第3章2話 武闘大会予選
「それでは武闘大会の魔法学園代表5名を選抜する予選を、例年通りトーナメント方式とし明日から2日間に渡って開催する。
予備戦の大会規定は基本的に武闘大会本線に準拠しているので、攻撃魔法や魔道具が使用不可である以外はよく読んでおくように。
錬金術学を専攻している学生にはケガに備えて回復薬の作成を頼みたい。まあ、今回は聖魔法使いの【聖女】殿がおられるので、当日は回復魔法もかなりの回数使用できるはずだ」
武闘実技の筋肉マッチョ教諭がタンクトップ一丁で、黒板を叩きながら生徒達に向かって熱弁をふるっていた。
当然ですが集められた生徒の中には、3年生で実力者の王太子に騎士団子息ゲルハルトが来ています。
1年生からは僕と【勇者】アーサーはもちろんのこと、なぜか錬金術学の生徒代表として妹も呼ばれているのでした。
さらには【聖女】活動の一環ということで、強制的に参加が義務付けられている女性主人公マリアの姿もあります。
実行委員会の会議も終わったところで呼ばれてもいないのに、嫌そうな顔を隠そうともせずに王太子がやって来ました。
どうやら国王と王妃から相当きつく言われているようだけど、一歩間違えば廃嫡だったので同情の余地なしです。
「や、やあ、ユスティーナ譲。先日は世話をかけた」
しかも、それだけかよ。他に言うことがあるんじゃないのか?
「いえ、アウグスティーン王太子殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
だというのに、根がいい子の妹はちゃんと王太子妃教育の通りによそ行きの笑顔を作って、綺麗なカーテシーで挨拶を返すのです。
そして遠目にも目立つ左手の甲に呪術刻印を刻まれた【聖女】マリアはというと、離れた場所から妹を睨んでいて、とてもじゃないけど反省しているようには見えません。
お前も何か言うことがあるだろうに。
おまけに王太子の後ろに立っている脳筋ゲルハルトも、前回の模擬戦でこりていないのか、僕を射殺さんばかりに睨みつけています。
こんなんで学園代表は武闘大会を戦えるのでしょうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな訳で武闘大会の代表選考予備戦の当日。
上級生だけという訳でなく、各学年からまんべんなく10人前後が選抜されているので、合計30人以上の候補がトーナメントを競うことになります。
だから大きな武闘演習場の中に、5か所の会場を設営して同時に進めていくようです。
まあ、最強5人を選抜するだけなので決勝戦までやるのではなく、準決勝の4人が残ったところでトーナメント予備戦は終わりで、5人目は5位決定戦で選出されます。
「お兄様、頑張ってくださいね? でもケガしちゃダメですよ?」
「ああ、応援してくれるユスティーナのためにも必ず無傷で勝ってくると約束するよ」
どうしてか予戦会場の救護班で回復薬を出す看護担当として、錬金術学代表の妹がお手伝いをしています。
しかも今日は薄いピンク色の看護服をに見つけていて、いわゆる前世で言うところのミニスカナースだったりします。
グッジョブです! これを見れただけで、武闘大会予選に参加した甲斐があるというものです。
しかしこれでは回復薬を使用する前に天使のミニスカナース姿を目にした、ケガ人がそのまま天に召されてしまいそうです。
そんな天使のミニスカナースな妹に目が眩んだ、筋肉マッチョ野郎共が近寄って来て怖がらせたりしないように、予戦なんかには時間をかけずにサッサと瞬殺して見を光らせておかなくては。
ところで僕の初戦の相手は2メートル近い筋肉の塊のような3年生で、手にした刃引きの両手用大剣が普通の小さなショートソードに見えてしまいます。
