7-8 POV : イサカ
「えっ――」
驚くが早いか、先輩がベッドに乗り上げ、私の背後をとる。ギシっと、揺れるベッドが軋んだ。これって……。
「びっくりした?」
と、先輩が先手を打ってモノを取りあげる。
「トーラス・ジャッジ」
そう言い手にしたリヴォルヴァー。ヌラ、と、柔い月光に照らされるそれは、到底オモチャとは思えない重厚さを孕んでいる。え、ウソ、先輩……まで?
アルコールの辛さも、咽るような煙の量も、快楽の余韻も、すべてが冷めた。つま先から逃げるように、熱が散っていく。
「まーって。大丈夫だから」
怯えて無意識に体を引く私を脇目に、先輩はシガーを口端に挟み、それからリヴォルヴァーの柄を私に差しだした。
「これ、持ってみ」
「え?」
そういう私に選択肢はなかった。気づけば拳銃は私の手元にあり、重たい質感を右手にどっしりと感じていた。初めてこんな物騒なものを手にして、湧いた感情は無。ただ、私の掌に拳銃が収まっている、それだけ。
私がぼぅ、と拳銃に目をおとしていると、先輩は軽く咳払いをして、背後から包みこむように私に抱きついた。背中に先輩の乳房の感触。そして、私の右手をそっと掴み、滑らかに持ちあげる。自ずと拳銃を握った右手は、私の目線と水平に位置した。
「親指」
シンクロ。疲れきった私の親指が、先輩の支えを借りて、リヴォルヴァーのハンマーを起こす。シリンダーが回転すると、トリガーがすこし後退した。
「そこ、冷蔵庫の上にくまいるでしょ」
低めいた声が、いちいち私を興奮させる。先輩がしゃべるたびに、耳元がこそばゆい。先輩の並べる言葉は、その一つひとつが耳心地のよくって、さっきヤったばっかだってのに、もう感じてる。
「よく狙って」
ちまっこい冷蔵庫の上に、かわいいくまのお人形。茶色の毛並みに、嘘のない微笑み。首の綿が抜けて、俯きながら小首を傾げてる。
「アイツはイサカを産んで、突き放して、イサカの前でヤって」
耳に吐息がかかる。
「それからイサカを助けようとして、裏切った」
ねぇ待って、なんで、知って……。
「――ほら、撃って」
う、撃つ――?
「トリガーを、引く」
トリガー?
「恨みを、晴らせ」
鳥肌。ググ。
「銃声ひとつで、名を残せる」
くま、ずっと笑ってる。
――やっちゃえ。
あ――っ。
カチンッ――。
…………。
………………。
……………………。
撃った。私は確実に撃った。自らの意思が、トリガーにかけた指を引いた。ハンマーはピンを直撃し、空撃ちの音が耳にこびりつく。これに弾が入っていたなら、くまの人形は木端微塵。相手が人であっても、おんなじこと。こんなにもあっさりと、消えるんだ。こんなにもあっさりと、消せるんだ……。胸の奥底が焦げる感覚。ちょうど心臓の辺り、ぽっかりと、穴が空いた。どうしても埋まらない、ふかく黝ずんだ穴。よりによって、この穴を埋める術はない。トリガーを引くことが取り返しのつかない、ことだから。
「ねぇ」
茫然自失とする私に、また囁きが訪れる。甘ったるくて、人の心を枯らし、萎らせる声。
「明日地球が滅ぶなら、それまでは生きられるんだよね」
……いつかのときに聞かれた、意味の分からない問い。あのとき言った答えが、自ずと口走った。
「あ、明日で……ぜんぶ、終わるから?」
「二人でさ、一緒に滅ぼ」
棘。




