2-1 POV : ギャレット
二週間前――。
「どうだね」
まるで取り調べを受けているかのような感覚で、小さな会議室の中に、二人。
「これまで三人、制圧確保の対応をしてきましたが、どうにも手ごたえというのは感じられません。彼らは、その……至って人間です」
机の端に追いやられたイケアのランプだけが、唯一の光源。電球は私に向けられ、そのせいで机に乗っかる男の顔は、少しばかりにぼやけている。
「だが、我々の推測と実証が、現に破滅を遅らせていることは確かだろう? これには欧州も納得しているし、アメリカもロシアも協力的な立場を取っている。いま、世界は団結しているんだ」
男はいけしゃあしゃあと、あたかもすべてが自分の功績であるかのように自慢する。
「我々は各国政府を超越した権限を有する。そして、その力を最大限有効活用して、地球に寄生する不穏分子を抹殺するという大義がある」
「重々承知していますよ」
そんな尊大な言葉は、優に四十回と耳にした。彼はそういった「大義名分」が好きな男なのだ――ですよね、カシウス長官。
……というジョークは、声にはしないことにした。
「素晴らしい。君の仕事ぶりというのは、たしかに目を見張るところがあるからな」
彼は硬そうなスーツに目を落とし、皺の一つひとつをピッと伸ばしていき、それから私を期待の孕む目で睨んだ。
「それでだ……ギャレット隊長。次の作戦が決定した」
あまりいい予感はしないな。ため息の一つや二つや三つや四つが溢れそうになったが、それをなんとか押し殺す。
「次はどこです? 悪いんですが、アフリカだけはもう勘弁してくださいよ」
「なんでだ」
「お腹こわすんです。あそこ」
カシウスは口をへの字に曲げて、片眉をくいっと上げる。
「そうか」
彼は意外にも、あっさりと納得した。
「ただ、安心しろ。今度はそんなとこじゃァない――大東亜だ」
そういうと同時に、彼は茶封筒をパサっと机に放りだした。
「大東……待って、ニホンですか?」
私は眉を顰めて、その封筒を手に取る。
「あそこは独自の防衛圏を築いているはずです。いまや我々アメリカでさえも、干渉できないでしょうに」
カシウスと打って変わり、私は訝しんだ目つきで彼を睨む。
「そうだな。いまやニホンはドイツに並び、世界で最も優れた国家に君臨した。もはや混沌の一九四〇年代に逆戻りしたようなものだ。だがな――」
彼は机から降りて、紺色のネクタイを整え、それから両手を机についてから、私の顔を大仰に覗き込んだ。
「いいか。A.D.C.C.D.は全世界のすべての権限を超越しているんだ。それは何者も例外ではない」
A.D.C.C.D.――正式な名称は〈人為的災害危機管理対策部〉。その下位組織として、最前線に立つ部隊を〈人為的災害危機管理対策ユニット〉――A.D.C.C.U.という。そして、それらに与えられた最大の特権は「超越の権限」。これらはカシウスが好きこのんでどこでもひけらかす魔法の言葉だ。何度もなんども、事あるごとに言いふらすものだから、段々と味が薄れていって、いまとなってはバカバカしい。
「それから、ニホンにいるであろう目標の捕獲にあたって、新しく第5特殊作戦実行班のメンバーを編成しておいた。君の右腕になる者たちだから、よく目を通しておくといい」
カシウスの豪語に呆れながら、私は封筒の紐をくるくる解き、いくつかの書類を取り出した。
手先で繰って数えて、計四枚。縁どられた枠線に、びっしりと詰められた英語たち。それぞれ一枚ずつにマグショットの写真がクリップされていて、それらをプロファイルと察するのは容易だった。
「フランツ・ルドルフ・アラーベルガー」
ドイツ、ゴータ出身、金色の短髪の男。二十九歳、ドイツ連邦軍所属。中距離から超長距離の精密射撃を得意とし、田舎の市民射撃祭からISSFまでをも網羅している、腕のたしかな狙撃手。
「彼は与えられた仕事を淡々とこなす、優秀な逸材だ」
「それから……ダニエル・カーンか」
テキサス州出身、四十二歳の男。アメリカ陸軍特殊部隊作戦群――グリーンベレーの元隊員で、利き手のペン回しから近接戦闘までこなせる戦場のスペシャリスト。
「彼がここに加わるとは……」
私は赤毛の短髪と、整えられた顎鬚の映る写真を摘まんで、しばし感心していた。彼の名前を聞くのは、これで何度目だろうか。
「ソイツは厄介でな、給料には少しだけ……二万ドルほど色をつけておいた。あ、これは他のみんなには黙っていてくれよ」
そして三人目。「チェン・ケリー」との名で、元アメリカ海軍情報局、そしてロサンゼルス市警のSWAT所属。日系アメリカ人。幼少期をニホンで過ごしたため、日本語に熟達し、今回の作戦では制圧任務と通訳等を担当する。爽やかな表情のマグショットが印象的だった。
「それで、最後が――」
っと、おかしい。
「副長官」
「なんだ?」
私は最後の一枚だけを手下に残して、それをカシウスのほうへ見せつけた。




