第3章5話 武闘大会(上)
「うふふ、お兄様ったらそれでは私に追いつけませんわよ~」
「ユスティーナっ、それはズルくないでしょうか? っていうか、パレオがめくれて太腿が見えてぐあっ」
初夏の日差しの下、アクアマリンに輝く海で妹が器用に【耐水】ポーションを駆使して、まるで海面を滑るように波乗り状態で駆けています。
それを追いかける僕はというと、得意の闇魔法では海水の上に浮くことはできないので、ただひたすらクロールで追いすがっているのでした。
今日の妹はパーホワイトの大胆な露出のセパレーツ水着で、年の割に豊満な胸をホルダーネックで釣って、腰には申し訳程度のシースルーパレオを巻いているのだが。
かなりの高速で水面を滑走するので、捲れて妖艶なむっちり生足をちっとも隠せていません。
それを心優しい兄として指摘したところ、【錬成】された水弾の直撃を顔面に受けて撃沈させられていた。
いまだに攻撃魔法は覚えていないが、既にそれを凌駕するほどの超攻撃的【錬金術】を手足のように操る妹なのです。
「お兄様のエッチっ!」
「いたた、いや。ユスティーナ、そのあまりによく似合っているビキニ姿では、マリーナに舞い降りた水着の天使のようで、周囲の海水浴客の視線を釘付けにしぐあっ」
「きゃーっ、ユスティーナ様の水着姿ったらビューテフォーッ!」
「それにしてもあの黄金比のプロポーションが……おうふっ、鼻血」
「いつもにも増して兄妹が仲睦まじいくて羨ましいっ」
「オ、オレ、前屈みになって」
実際のところ、真っ白な砂浜に全国から集まったお年頃の学生達から熱い視線を集めまくっています。
その波打ち際には大会応援の学生達に混じって、見知った王太子に側近のゲルハルトと【聖女】マリアに加えて、【勇者】アーサーくんの姿まであった。
そう、ここは明日から今年の武闘大会の本戦が開催される、王都から馬車で1日の距離にある、海岸都市の目の前に広がるロングビーチなのでした。
「あっ……今の二発目は間違えましたわ。ご、ごめんなさい、お兄様。初めて海に来たので、ちょっとだけはしゃいでしまいましたわ」
「いてて、まあユスティーナが楽しいなら構わないよ……ん? あれは、モンスターの反応か? デカいな」
遠くの水平線から、何か巨大な物体が海底を急速に接近して来ているのが【索敵】に緊急アラートを上げます。
それが海面に立ち昇る水しぶきと共にその姿をあらわすと、なんとレア海生モンスターで特大サイズのクラーケンだった。
次の瞬間には多くの学生達が集まっていたビーチはパニックに陥ってしまい、逃げ惑う人々で大混乱となっていました。
「ぎゃああ、クラーケンってS級モンスターだぞ!」
「何であんなバケモノがこんな海岸都市に?」
「早くハンター協会にS級ハンターの救援要請をっ」
「王太子殿下も早く避難を!」
「う、うん、マリアも早くこっちへ」
「ぎゃあああ。こんなイベント、ゲームには無かったじゃないのよ!」
どうやら王太子や【聖女】マリア達も、真っ先に逃げることにしたようだ。
そんなビーチの混沌を背にした妹は【耐水】で海面に立ったまま、遥か遠くに見えるクラーケンの巨体を蒼い瞳で睨む。
「お兄様、私が遠距離飽和攻撃で時間を稼ぎますので、その間にっ」
「くそっ、ユスティーナっ。この前、隠し地下迷宮の30階層ボスからレアドロップした、聖弓シェキナーを使え!」
まだ千m以上あるこの距離で迎撃できる魔法は超位クラス以外では僕の闇魔法には無いが、最初から攻撃魔法が付与されている神話級・聖弓シェキナーであれば、妹の【錬金術】を上乗せしてここからでも確実に狙撃可能だ。
プラチナブロンドの長髪をなびかせて聖弓シェキナーに【錬成】した魔矢をつがえた妹が、海面に派手な水しぶきを立ち上げながら疾走するのを確認してから、それを追うように上級闇魔法【漆黒の堕天使】を起動させる。
