女王の下僕
桜夜達が“灯の届かぬ森“を歩き始めてから早くも3時間が経過しようとしていた。ゴブリンとの初めての戦闘では不慣れな様子の桜夜であったが、その後は魔物に遭遇しても危なげなく討伐している。
「大分奥まで来ましたね。」
「うん。そろそろ七色の蜘蛛の群生地に入るはずだよ。さっき戦ったグリーンスパイダーの上位種だけど強さは桁違いだから用心してね。」
「そうね。特に奴が吐く糸には桜夜の魔炎斬みたいに魔法が付与されているから注意が必要ね。しかも吐き出して糸の色を見ないと何属性の魔法か分からないから皆苦戦するのよね。・・・まぁ桜夜程の威力は無いけどね。」
先程のゴブリンの戦闘で桜夜が使用した魔炎斬は魔力循環と魔力操作の応用である。剣を自らの身体の一部と考え魔力を循環させ、剣に循環させた魔力だけ魔力操作で性質を変えることによって斬撃に魔法効果を付与させるといった攻撃方法である。この方法であれば魔力操作のLvが高くない桜夜であっても比較的簡単に出来るため、戦闘中で使用することが出来たというわけである。
七色の蜘蛛は赤、黄、青、緑、紫、白、黒の糸を吐き出す。それぞれの色には赤=炎、青=氷、黄=麻痺、緑=風、紫=毒、白=光、黒=土といった効果が付与されており、ナタリアも言っていたが冒険者は対応に困らされる。この効果があるが故に七色の蜘蛛は冒険者ギルドからAランクの魔物として認定されている。
「黄の麻痺、紫の毒は殺傷能力無いけど、喰らうと身体が動かなくなったり、動きが遅くなったりして奴や他のグリーンスパイダーの餌食にされちゃうから当たっちゃだめよ~。白はアンデットや悪魔系にしか効果が無いからもし当たったとしても大丈夫!まぁ奴も使い分けてくるから私たちに白は出してこないと思うけどね~。」
「わぁ~餌食になるのは怖いですね~・・・」
「大丈夫よ~私が居るし!万能の賢者だっているんだから!まとめて私のペットにしてやるわ!」
「「えっ!ペット!!!」」
ナタリアの爆弾発言に2人は驚きの声を上げる。どうやらマーリンも聞いていなかったようだ。
「だって従魔にしてしまえば、高級品の糸を継続して得ることが出来るし、何度も街から遠い森へわざわざ来なくてもよくなるじゃない」
「そうかもしれないが・・・Aランクの魔物を手慣づけるのは骨が折れると思うけど」
「チッ、チッ、チッ、賢者マーリンともあろうものが、このナタリアが何の準備もして来なかったと思っているの?」
そう言うとナタリアは徐に空間収納の中から桃色の皮の首輪のようなものを取り出した。首輪には銀の装飾が施されており、その中心には透明度の高い真紅の美しい魔石が光を放っている。
「またまた、高そうなのが出てきたね・・・」
思わずマーリンは声を漏らす、桜夜も首輪を見ての感想はマーリンと同じであった。
「あら、流石に見ただけでこの首輪の価値は分かるようね。この首輪は従魔の首輪の中でもAランクモンスター以上にしか使われない最高級品で“女王の下僕”と呼ばれる品よ!しかも私の師匠に魔法銀と真紅の玉で装飾部分を作らせ、首輪の部分は私が桃色竜の皮で作ったというこの世に一つしかない首輪なのよ!」
どうよ!とばかりにナタリアは服の上からでも分かる豊満な胸をこれでもかと張る。
「ちなみに幾らしたの?」
「身内での作業だったからほぼ原価で済んだわ。ざっと金貨30枚ってとこかしらね。相場の3分の1で収めたわ」
(えっ!金貨30枚ってことは30万ウォレで・・・日本円で3,000万!?相場だとその3倍だから9,000万ってこと!?)
