7-1 POV : イサカ
ぽっかりと、穴が空いている。どうしても埋まらない、ふかく黝ずんだ穴。大きいのかな、小さいのかな。埋めようとしても、ブラックホールみたいに、埋めようとするものすべてを呑み込んで、そうして、吸収したぶんだけ、また膨らんでいく。次第に体までを一息にのみこんでいきそうになって、必死に抗うために、小さなため息をぽつりとひとつ。――なんの解決にもならない。黝ずんだ穴は、虚空だった。なにもない恐ろしさ。巷では、無気力なんていうらしい。
溺れていく? そうともいえるかな。ブクブクと、声にもならない泡だけが白く立って、水面へと上がるときには、どれも破裂して消えている。当の自分は肉体の重さに耐えきれず、どす黒い水底へと、藻掻くことさえできずに沈んでいく。
光を失って、そのうち光があることを忘れた人は、光を恋しいと、思うのかな。
――悲しさは、あまりない。「悲しさ」よりも無気力に対する「疲労」のほうが、圧倒的に強いの。なにもできずに、ただ浅い息だけを繰り返すのが嫌ったらしくて――こんなことなら、いっそのこと溺れて、沈んで、誰からも忘れ去られるくらいのほうが楽なのかもね。
途方に暮れる、自分の惨めさ。そんなネガティヴも、虚空を埋めるに足るものではなかった。
ヤツはいない。
珍しく「おでかけしてくるね」と、散歩でもいく仔犬みたいに、健気に出ていった。私がまだ寝惚けてる時のことだった。
大学は休み。
誰とも関わることのない、久しぶりの静かな一日。外は雨。厚ぼったくて、閉塞感に息のつまる曇天。灰色の雨が、もう何か月も掃除してないベランダに淋漓する。あぁ、掃除しないとなぁ。
額に腕をダラりとのせて、はだけたシャツの隙間からエアコンの生ぬるい風が遊ぶ。なにをするでもなく、なにをする気にもならない。あぁ、無気力。うわぁ……。よく考えたら、ベランダの汚れと私の黝ずみ、一緒じゃん。
気だるげに横を向いたまま、ポツ、ボツ、と、雨のノックに耳を傾けつづける。
…………。
…………ピロン。
――ん。
…………ピロン。
自然のノイズにあわない通知音。私のスマホなんて、滅多に通知がこないってのに――来てもしょうもない宣伝かスパムばっか――、落ち着いてるいまに限って、何度もバイブを繰りかえす。
ピロンッ。
不規則に鳴りつづけて、それがどうにもイライラを募らせる。
ピロンッ!
…………あぁっ、もう!
「なんなのさ」
口を衝いた不満が、埃っぽい暗がりの部屋に消えていく。裏返ったまま床にころがるスマホを取って、画面を点ける。メッセージのアイコンの横には「新着メッセージがあります」の文字。そんなことは分かってるっての。
ほんのゴミ屑みたいに小さくて、なのに発散のしようがない苛立ちを抱えたまま、画面をスワイプして、メッセージをひらいた。バカのひとつ覚えみたいに送ってきて……誰な――
《オーサカまで来てるんだけど、会える?》
体が震えた。




