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グレイト・フィルター  作者: 春麗 狄 ت
第九章 ー この世の果てまで / The End of the World ー
48/58

9-2 POV : ユリウス


 チッ、チッ――。

 ………………。

 チッ、チッ――。

 ………………。

 チッ、チッ――。

 1:10 PM――。


 正面を突っ切る幹線道路。鉄条網や土嚢のバリケードが散在するけれど、肝心な防衛隊の姿がない。

 フィルター――ハルを追い、灰一色のオーサカをぐっと南下してきた。私はこのまま、ドージマの大通りを駆け抜け、先にある中洲まで行き、大東亜共栄条約機構の本部まで辿りつかなければならない。

 ――結局、ここまで来てしまった。

 現状というのは、私の想定していたシナリオの中で最悪のルートを辿っている。……本当に、最悪。残り時間は五十分。厳密には、一分一秒たりとも予断を許さない。

 ヘルメットを被っていないせいで、頭部の全体が凍りそうだ。いますぐにでもコタツなんてのに籠って、あったかいコーヒーでも啜りたい気分――なんて悠長は言ってられなくてさ。

 ぎゅっと目を凝らし、ひと思いにハンドルを捻る。

 ヴウゥウウンンッッ――!

 二気筒の高回転。悲鳴にも近い唸りをあげながら、ドージマの幹線道路を突っ走る。幸い、――バリケードを避ければ――通行止めのおかげで車道はガラ空きで、大都会を昼間からかっ飛ばせるのは新鮮だった。

 ヴウッゥンンッッ――。

《――、――……っ!》

 耳元のインカムが騒ぐ。

「どうしたの、オーガスタス」

《ユリウス! お前、いまどこだ》

「いまドージマを通り抜けてる。条約機構本部にはもうすぐ着くよ」

《急げ。どうもフィルターが見当たらない。オーサカ駅を越えた辺りでQRFの追跡から完全に姿を消した。他のユニットの目からもだ。まるで幽霊みたいにな。代わりに、デカい台風みたいな集団を確認した》

「うーん、デモか」

《そうだ。厄介なことに暴徒化してるらしい。フィルターはもしかすると、もう本部まで足を延ばしている可能性がある》

 オッサンが焦ってるのも、なかなか新鮮だね。

「結局、国内ユニットの六割は動員できるんだろうね?」

《それどころか、全国各地の全ユニットが本部へと向かわせてる。フィルターがすでに本部入りなら、他の警戒は無駄なリソースだ》

「ねぇ、各ユニットに伝えておいてほしいことがある」

《なんだ》

「銀髪の女と金髪の男の二人組を見つけたら、持てる最大火力で潰しに行けって」

《了解した。オーヴァー!》

 連絡を終えた頃。バイクは開けた交差点へと差しかかった。

 その時――。


 ――ダジャンッ!

 ――ダジャァッツ‼


 交差点の左側――低木からの飛翔。それは私を狙った散弾だった。危ないっ――‼

 反射で握ったブレーキ。リアとフロントに同時にかかり、急制動。慣性に負けて投げ出された私は、アクロバティックに宙を舞う。やべっ――。


 ――ズッ。

 ――ズダッ!

 ――ズッダアァァツ‼

 ――ゴキッ!

 ――ズズズゥザアァァッ!


 大回転。アスファルトに顔を擦る。焼けるような感覚を顔面の右半分に食らった。眼球に小石が突き刺さる。冬場だということもあり、その痛みにはバフが。

「あぁぁぃぃぃいっ!」

 激痛みと衝撃で脳ミソおかしくなる!

 道路を空走しきったときには、意識を保つが精一杯。まんまとかかったアンブッシュ。地面に突っ伏したまま、ハァ、ハァ……。ぼやけた目線上にあるのは、放りだされたレバーアクション。距離は三メートル程度。

 さらにその先には、敵の足が。

 まずい――。

 トクトクトクドクドクドク――。

 高ストレス。

 額がじんわりと熱く感じる。血が流れていることは確かだった。


 ――ドジャァンッ‼


 ショットガン × 銃声 / バックショット弾 + 地面 = 抉る!

 なっ――!

 交戦距離七十メートル。這いずって手を伸ばし、レバーアクションを拾う。

 敏捷に体勢を立て直し、片膝をつく。

 そして構えて!

