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グレイト・フィルター  作者: 春麗 狄 ت
第六章 ー They went to sea in a Sieve ー
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6-5 POV : ギャレット


 ――ダダッダダダダダンッッ‼

 ――パァァンッ! パパアァン!

 冬の空気を劈く音。紛れもなく銃声だった。はァ……、どうやら先遣隊は交戦に入ったようだ。

「マジヤバだね、ほら、早く行こ」

「待て」

「なにさ!」

 私たちが突入してきたドアに銃を向け、警戒するイデス。

「これは……」

 ネバついた鮮血に染まる床。そのすぐ前にある、グレーのデスクに躙り寄る。

 ――ガチャガチャ。

「……イデス」

「なに」

「この鍵、壊せるか?」

 私は鍵穴に指をなぞらせた。デスクの引き出し、三番目の薄いものだ。

 私が頼みこむと、イデスは何を言うでもなくホルスターからガポッと、セカンダリの2K11(キンバー)を取り出して、銃口を鍵穴より斜めにかざした。

「危ないよ」

 彼女はそう言い、

 ――パァンッ!

 一瞬にして、鍵穴がぐちゃりと変形する。跡形もなく潰れた角が解錠(・・)を知らせた。排莢された空薬莢が、わずかな煙を吐きながらデスクの上に転がる。鈍い金色だった。

 私はイデスに目配せをして、彼女に引き出しを開けさせる。

「どうだ」

「なんか……タブレット」

 彼女は引き出しに手を突っこみ、掌に収まりきらない、大きめのタブレットを取り出した。おそらくロックされているだろうし、ここで中身を物色する余裕はない。

「持っていこう」

 とは言ったものの、そのサイズは規格外。USBだの紙類だの、そういうもののみを回収する想定だったのがミスだった。

「入れられるものがない」

 そうだろうな。

 ――ダダッッダダダダダダダダンッッ‼

 鳴りやまぬ銃声が焦燥を駆りたてる。あぁ、もうっ。

「持っといてくれ」

「はァ?」

 彼女は眉間に深い皺をつくった。私は膝の震えを殺して立ち上がり、イデスの鋭利な目を捉える。

「お前は『ソロニクの忘れ形見』だろう? 片手がふさがってても、上手くやれるさ」

 イデスはウゲ、と顔を引きつらせて、盛大な舌打ちをカマす。やっぱり、笑いたくなってしまった――ふふっ、こんな時だってのに。

「行くぞ」

 そうして私たちは、出口を目指す。

「途中で倒れないでよ」

「大体は人の心配をしてるヤツから死ぬんだ」


 大きくなっていく銃声に自ら近づいていく感覚は、一言でいって異常だ。腹の痛みは増していく一方だし、状況も悪化していくばかり。相手は平々凡々のグレ集団。とはいえ、それゆえの気性の荒さに、興奮と銃器が加わると、話はすこし変わってくる。あぁ、腹が痛い。

「隊長!」

 突入時は物静かだった裏玄関。緑色の非常口が近づくにつれ、地獄の様もはっきりと輪郭を描く。

「どうなってんの!」

 凄まじい銃声に負けないくらいの声量で、イデスが声を荒らげた。

「ヤツら、死んでも帰さん気だ」

 ドア脇に身を隠し、リロードをするダニエル。チェンは迫りくる敵を必死で迎撃し、フランツは後方からの支援に徹する。

「外はどうなってる」

「いま出たら体がチーズだぞ」

 ――タシャンッ。

 フランツはLPVO(スコープ)に目を通しながら、精確な一発々々を継続。

「数も……多い! アタシカが指揮を執ってるっぽいぞ」

 バースト射撃を繰りかえすチェン。顔に「こんなに酷い銃撃には遭ったことがない」と書いてある。それを見て、私の首にも一筋の冷や汗が通った。

 兎角、このまま粘っていてもジリ貧なのは確かだ。突破しなければ。

「イデス……退(ひ)く、と伝えろ」

「は?」

 銃声まみれの騒音の中、大声を出すのも苦しいので、ひとまずイデスに耳打ち。

「なんで」

「裏口から通りまでは五、六メートル、遮蔽もない。正面から出たほうが遮蔽もあって、ピットブルに近い」

「クソっ」

 チェンが交代でリロード。

「皆、下がって」

 ――ドドドドッダダッァァッ!

「なにィ!?」

 ダニエルが振りむき叫んだ時――

「死ねやぁァァッ‼」

 彼の影に重なるよう、入口から顔を出す敵の姿が。まずぃ――っ!

 ――パァアンッ!

 間髪おかず、真横で大きな破裂音。

 それはフランツが迎撃を試みるより早く、イデスのキンバーが火を吹いた。あと数ミリずれていれば、弾はダニエルの右眼を直撃していただろう。

「ダニィ、これで貸し二つね。ほら、退くよ」

「お前に見える敵だけスローモーなのか……」

 フランツ、御託を言ってるヒマがあったら――ということは、イデスの口から放たれた。

 ポイントマンをダニエルにシフトし、我々は裏玄関から撤退。再度オフィスを抜けて、正面玄関へと進路を取った。腹の痛みはいよいよ痺れに変わってくる頃で、私は荒い呼吸を繰りかえし、なんとかチームと足並みをそろえる。裏玄関からの追撃をイデスが掃討し、ざっとみても十数人は殺したんじゃないだろうか。

「アイツら正面回ってます!」

「ほな挟めぇえ!」

 アタシカの激昂。野郎、ぶっ殺してやると言わんばかりに。

 七ミリの乱発と、五ミリのバースト。たまに四五口径。

 銃撃の応酬は過熱を極め、チームのポーチからはマガジンがみるみる減っていく。

「挟撃される前に正面突破するぞ!」

 スモークグレネード。ピンを引き抜いて、二つ転がる。

 ――コロッゴロゴロ。

 ――カンッシッイィィィ……。

 辺りに白濁の煙が充満。定点的に湿気と混じり、暗闇のなか、全員の視界をジャミングする。

「ゴー、ゴー!」

 合図とともに五人は事務所を離れ、コンテナの散在する倉庫へと足を運ぶ。グラグラと視界が上下に。はぁっ、息が上がる!

 ――ッッツヒュンッ‼

 ――ッッツパァンツ!

 死を運ぶソニックブーム。この音には慣れがこない。

 ――タシャンッッッ!

 ――タタァンッ。

 こちらも限られた弾数を綿密に計算しながら、決め撃ちで反撃。

 ――カカカカカカンッッ‼

 ――ヒュンッツパァァァン!

 短機関銃(SMG)の連射と、耳を穿つような銃弾の風切り音。

 一帯は白い煙とわずかに見える常夜灯の光。方向感覚が鈍り、大きく脈打つ鼓動がやけにはっきりと聞こえる。ドッドッドッドッ……。

 ワンブロック先にあった長方形のコンテナ。五人は一度そこに影を隠す。

「どっちだ!」

 ダニエルの歯を食いしばった怒号。あぁ……。

「アーサー!」

「しっかり!」

 チェンが私を揺さぶる。

「このままっ……、正面突っ切って、道路へ出る――」

 段々と、視界の端が緑だか、紫だか――――と、その刹那、荒くれの戦場にわずかな静寂が訪れた。

 …………。

 ………………。

 どうやら、敵は我々の姿を見失ったらしい。

 …………………………。



 ――ダダンッ‼ ダダダダダンッ‼ ドドッ、ドダダダダッ‼

 ――ッッッツキィンッ! ツパァァアアンンッ‼ ヒュインッ――!?


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