あまりの金額の大きさに現実味が無い。
「ほぉ~それは安いね」
「でしょ?」
2人の金銭感覚は相当ずれているのだと感じると同時に、自分はずっと庶民の気持ちを持ち続けたいと思う桜夜であった。しかし、桜夜が今装備しているのが15万ウォン・・・既にナタリア達の影響で異常な価値観を身に着けつつあるのであるが本人はまだ知らない。
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「七色の蜘蛛と思わしき魔物を発見。身体の形と体長が2.5m程の大きさであることから間違いないと思う。ここから9時の方向に約100m!」
マーリンが空間把握によって得た情報を2人に伝える。
「了解です。ついに見つけましたね!」
桜夜はそう言いつつ、剣の柄に手を置き戦闘態勢をとる。
「さぁ私の愛しいペットちゃん今あなたの女王様が行ってあげるわ~。オーホッホッホッ」
ナタリアは興奮しつつも小声で高笑いするという芸当を見せていた。
今にも走り出していきそうな2人であったがそれをマーリンが制する。
「ちょっと待ってくれ。相手に逃げられる可能性や糸が直撃する可能性も考えて対策をとってから戦闘を開始しよう」
そういうとマーリンは両手を2人の前にスッとかざす。足のつま先から何か冷たいものが這い上がってきたかと思うと、2人の身体全体は見る間に冷たいものに覆われた。覆っているのは水の膜のようなもので、顔まで覆われているのだが不思議と呼吸が自然に出来た。
ナタリアは慣れたように平然としていたが、桜夜は初めての経験に混乱した様子だった。そんな様子見たマーリンは、
「これは私が開発した防御魔法の一種で“魔水鎧”というものなんだ。表面は魔力を多量に含んだ膜で大抵の魔法は通さずに無力化してくれる対魔法コーティングとなっている。中身は硬さを変えたジェル状の膜が何層にもなっていて斬撃や打撃の緩衝材としての効果も高い。自分で言うのも難だけど結構使える魔法なんだよ。」
確かにマーリンの言う通り優秀な魔法ではあるのだが魔水鎧を作るためには相当高レベルな魔力操作能力が必要不可欠であるためマーリン以外に使用できるのは極々わずか魔法使いに限られているのが現状であるのだ。
「それと逃がさないように虹色の蜘蛛の半径50mに“魔障壁”を張っておこう。」
魔障壁はゴブリンとの戦いで桜夜の命を救ったバリアのようなものなのであるが相手の行動範囲を制限するような使い方も出来るのだ。
「これで準備は万全ね。魔水鎧がある以上は七色の蜘蛛の攻撃は効かないだろうけど、桜夜は訓練も兼ねているのだから攻撃は極力当たらないこと、何の攻撃かを判断する観察し判断出来るようにすることを意識して戦って頂戴。」
「はい!Aランクモンスターと2人の胸を借りるつもりで頑張ります!」
「よし!その意気よ!でも私は今回奴に首輪を嵌めて魔力を流し、従魔契約をしないといけないから気配を消して背後から回るから、戦闘は桜夜とマーリン2人でやってもらうことになるわ。桜夜は攻撃を避けつつ、ダメージを与えること、マーリンは攻撃しつつ弱ったところで相手の動きを封じて頂戴。動きが封じられたところで私が従魔契約をします。」
「えっ2人・・・」
いくら水魔鎧で防御されているとはいえ2人で戦うのは不安がある。
「私はサクヤなら充分戦えると思っているのだけど・・・何か問題でも?」
「・・・いえありませんです。」
あまりのナタリアの迫力に桜夜はただ頷くしかなかった。その時ナタリアの眼の中にペットという2文字が見えた気がしたのは気のせいではないだろう。
「ははっ・・・では行きますか!」
マーリンは2人のやりとりに苦笑しつつ七色の蜘蛛が居る方角に向かうのであった。
虹色の蜘蛛との戦闘に入れると思ったのですが、意外と文字数が長くなってしまったため一度切らせて頂きます。