 私 / エイム × 敵影 + 重なる = 射撃!


 ――パッァァンッ!


 こちらへ歩んでくる金髪に向けて牽制射撃。すぐさまレバーを下げてコッキング。ガッチャッ。

 しかし、相手もすばやく回避運動。街路樹に身を隠す。

 アドレナリンの点火。私も遮蔽に移動しないと。

 サッと立ち上がり、敵の位置から水平に走りだす。ダッ――!

 ――ダジャアァンッ!

 ――ッツパンッ!

 間一髪――っ!

 ほんの数センチ。一歩先のアスファルトが鉛の衝突とともに火粉を散らす。蹴躓きながらも、なんとか側道の土嚢まで走りきった。

 お互い、姿が見えなくなった。こうなれば決め打ちになるけれど……撃たれてばっかじゃ、いられないからね!

 バリケード / 顔 + 覗く × ライフル + 構える = 射撃!

 ――パアァンッ‼

 数秒差 × 木陰 = 発砲 / 散弾 × 頭上 = 掠める!

 ――ヒュイッツ!?

 あと数秒、頭出しが遅れていたら、散弾は額に直撃していた。思わず首を竦めて、土嚢の裏に縮こまる。

 ドッドッドッドッドッドッドッド――。

 目を見開いて、鼓動が高鳴るのを自覚した。まったく、ショットガンで五十メートルだってのに、なかなかの技量だね。あぁ、目が痛い……。


 銃声は十回ちかくに及び、

 ――ダシャンッ‼

 妙に調えられたテンポを刻み、

 ――ッパァァンッ!

 怪我のことも忘れて射撃とコッキングを繰り返した。

 私の持つレバーアクションライフルは八発、乾いた銃声を轟かせると、マガジンが空っぽになる。

 この手のチューブマガジンというのはリロードがしにくい。私はレバーアクションを背負い込み、屈んで、ホルスターから拳銃(P7M13)を取りだす。


 ――そのとき、気がついた。


 あのアメリカ人はスラヴの女を引きつれていたはず。しかし、見える敵影は金髪の頭一つだけ。フィルターだと思い込んで私を追撃するのに、一人なわけがないだろう。

 なら、

「もう一人は――」

「ここだよ」

 背後っ――!?

 小柄 + 銀髪 = 女 / 銃床(ストック) × スイング = 私 + 頬 = 直撃‼

 ――ダッキイィンッ‼

「ぐふっ――!?」

 立ち上がって振り向いた時には、すでに遅かった。

 強烈な打撃が顔面をクリティカルヒット。血しぶきをあげて衝撃を右にうけ流す。

 ガツンときた。私は足元から体勢を崩し、フラっとヨロめく。しかし、ここでやられるわけには……。


 ――切り替えろ‼


 指令が脳内で必死に叫ぶ。切り替えろ切り替えろ切り替えろォええぇぇいっ!

 ――相手の二発目をスウェイで躱し、後手の前蹴りで予測を潰す。勢い十分。彼女の華奢な腑(はらわた)めがけて、母指球をめりこませるッ!

「ううっ――!?」

「悪い……ねぇっ!」

 私、痛みの耐性が異常なんだ。

 そのまま拳銃を目線の高さまで振り上げ、照準(ノッチ)は蹲る彼女の胸部を捉えた、が――


 ――ダジャァァンッ‼

 ――スピュシュッ‼


「ぁっ――!」

 右腕と腿に激震。被弾した。

 後ろの正面。あんっの金髪野郎……。

 すかさず、鳩尾を食らった銀髪のライフルを蹴り上げ、すばやく左フックを繰り出す。

 ――ダゴォッ!

 クリティカル。

 ひるんだところで背後をホールド。そのまま首元に腕をかけ、痛みをかみ殺して、彼女の顎下に銃口を突きつけた。

 小さな橋の上に、身体を――女を盾に――さらけ出す。もう、いまの私にはこうするしかないんだ。

「やっぱりアンタ、バケモンだよ……」

 荒々しく息を切らす銀髪。親指のつけ根を口端にあてがい、くどい血を拭きとった。私の頭からも、じんわりと熱い粘り気を感じる。

「思考をちょいと捻ってみれば、痛みも快楽さ」

「――ごほっ……、死ね」

 小声の会話は、迫りくる金髪には届かない――。


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