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グレイト・フィルター  作者: 春麗 狄 ت
第六章 ー They went to sea in a Sieve ー
30/58

6-6 POV : ギャレット

 

 段々と、視界の端が緑だか、紫だか――――と、その刹那、荒くれの戦場にわずかな静寂が訪れた。

 …………。

 ………………。

 どうやら、敵は我々の姿を見失ったらしい。

 …………………………。



 ――ダダンッ‼ ダダダダダンッ‼ ドドッ、ドダダダダッ‼

 ――ッッッツキィンッ! ツパァァアアンンッ‼ ヒュインッ――!?

 チッ、クッソっ!

「おいなんだんだっ!」

 突然の斉射。小石が銃弾と衝突してあちこちに飛散する。ツパァァァンッ!

 五人は胎児みたく体を委縮させて、雨にも劣らずに降りそそぐ弾丸に慄く。とにかく当たらないよう、当たらないよう――!

 斉射は十数秒と続いた。スモークはもくもくと靄を成し、状況の把握は難しい。

「ああぁぁぅ!?」

「おおぉぉっえええぇっ――‼」

 叫喚呼号。複数の男が煙の向こうで悲鳴を上げる。近くにいた敵も見境なく撃たれているようで、肉体を抉る生々しい音がいくつも鼓膜にこびりついた。

「なにが起きてる!?」

 私たちは互いに顔を合わせる。

 掃射は確実に敵を倒しているようだが、だとしてもその理由がわからない。

 ――ジジジジイイイイィィィイイイィィッ‼

 今度は電ノコのように連なった銃声。突然の轟音に耳鳴りを起こす。

 ――これは間違いない、M134(ミニガン)だ。

「ミニかっ?」

 さすがは軍人。ダニエルの勘が素早くはたらく。

「そうっぽいな」

「アタシカが?」

「さすがにそんなの持ってないでしょ」

 とイデス。

 そして再び、静寂が訪れる。……しかし、今度は数秒の間をおいて、装甲車の排気音が割って入った。しかも一台、二台どころの騒ぎではない。聴こえるだけでも五、六程度はある。これは……。

「なんの騒ぎだ……?」

 チェンが姿勢を低めたまま、コンテナの端まで寄り、そっと角から顔を出――ッパァアンッツピュッッスプュッ――‼

 ――ジジジジイイイィィッッッジイイイィィィ!

 遅かった。

 止めることも、驚くこともままならぬまま、飛び散る血肉を頬に受ける。ピチャッ。

 …………。

「…………サーマルだ」

 そう、呟いた。

 装備していたスモークが対サーマルじゃなかったのが大きなミスだった。もとより、サーマルを使う相手など、想定外。

「アタシカの連中じゃない……」

 震えおどけるフランツにつられ、彼の目線を追う。たったの数歩先、あまりの被撃で無茶苦茶になったチェンの姿があった。あっという間の、無惨な最期。

「チッ、裏口に戻ろう」

 ダニエルが言う。

「既に包囲されてる」

「正面突破も無理なんじゃ」

「別の出口から逃げる」

 地図は頭に入れてある。あれこれ考えている暇はない。いちばん可能性の高いルートに賭けるしか――。

「第5特殊作戦実行班(エコー)に告ぐ。お前らはただちに投降されたし」

 ――大きな無線。一切の銃声が止み、小さな悶絶と、優しい霧雨の音だけが辺りを包む。

 それは間違いなく、我々五――四人に対する無線だった。

「A.D.C.C.D.の許可なく小隊行動をとることは明確な規律違反だ。繰り返す。エコーの総員はただちに投降せよ。猶予はない」

 無線を通して聞こえる嗄れた声は、湿気た空気には合わないほど単調で、乾いている。ソイツの言うことに、私は五分五分、納得して理解できなかった。

「第1特異対応班(QRF)、か……」

 移動態勢に入っていたイデスが、怪訝な顔をした。

「QRF?」

 即応部隊のQRFは、我々に代わって任務を遂行するとカシウスが言っていたが、我々は任務に復帰したはずだ。……が、なぜ?

 ――いや、いま、そんなことを考えている余裕はない。

「急げ、早く!」

 説明している暇なんてなおのことあるもんか。私はダニエルをショットガンのストックでつつき、イデスを肘で押した。

「ちょっ……と」

「スモークはまだあるな?」

「意味ないでしょ」

「ないよりはあるほうがいい。とにかくここから逃げるんだ!」

 イデスの腰につけてあったスモークを三つ。剥ぎ取るが早いか、後方の倉庫へと投げ、射線を妨げる。

「はぐれないようについて来い」

 ――カンッッツシィッィィ。

 一つ。

 ――カンッッツシィッィィィィィ……。

 二つ。

「マジで、死ぬ気で、行くぞ」

 腹の痛みをかみ殺して、私が先頭に立つ。

 スパコン並みのシミュレート。コンテナを抜け、倉庫を右に突っ切り、施錠された非常口をブリーチ。距離は二十メートル程度か。およそ十五秒。遮蔽もある。腹と足に鞭だけ打つが……!

 前方のスモークが煙を撒き散らしたのを見計らい、三つ目のスモークを反対側のチェンの死体――びちゃびちゃになった下半身のほうへ大きく投げつけ、さらに余ったスタングレネードをトッピング。たのむ、いいデコイになってくれ!

 ――ズダァァンッ‼

「行くぞぉっ――‼」


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