その学生らしからぬ巨体に気圧されるように、審判を務める上級生がその右手を上げて。
「それでは、はじめ!」
「がっはは、貴様が騎士団長の息子ゲルハルトを倒したという、噂の1年坊主か……ぁ?」
開始と同時に【縮地】スキルで接敵すると、余裕をかまして高笑いをしている先輩が肩に担いだ大剣ごと、袈裟切りで一刀の元に斬り捨てる。
一瞬で金属同士がぶつかる轟音が鳴り響き、次の瞬間には二つにへし折れた大剣と共に、3年の先輩は地面にめり込むように倒れ伏していた。
「……え?」
審判の上級生がポカンと口を開けているけど、振り返ることなくスタスタと妹が待つ救護班の天幕へと戻って行く。
「お兄様っ、さすがです! 一瞬、消えたのかと思いましたわっ。あ、こちらをどうぞ。
いけないっ、そうでしたわ。ちょっとだけ、ここで待っていてくださいね。あの対戦相手の方に回復薬を持って行きますので」
「ははは、ありがとうユスティーナ。回復薬を持って行くなら、僕も手伝おう」
天使の微笑みをうかべて嬉しそうに駆け寄ってきた妹からタオルを受け取ると、ミニスカナースの護衛のためにも一緒に、もう一度3年の先輩が倒れている予戦会場へと戻る。
よく見ると白目をむいて失神しているようだが、まあ後遺症も残らないように手加減したので、妹の作った天使の回復薬をかけておけばそのうち治るだろう。
「しょ、勝者っ、エルネスティ! 救護班っ、早く早くっ」
「きゃーっ、エルネスティ様。最高~」
「文字通りの秒殺でしたわね」
「はぁ~、最強剣士のエルネスティ様……あ、鼻血が」
その後も順調に予備戦は消化されていき、その度にミニスカナース姿の妹が回復薬を手に大活躍でした。
彼女の作った回復薬の性能はもちろんですが、その慈愛に満ちた微笑みに癒された予戦参加者達は、口々に戦場に降臨した天使を褒め称えています。
「な、なによ……私の回復魔法の出番がちっとも無いじゃないのよ。それにやっぱり全然、悪役令嬢っぽくないんだけど何でなのよ?」
同じく救護班の天幕に配置されていた【聖女】マリアが、不満そうな顔をしてブツブツを何やらさっきからつぶやいるので、ちょっと危ない人のようです。
それにしてもあれだけのことをしでかして、今ではまるで奴隷紋のような呪術刻印まで刻まれて、王国の重犯罪者として常時監視されているというのに、ちっとも諦めていないその精神構造には驚きを隠せません。
そこへ左腕を押えながら【勇者】アーサーくんがやって来て、キョロキョロと救護班テントの中の見回します。
「あいたた……、ちょっと油断した。さすがは3年生だ。いいのを一発もらっちゃったよ。あれ、ユスティーナ様はどこだろう?」
「何だ、妹なら目の前の予戦会場に回復薬持って行ってるぞ。それぐらいのカスリ傷で、何だ。ほら、この妹お手製の天使の回復薬をありがたく感謝しながらかけておけ。
いくら無名の格下相手でも、最上級生を相手に気を抜き過ぎだ。こんな調子じゃ『試練の地下迷宮』で地獄のブートキャンプを増やさないとなぁ~」
どうやら妹にわざわざ癒してもらいに来たらしい、下心が丸見えのスケベ【勇者】には僕が回復薬を放り投げておく。
ついでにその弛んだ根性を叩き直すのも忘れない。まだ入学して間もない【勇者】には、レベルも実戦経験も足りてはいないのです。
だから、週の空いた時間を使って、絶対死なない『試練の地下迷宮』の中層から下層へと放り込んで鍛えているのですが、初級地下迷宮ではモンスターの強さも稼げる経験値も足りないのが難点でした。
「えぇ~、勘弁してくださいよ。あれ以上の下層に行ったら、命は大丈夫でも心が死んでしまいますよ~。
