第3章4話 闇カルテルの終焉
「で、どうしてこうなった?」
苦虫を噛み潰したような疲れた表情で、国王陛下が低くつぶやく。
王城の国王執務室には真夜中だというのに国王陛下の他に、王妃とキルヴェスニエミ公爵が暗い顔をしてソファに座って俯いていた。
その中で公爵がゆっくりとした口調で、昼間の武闘大会予戦での事件の詳細について語り始める。
「アウグスティーン王太子殿下は先の新入生歓迎舞踏会での婚約破棄未遂事件を、ほぼたったひとりで解決してしまったエルネスティを逆恨みしているようですな。
自分が何もできなかったことに苛立っているのは、騎士団長子息のゲルハルトも同様のようですが」
「だからといって決闘もどきの模擬戦を挑んだり、あげくは武闘大会の予備戦で武闘大会規定違反の魔道具を使うなど、何を考えておるのだ?
今回もまたエルネスティが力技で揉み消したから、今のところ表沙汰にはなってないようだが」
頭を抱えた国王陛下が呻くようにして吐き出すと、小さな溜息と共に公爵が静かに答える。
「今回はたまたまユスティーナにその矛先が向かなかったので、エルネスティは穏便に済ませたのです。ただ、それだけのことです」
「実際、先日ユスティーナ譲に直接手を出した者達は、完膚無きまでに再起不能にされたと聞きます。
我が息子、アウグスティーンもこの二度目のチャンスをふいにするようなら、残念ながら王国として覚悟を決める必要があるやもしれません」
国母として王妃が悲しみをたたえたまま、繰り返し首を横に振る。
それを黙って聞いていた国王陛下が苦しそうに、やはり低い声で独り言のようにつぶやく。
「前回の新入生歓迎舞踏会の事件は確かに【聖女】に原因があった。しかし、それを差し引いても、あれはない。
今回の件はそもそも【聖女】が関わっていない以上、王太子にそもそもの資質において問題があったと考えるべきだろう。
二度に渡る幼稚で短絡的な思考。本来であれば三度目は無いのだから謹慎が妥当なのだが、武闘大会の代表選手ではそうもいかん。
最低でもユスティーナ譲に傷がつかない方法で、穏便に婚約解消できるよう準備だけはしておく必要があるか……」
「できればこの方法は取りたくなかったのですが、最悪は第二王子を帰国させる準備も進めておきますわ」
とうとう両手で顔を覆ってしまった王妃がくぐもった声で言葉をこぼす。
どうしてこうなったのか、国王も公爵も暗澹たる気持ちで俯くしかなかった。
「国王陛下、嫌な予感がします。これ以上、何もなければよいのですが」
「やめろ。縁起でも無いこというな」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ユスティーナ、本当について来るつもりかい?」
「もちろんです、お兄様。私はとっても怒っているのですわよ?」
頬をプンと膨らませて妹が腰に手を当てる。
思わずその桜色をした可愛いほっぺをつつきたくなるのを、グッとこらえます。
で、僕と妹はというと、首だけ出した暗殺部隊幹部に案内させて、闇カルテルの入っている雑居ビルの地下へとやって来ています。
今日はかなり血生臭いことになるので、本当は連れて来るつもりはなかったのですが、ガンとしてユスティーナさんが聞いてくれなかったのです。
しょうがないので、いつも地下迷宮攻略でも使っているパールホワイトのハンター装備で完全武装してもらっています。
「よし、それじゃあ潜入作戦開始だ。対人戦は初めてだから、僕の後ろからついてくんだよ?」
「はい、お兄様。背中はおまかせください」
緊張からか言葉少なに答える妹を連れて、上位闇魔法【迷彩幻影】で姿を影のように消してから、途中の部屋にたむろしていた筋肉マッチョな闇カルテル構成員達を無視しながら、あっさりとボス部屋まで到達する。
地下の割に立派な闇カルテルのボス部屋には、幹部連中の他に【鑑定】してもやっぱりボスがいた。
「うおっ、いきなり現れやがって。誰でぃ!」
「キルヴェスニエミ公爵家といえば分かるか? それとも孤児院の女枢機卿から殺しを依頼された、その標的と言った方が分かりやすいか?」
ギョッとしてわめくボスに、僕は漆黒の魔力を手加減なしで部屋じゅうに放出しながら、耳まで裂けた口角を上げて逆に問い詰める。
するとその両方に心当たりがあったのか、その場にいた全員が冷や汗を流し始めるのでした。
「う、うそだろ……そ、そんな。あの女枢機卿、ハメやがったのか! お、俺らはキルヴェスニエミ公爵家に手を出すつもりはなかったんだ、本当だっ」
「ああ、そういうのはいいから。ただ、誰にケンカを売ったのか、死ぬ前にそれだけ知っていればそれでいい」
そう吐き捨てると上位闇魔法【漆黒の門】の巨大な魔法陣をボス部屋の床全体に展開し始める。
めんどくさいから、まとめて文字通り闇に葬ってやることにしました。
しかし後ろから、少しだけ怖いのか顔色の悪くなってしまった妹が、僕の服の袖を引いてきて。
「あ、お兄様。でもでも、マリエルちゃんが孤児院からどこに奴隷として売られたのか、聞き出したいので殺すのは待っていただきたいのですが?」
「え?」
「あ、ああっ、それならポワンスレ伯爵家だっ! あそこの夫婦の特に奥方がお得意様で、しょっちゅう少女の奴隷を買っていくんだっ。
なぁ、伯爵の屋敷も教えるし、全部話すから助けてくれ!」
