すぐに起きて来るぞ。助けてほしいなら、来い」
黒服の何人かは階段を転げ落ちて行ったが、それに構わず上位闇魔法【漆黒の門】を起動させると、さっさと妹を先頭に騎士見習いシュルヴィとネコ耳メイドのミーアを転移させてから、ポカンとしたままの見知らぬ少女に手招きする。
「え、ええ? ま、待って、待つのだっ」
「……はぁ~、やっぱりプロの護衛か」
ワタワタと少女が転移したのを確認してから、あらためて周囲を見回すが。
一度は心停止したはずの黒服の何人かはいつの間にか意識を取り戻していたので、小さくため息をつきながら殿で転移するのでした。