あっ、ユスティーナ様ぁ。私もお手伝いますよ~」
こいつは……1年後にはゲームで来襲するラスボスを【勇者】として倒さなくてはならないと言うのに、何を呑気なことを。
それに何だか、天使な妹の後ろをついて回る忠犬のように見えるのは気のせいでしょうか。
ちょっと、いやかなり男性主人公シナリオルートに不安を覚えるのですが。
そこへ【勇者】を無意識にスルーした妹がパタパタと駆け寄って来て、僕の体育着の胸元をちょっとだけ摘まむと、つま先立ちになって背伸びをするようにして小さな声でつぶやく。
「お兄様、そろそろトーナメント準々決勝のお時間ですわ。がんばってくださいね、ご武運をお祈りしておりますわ」
「あ、あぁ……それではサッサと終わらせてくるとするよ。ユスティーナ、君の祝福に感謝を」
だから初夏の訪れを告げる爽やかな風にそよぐ、妹の美しいプラチナブロンドの長髪をそっと撫でてから、踵を返すと武闘大会の出場者選考の実質的な決定戦となる予備戦準々決勝会場へと向かうのでした。
「きゃ~、エルネスティ様に天使の祝福をさずけるユスティーナ様よ!」
「あぁ、ユスティーナ様ったら、純潔の乙女のときめきが止まりませんわっ」
「英雄の後ろ姿を見送る天使のミニスカナース……ぶはっ、は、鼻血が」
準々決勝の予戦会場には、なぜか王太子と騎士団長子息のゲルハルトの二人が待ち構えていた。
ゲームを盛り上げるために2対1戦なのか? などと考えていると、脳筋ゲルハルトが近づいて来ます。
「貴様……分かっているのだろうな? 我ら側近がお仕えする王太子には、恥辱などありえないのだぞ」
「は? おっしゃっている意味が分からないのですが? もしかして僕の対戦相手は、王太子殿下なのですか?
まさかとは思いますが王太子殿下におかれましては、騎士団長ご子息のゲルハルト殿よりも弱い……なぁんてことはありませんよねぇ?」
何だ、負け犬が今度は八百長か? こりゃあ近衛騎士団員としても、次期国王側近としてもダメだな。
目を真っ赤に充血させてプルプルと震える王太子の側近筆頭は、何も言い返せないのかデカい拳を握り締めると、何かを決心したように一歩踏み出して来るが。
「よせ、ゲルハルト。貴様も別の会場で準々決勝があるのだろう? 相手を待たせるのは、騎士の名折れだぞ」
「……はっ、それではご武運をお祈りしております。では、私はこれにて失礼いたしますので。チッ」
全校生徒が見ている前でいったい何をしようとしたのか脳筋ゲルハルトは、王太子の鶴の一声で振り上げようとしていた拳を渋々下ろす。
そして忠誠心あふれる側近は王太子に騎士の礼を披露してから、盛大に舌打ちをしてすごすごと立ち去るのでした。
「……はぁ~、悪い奴ではないのだが。それでは正々堂々勝負といこうか」
「あれ? 正々堂々と言われましても、その魔道具は? まあ、いいです。その程度はハンデということで、国王陛下には黙っておいてあげますよ」
王太子の体操着の下には、明らかに武闘大会規定違反の魔道具が隠してあるのだけど。
こんなことしても【鑑定】スキルで一発なんだが、本気でバレないとでも思ったのだろうか。あまりに小物過ぎて、何も言えないのですけど。
部下が部下なら、上司も上司ということか。最上級生が二人してここまで頭が空っぽだとは。
本気で危険な【聖女】とは関係なく、こんなのが次期国王になったら最後、ラスボスの悪魔王が来るまでもなくこの国は間違いなく滅びますね。
「な、何を言っているっ。ち、父上……国王陛下は関係ないだろう! まったく、新入生歓迎舞踏会の時といい、次期国王の私に、たかが側近のくせに逆らうとは」
「あ~、もういいや。こんなのに妹が断罪されるなんて未来は、この世界から跡形も無く消し去ってやる。