「上位錬金術【錬成】流星!」
実は今回の遠征用に王都のハンター装備専門店が納品してきたユスティーナ専用装備である、パールホワイトのビキニ水着は【物理防御】、【魔法防御】などに加え【魔力上昇】が付与されていた。
その魔力上昇分を上乗せした超長距離範囲攻撃が、ジェットスキーのような加速で海上を爆走する、妹の持つ聖弓シェキナーから魔矢ごと発射される。
眩しいほどの光線が空間を切り裂くと、遥か遠くのクラーケンに着弾。
次の瞬間には轟音と共に津波のような水しぶきが海上を舞い、天空にはきのこ雲がもくもくと立ち昇った。
追撃しようと上級闇魔法【漆黒の堕天使】で飛んで直上まで接敵していた僕も、これにはさすがにビックリです。
黒煙が海風に流されると、深海に沈んでいくクラーケンの残骸がゆらゆらと見えるのでした。
「おぉ~、これほどとは。聖弓シェキナーを手に入れたとはいえ、さすがはゲームで僕のパーティー最強の後衛ユスティーナだ」
「お兄様ぁ~、イカはどうなりましたかぁ~?」
呆気にとられている僕に、ロングビーチから離れた海上で、妹が元気に手を振っています。
そのせいでパールホワイトの水着で覆われた豊かな双丘が柔らかに揺れているので、思わずクラッときて危うく海面に落下しそうでした。
ついでにせっかくのS級モンスターなので素材回収のためにも、上位闇魔法【漆黒の門】の魔法陣を足元の海底に展開して、クラーケンの死骸を砂浜に転移させておくことにします。
「きゃあーっ、ユスティーナ様ったら一撃でしたわよ!」
「ふふふ、さすがは弓道部の新人エースですっ」A
「あぁっ、ユスティーナ様の凛々しいお姿が天使のようです」
「弓を手に海を走るそのお姿はコレクションしたくなるような艦隊の美少女のようで……ぶはっ、鼻血が」
「ぎゃあああっ、く、クラーケンの死骸が!」
「いきなりビーチに転移してきたぞ?」
そうこうしていると、海岸都市のハンター達が大勢やって来ました。
どうやらクラーケンの襲来など、ここ何十年もなかったレアな大事件のようでみんなビックリしてます。
特大クラーケンの死骸からは、妹が【錬金術】で使用するための素材として【牙】や【墨袋】などをもらって、他は今夜の武闘大会の前夜祭でバーベキューとしてみんなで食べることになりました。
その後、武闘大会の前夜祭会場に海岸都市のハンター協会の支部マスターがわざわざやって来て、妹のハンターランクを更新していったのですが。
本当はS級モンスターを単独討伐したのだから、最低でもAランクに昇級させたかったようですが、2階級特進は前例が無いらしくて残念がっていました。
「お兄様、ハンターカードが銀色になりましたわ。うふふ~、実は浜辺のバーベキューも初めてで、このイカゲソ串焼きも美味しいですし~、今日はいいことがいっぱいです」
「よかったね、ユスティーナ。しかしハンター登録して2か月も経っていないのに、もう上級Bランクだなんて最短記録かも?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
明けて翌日は武闘大会の本戦です。
王国各地から8校の代表が出場する全国大会で、魔法学園以外には騎士学校、魔術学院、錬金術学院、傭兵学校、海軍学校など学校ごとに個性のある色彩豊かなラインナップとなっています。
「既に承知のこととは思うが、武闘大会の本線は5人団体戦で、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に1対1戦で勝ち星を競って、先に3勝した方が勝ち抜ける方式となってる。
我々は先鋒が1年アーサー、次鋒が3年ダミアン、中堅が私ゲルハルトで副将がエルネスティ、そして大将は王太子殿下となります」
