領主からの招待
前回の話は今後の布石です。しかし、その布石が活躍する日はまだまだですが・・・
豊穣祭は過去最高の盛り上がりを見せ終焉を迎えた。
大役を終えたあ旅芸人一座“アイド~ル”の芸人たちは周りの多くの人を巻き込み、馴染みの酒場で打ち上げをした。勿論その中には今回の立役者である桜夜やマーリン、ナタリアもいる。
桜夜は飲酒を断ったのであるが、座長はリリアンが静止するのも聞かず飲ませた結果。
揉み上戸である桜夜が覚醒してしまい・・・その夜の打ち上げは喘ぎ声とどこか嬉しそうな叫び声が延々と続いたというのは余談だ。
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次の日の昼辺り桜夜の施術のお蔭(?)で二日酔いも無く全開した彼らは目を覚まし、テントに帰ろうと片づけをしていた時、
「失礼します。こちらに旅芸人一座“アイド~ル”の皆さんがいらっしゃると聞きました。代表の方とお話をしたいのですが・・・」
酒場に入ってきたのは、20歳くらいの青年。金の刺繍が施された白い制服をビシッと着こなし、所作もどことなく品の良さを感じさせる。
「代表は私です。失礼ですがあなたは?」
「私はアソライト地方の領主サリー・アソライト・フォレス様に仕えております。執務補佐のケイン・トウィンクルと申します。以後お見知りおきを」
「失礼しました!領主様の補佐の方であるとは知らず・・・前領主様とお会いした時はお忍びで酒場に来ていらしたときだったもので」
青年の紹介を受けると座長は最敬礼をし、謝罪する。成り行きを見ていた桜夜や周りも思わず頭をさげてしまう。
「そんなかしこまらないで下さい。初対面なら顔を分からないのも当然ですし、こちらも、そちらの予定を考えず急に押しかけたのですから・・・それに今回こちらに伺った理由は感謝するためでありますから」
「感謝?」
「はい。今回の豊穣祭を歴史上において最も盛り上げてくださった旅芸人一座“アイド~ル”の皆さんへ、領主はささやかながらお礼をしたいとのことで、是非皆さんを領主の館にお招きしたく今回伺いました。」
「しかし、領主様の館まで行くとしたら馬車でも片道5日ほどかかりますよね。酒場との契約もありますし、何日も仕事を開けるわけには行かないのですが・・・」
「いえ皆さんには日帰りで来てもらう予定ですよ?」
座長からの質問に対して青年にそのように答えられ、困惑する。
「我が領主が何という2つ名をお持ちかご存知ですか?」
座長は一瞬考え込むが直ぐハッとして我に返ると
「崇高な小さき魔女・・・」
「そうです。まぁ本人はその呼ばれ方は気に入らないみたいですけどね・・・とくに小さき魔女のところがですが」
つまりは、前桜夜達にマーリンがしてくれたように転移魔法で領主の館まで連れて行ってくれるそうだ。しかし、如何せん人数が多い。この人数を連れて行けるのかをきいてみると。
「領主様は多大なる魔力をお持ちです。しかも、その魔力量はかの有名な万能の賢者様を遥かに凌駕するという話です。1回に荷物を含めても50人は余裕で運べるとのことです。」
その青年の発言にチラッと皆の視線が当人に集まるがマーリンは気にした様子も無く、穏やかな表情で事の成り行きを見守っている。
(まぁ超が付くほどお人好しで母性(?)溢れる優しいマーリンがこんな発言で気を悪くすることは無いと思うけどね)
それに青年は本当にただ説明しているだけらしく、マーリンに対して嫌味を言ったつもりでもないようだ。純粋にここに居るのがその万能の賢者だと知らないだけかもしれない。
桜夜はそんなことをフッと頭の中で考えつつ、再び青年の話を聞く。
全員で行き領主の御もてなしを受けた後、送り返してくれることを約束し、領主の館へと向かうことになった。
「はい。人数は私たちを含めて20名程度です・・・今は街の中央付近の酒場にいます・・・店の名前は・・・」