こい、その傲慢さ諸共に叩き切ってやろう」
「それでは、はじめぇ!」
そうして主審を務める武闘実技の筋肉マッチョ教諭の右手が静かに振り下ろされたのですが。
しかし自分に酔っているのか、王太子は自分語りをやめようとしない。
「なっ……き、貴様さえいなければ! そもそも次期国王であるこの私の婚約者として、あんな引き籠りの女なんかぎゃああああああ!」
「……貴様ごときが妹のことを語るな」
いつまで経ってもこっちに来ないので、しかたなくこっちから【縮地】で接敵すると、まずは体操着の下に隠すように装備されている【身体強化】やら【物理防御】やらなどの大量の魔道具を、スキルカンストして達人級となっている【剣術】で全て斬り捨てる。
下位付与魔法がある体操着だが、斬り飛ばされた魔道具の破片が舞い散る中で、その身体を完全に防御できる訳もなく、当然のように刃引きの剣がいくらかは剣圧と共に打撃痕を残すことなる。
一瞬で予戦会場に木端微塵になった魔道具が散らばる中で、ズタズタに切り刻まれた体操着を着た何か見下ろしていると。
涙と鼻水と涎を垂れ流した無様な金髪イケメンの顔が、首から上は今も無傷なのでようやく王太子なのだと知ることができた。
「……しょ、勝者、エルネスティ! 救護班っ、早く王太子殿下に回復薬をっ。そ、それにしても、この沢山の魔道具の残骸はどうしたことだ?」
「きゃぁ~、エルネスティ様ったら王太子殿下にも容赦無しですわよ!」
「ステキっ、また秒殺でしたわっ」
「でも王太子殿下のお召し物の下から、何かバラバラと飛び散ってましたわ?」
「あぁ~、エルネスティ様のヒールな色気が……うっ、鼻血が」
僕もたいがい甘いのか、単に婚約者が血まみれになる凄惨な姿を妹には見せたくなかったのか。
まあ、ちょっと手が滑ったかもしれないけど、傷跡も後遺症も残らないように手加減はしたので体の方は大丈夫だろう。
逆にあの救いようのない幼稚な心が折れていても、それはルール違反をした奴の自業自得でしかないのです。
するとテテテ~と走って来た勢いのままポフッと胸に飛び込んできた妹が、ちょっと拗ねたふりをしてから、すぐに頬を染めると嬉しそうに満面の笑みを見せてくれる。
「お兄様っ、あっという間に終わっていたので良く見えませんでしたが、でもでも格好よかったですわ!
ふふふ、武闘大会本戦への代表権獲得おめでとうございます! 全国大会でも一生懸命、応援しますねっ」
「ありがとう。まあ、ユスティーナの応援があればあれくらいチョロイもんですよ、はっはは~」
予戦会場で倒れたままの王太子のところに、婚約者であるミニスカナースの妹が回復薬を持って行くのを忘れてしまったので、ようやく出番が巡って来た【聖女】マリアが回復魔法を使っていた。
王太子がズルをするために用意した魔道具は僕がすべて粉々にしたので、ルール違反の証拠は残っていません。
その結果、当然のように王太子は5位決定戦に出場することになったのですが。
しかし回復魔法で体のケガが治ったとはいえ、心が折れたまま茫然と予戦会場に立つ王太子に、対戦相手となった下位貴族家の下級生は逆に腰が引けたのか、まともに剣を当てることもできないようです。
それが王国貴族としては普通のことなのでしょう。まあ、王族に平気で剣を向けるのは僕だけなのかもしれません。
そんな訳で武闘大会の本線出場メンバー5人は、大方の予想通り最上級生である3年生の王太子とゲルハルトに従騎士のダミアン。
そしてなんと新入生である1年生から僕と【勇者】アーサーくんという、異例の選抜結果となりました。
何でも魔法学園の長き歴史において、入学したばかりの新入生が武闘大会に出場するというのは初の快挙らしいです。