海岸都市の武闘大会本戦会場となる大武闘場の選手控室で、騎士団長子息のゲルハルトが全身の筋肉を盛り上がらせて珍しく沢山喋っていた。
1年生の僕らはともかく、予戦で5位だった王太子が大将なのは、どうやら貴族の理論が働いたからみたいです。
その王太子はといえば、さっきから目をつむって腕組みをしたまま押し黙っています。
確か選手団団長はこの人だった気がするのですが。いいのかそれで。
すると、横にいた【勇者】くんが緊張した様子も無く、コソコソと僕の耳元につぶやきます。
「そういえば、エルネスティ様ってユスティーナ様に優勝を約束してませんでしたっけ?」
「うっ、アーサーくん。君は今になって何てこと思い出させるんだ」
しかし実のところ、優勝候補はダントツで騎士学校だったりするらしいです。
まあ、攻撃魔法が使用できない大会規定では、魔法学園はその特色を生かせないので仕方ありません。
ただ、今年は王太子が最高学年で出場することもあり、魔法学園も優勝候補に名を連ねている……らしいのですが。
「お兄様、お怪我をなさりませんよう。ご武運を」
「ああ、まかせて。すぐ終わらせてくるからね」
この武闘大会の本戦でも予戦に引き続き、天使なミニスカナースの妹は救護班として選手ベンチに同道していた。
既に1回戦は先鋒の【勇者】アーサーが余裕で勝利、次鋒の従騎士ダミアンが惜敗、中堅の騎士団長子息のゲルハルトは危なげなく勝利しています。
まあ初戦の相手は魔術学院な訳で、僕達の魔法学園と同様に得意分野を封じられているのだから、後は純粋な力比べでしかなく推して知るべしといったところです。
「エルネスティ、最後は私にまかせろ」
会場に向かう途中で王太子が何か言っていたが、無視だな。
対戦相手はローブを着て手には杖型エストックといった、いかにも魔術士といった風情で……おもしろい。
架空のゲームではないこの現実の世界でどこまでやれるか、見せてみろ。
思わずニヤ~ッと口元が緩んでしまい、「ああ、お兄様がまた悪い顔をしています」という妹のつぶやきがベンチから聞こえてくる。
「それでは、はじめ!」
審判のかけ声と同時に、バキンッと僕の【魔法防壁】に衝撃が走る。
試合開始前から呪文を準備していたのだろう……これは【呪術】だ。
しかし、たとえ呪術耐性のない防御を貫通したとしても、カンストした【状態異常耐性】を持つ僕にどこまで通用するか。
ちょっとだけ楽しくなってきて手に持つ普通の刃引きのショートソードで、相手の杖型エストックの刺突をパリングすると、どうやら接触式のデバフが魔術付与されていました。
いい攻撃だ。まだ【勇者】スキルが完全覚醒していない、アーサーくんだったら危なかったかもしれない。
「……ま、参った」
「あれ?」
楽し過ぎて勢いあまって対戦相手の首筋に、剣をピタッと寸止めしてしまっていたようです。
残念、もう少し色々見てみたかったのですが。
呪術をはじめ魔術全般は闇魔法と相性が良さそうなので、単なるゲームじゃないこの2週目でなら、今度暇なときにでもスキル取得してもいいかもしれないですね。
「さすがお兄様ですっ、遠隔【呪術】弾もデバフ系【魔術】もことごとくを無効化しておられましたね?」
「お? ユスティーナ、見えていたのか。そうだな、対策していないと一気に持って逝かれるから。特に中階層の上級モンスターから上には注意が必要になるんだよ」
嬉しそうにタオルで首筋を拭いてくれている、ミニスカナースの妹がマジで天使のようです。
ちゃんと敵の使用スキル類の【鑑定】もできていたようなので、思わずプラチナブロンドの長髪をそっとなでてしまうのでした。
その後ろでは腕組みをしたまま不貞腐れて、こっちを睨んできている王太子の姿が視界の端に見えますが。無視だな。
ああ、そういえばこれで1回戦目は3勝で初戦突破ということになるのでしたね。