ケインはブツブツと独り言を言っている、何をしているのか桜夜がマーリンに聞いてみると、これは念話という魔法らしい。前の世界でいう電話のような能力で、念話出来る範囲と時間は魔力操作の技術と魔力量によって違いがあるそうだ。今はテレポートさせてくれる領主に連絡を取り、段取りを確認しているのだろうというのがマーリンの見解だ。
「領主と連絡を取りました。今から15秒後にテレポートします。」
ケインは懐中時計で時間を確認しながら答える
「・・・・・5・4・3・2・1」
ケインがカウントを終えた瞬間光に包まれたかと思ったら、気づけば見慣れたトーチの街町並みは消え去さっていた。
その代わりこれでもかと存在感を放っている領主の屋敷が一行の眼前一杯に広がっていた。
前の世界でいうホワイトハウスのような形であるが、大きさ自体は2倍以上あるだろう。そして、その周りを囲む城壁も高さが15メートルほどもあり建物の大きさと相まって荘厳な難攻不落の要塞といった雰囲気を醸し出している。
それを見た一行は、
「デカッ!」
「凄い大きいね!」
「大きいです・・・」
「掃除大変そうだね~」
口々に思わず感想を漏らす。ちなみに上から桜夜、リリアン、ポルク、マーリンの順だ。他の芸人や今回依頼された座長でさえ屋敷を見るのは初めてであったらしく驚きの声をあげ、目の前の光景に目を離せないでいる。
「初めてで驚かない方が無理かと思いますが、立ち話も難ですので屋敷の方へご案内します。」
ケインの言葉でハッと我に返った一行は緊張しながらも門から玄関までやたらと長い道をトコトコ付いていく。
そして、数百メートル程歩きようやく玄関に辿りつこうという時に、館の大きさに見合った玄関の扉が大きな音をたてながら開かれた。
そこから出てきたのは豊かな髭を蓄えた筋骨隆々の威厳たっぷりの壮年の男
・・・・・では無く拍子抜けするように小さく華奢な姿。
年は小学校高学年くらいであろうか?耳は尖っているためエルフであろう。
雪のように美しい髪と肌、淡い紫色の瞳をしており、浮世絵離れしたその美しさは儚げな印象を受ける。
しかし、その瞳の奥には強い光が宿っており、華奢な見た目に反して意思の強さがうかがえる。
そんな相反した魅力を持った美少女は桜夜たち一行の前までやってきて、流れるような美しい所作で礼をし、その口を開いた。
「皆様ようこそいらっしゃいました。私がアソライト地方の領主サリー・アソライト・フォレスと申します。」
この自己紹介には面識のある座長と部下のケイン以外が誰もが驚いた。確かに領主の2つ名は誰もが知っており、女性であることも知っていたのであるが、こんな小さな少女だとは想像していなかったのである。しかし、そんな一行の様子を気にすることなく彼女は話を続ける。
「この度は皆様の素晴らしいパフォーマンスによって豊穣祭は過去最大の盛り上がりとなりました。これからも続く豊穣祭の長い歴史の1ページとして刻まれ、語り継がれていくでしょう。本日はささやかではありますが、宴の席を用意させていただきました。皆様のこれからの活動の原動力に少しでもなることが出来れば幸いです。」
彼女はそこまで口調で紡ぐと一行に柔らかな笑みを浮かべる。
そして、今回活躍してくれた人たちを1人1人確認するかのように辺りを見回していく
(しっかりとした娘だな~エルフってことは私よりも年上なんだろうけど・・・わぁ!こっちむいた本当に可愛い!何か気恥ずかしくて眼を合わせられないよ)
それは桜夜以外の人達も同じようで、彼女の鈴を鳴らすような可愛らしい声で褒められ、目が合うと思わず赤面してしまう一行。
・・・・・しかし、領主様はある一点を見て固まってしまった。
先程までの優しげなまなざしは影を潜め、代わりに驚愕な表情を浮かべている。
その様子を見ていた一行と部下であるケインは不振に思い、領主の目線の先に居る人物に目を向ける。
彼女の視線の先にいたのは、白髪で褐色の肌を持った美丈夫だった・・・
そして、再び領主の口が開かれる。
「えっ!・・・なんでお兄様が?」
「久しぶりだね。マイプリティーシスターのサリー」
「「「「「え~~~!!!兄妹!!!」」」」」
2人の衝撃的な発言に一行と部下は驚愕の声を上げるのであった。