どこかで聞いた貴族家の名が出ましたが、今すぐ行って助けられるのであれば、その方が妹が悲しまないのは間違いないですね。
だったらと、せっかく起動したボス部屋の上位闇魔法【漆黒の門】の魔法陣で、闇カルテルの幹部連中の首から下だけを沈めて逃げられないようにしておきます。
「それでは闇カルテルのボスさん。さっきのお約束通りに、マリエルちゃんを連れて行った、その伯爵家に案内してくださいね?」
「わ、分かった、約束は守る。裏に馬車があるからそれで案内するよ」
そうしている間にも人見知りなはずの妹が、がんばって闇カルテルのボスとの交渉を成立させていました。
とてもついこの間まで部屋に引きこもっていたとは思えない、高いコミュスキルに僕もビックリです。
しかしここで【直感】スキルがアラートでもあげたのか、にこやかな笑顔が怖い妹が蒼い瞳を細めて流し目を送ってきました。
「お兄様ぁ。今、何か悪いこと考えていますか?」
「あ、いえ。まさかぁ~、そんなコとナいですヨ。やだなぁ、ユスティーナさんったら」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「マリエルちゃん、もう大丈夫だからね!」
「うぅ……ユスティーナお姉ちゃん。助げでぐれてありがどうぅ~」
闇カルテルのボスに案内されたポワンスレ伯爵家とやらの屋敷では、救出を優先して最短時間での制圧のために出し惜しみせずに、屋敷の全員を出会い頭に問答無用で薙ぎ倒して下位闇魔法【影繋縛】で拘束していった。
途中でどこかで見たことのある、インテリ風イケメンが床に濡らしていたような気がしたが。
そうして屋敷の二階の伯爵夫婦のベッドルームで天井から縛って吊り下げられていた、マリエルを救出したのでした。
服をひん剥かれて怖い思いはしたようだけど、幸い手首を縛られた縄の痕以外はまだ傷ひとつ無い状態だった。
王国で重犯罪となっている奴隷売買の現行犯となった伯爵夫妻は、そうはいってもさすがに話を聞く必要があるので。
とりあえず上位闇魔法【漆黒の門】で恒例となった隠し地下迷宮の地下1階層ツアー旅行へと直行していただきました。
まあデブデブに太ってはいますが。痩せても枯れてもいい年こいた貴族位なんだし、魔法のひとつぐらい使えるだろうからすぐに死にはしないだろう。
大活躍の妹と助け出したマリエルは休ませる名目で、先に上位闇魔法【漆黒の門】で公爵公邸へと転送させておきました。
あとはついでに念のため闇カルテルのボスに聞いていた、伯爵屋敷の地下牢にもひとりで行ってみたんだけど、そこには元少女だった何かや、女性としての機能が損なわれた少女しか残っていなかった。
まだ息がある者は妹が作成した天使の上級回復薬をかけておいたので死にはしないが、意識が回復するかは微妙なところだろう。
最後に孤児院に転移して【勇者】アーサーくんと合流して、手足を切り飛ばされた女枢機卿とボロ雑巾のようになった伯爵夫婦を回収して、生存者の少女達と違法奴隷売買契約書をまとめて王城に送っておきました。
一夜明けると朝も早くから妹が綺麗に着飾ったマリエルを連れて、徹夜明けで寝ぼけていた僕の部屋にやって来ました。
少しだけ疲労の色が見えますが、今日も天使の笑顔が可愛い妹です。
「お兄様、マリエルちゃんは私の侍女見習いとして雇うことになりましたわ。ミーア、よろしくね?」
「は、はい! ユスティーナお嬢様、こ、これからよろしくお願いしますっ」
「もちろんです、お嬢様。このミーアにおまかせください。あ~そういえば、エルネスティ様宛に国王陛下からお手紙が届いておりますよ」
また、なぜか国王から朝メールが来ていた。
孤児院を隠れ蓑にした教会幹部の枢機卿による違法奴隷売買は、あの女枢機卿の単独犯だったようだが、この機会に教会の強大過ぎる権威を失墜させておこうと、立ち入り一斉検挙にふみ切ったらしい。
なんとかいう伯爵夫婦も違法奴隷売買の現行犯として、特に悪質だったので見せしめも兼ねて鞭打ちのうえで斬首。伯爵家は領地財産没収のうえで断絶となりました。
救出された少女達は体はともかく、心が壊れてしまってるらしく治療院に入ることになった。
その他の女枢機卿の奴隷売買の顧客についても、引き続き国王みずからが陣頭指揮をとって、被害者の救出作戦を既に開始済とのことです。
闇カルテルについては奴隷売買事業からは撤退廃業させて、裏社会の仕事を取り仕切るマフィアとして再スタートさせることになりました。
組織名を変更したのは国王と父との話し合いで、どうしてかキルヴェスニエミ公爵家が密かに管理下におくことになったわけのですが。
純真無垢で穢れを知らぬ妹には、黙っておいて知られたくない父の苦肉の策のようです。
【勇者】アーサーくんはというと、「俺も故郷の孤児院の出身なんだけど、たまたま魔法学園の入学があったので助かっただけで。ただ運がよかっただけだから、バラバラに奴隷として売られていった、孤児院の仲間達の消息を何年かかっても探します」とのことでした。
その次の晩に珍しく早く帰宅した父に執務室へ呼ばれたのだけど、やっぱりまた国王が心配しているらしかったですが。
今回は強盗にはあいましたが妹に直接の被害がなかったので、それほど酷いことにはならなかったと思うのですけど。
おや、頭を抱えていた父が大きな溜息をついています。
「はぁ~。おい、エルネスティ。お前、すっごく悪い顔してるぞ?」
「え、マジですか?」




