6-4 POV : ギャレット
コーナーをクリアしたイデス。
「行けるよ」
よし。
「制圧するぞ」
――オフィスには一人のみ。屋内巡回と休憩を含めると、あと五、六人程度はいると見込める。
折り返しの階段を上って、二階へ到達。
『――失踪したラムサス戦争省長官は未だに発見されておらず、軍縮協議は破綻する恐れが……』
扉の向こうからは大音量のテレビ。都合がいい。開けるぞ――。
「おっ――?」
――タシャァンッ!
二人目。
これで巡回は始末がついた。
廊下にはまた二つの扉。左手前にあるのが警備室、奥にあるのがアタシカのオフィスだ。
「ダニエル、チェンは警備室。フランツは廊下を。イデス、後ろに」
「テンフォー」
それぞれがサッと配置につく。私はイデスと共に事務室のドアに張りついた。
シェルを掴み、クアッドロード。
準備が整うと、私はイデスと目を合わせた。よし。
「ドキドキするね」
――はぁ?
彼女の棒読みにも近い、あざとい声。
「うるさい、集中しろ」
大根にもなれない三流役者め。
ギッっと睨みつけてから、私は軽く頷いて、イデスがドアノブに手をかける。
……ふぅっ。行くぞ――。
――ガチャ。
ショットガンをローレディーからスッと構え上げ、突入へ。
――タ、タンッ!
――タタン、タンッ!
後ろの警備室からも数発の銃声。
私たちも遅れまいと部屋へと押し入った――。
心拍数の上昇を全身で感じながら、入ってすぐ左、ハードコーナーを確認。イデスは右のコーナーをクリアし、部屋の全体を見回す。
ざっと三十平方メートル。白く乾いた照明。深紫の長椅子、変に低い脚のテーブル。見たことがある……ヤクザの事務所みたいだ。
静寂は束の間。
奥の衝立から、かすかな物音。イデスとアイコンタクトを取り、挟み込むように、分散して衝立のほうへと近づく。
――コ……ッ……。
音を立てないよう、ブーツを擦る。
――ゴツッ……。
ドットサイトの先を見据えて。
――サァァァ……。
雨の音が近づく。
視野がぎゅっと窄まる感覚を振り払い、勢いをつけて振り向きクリア――!
…………。
………………。
視界に映ったのは、全身黒ずくめの、武装した――イデス。
彼女は首を傾げて肩を竦めた。もぬけの殻、か……?
――サアァァァァ……。
いや。
「窓……」
後ろの窓が、開いている。
「イデス、後ろの窓を」
「ん……」
ショットガンを下ろし、窓のほうを指さす。イデスは振り向き、言われた通りに窓の外をチェックしようと――
――ゴルァァッ!
っ――!?
――パアァンッ!
衝撃――。
思わずよろめく。
「どけやぁぁあっ‼」
窓を覗き込んでいたイデスを突き飛ばす人影。
「クソがっ――!?」
中肉の男がイデスを勢いよく振り払い、やがて窓から身を乗り出し、躊躇なく落ちていく――。
なにが、起きた……。
「アーサー!」
態勢を立てなおしたイデスが、ヘルメットと顔を覆うバラクラバを脱ぎ捨て、周章にやって来る。私は後ろの棚に手をついて、ぐったりとのびた。銃撃をもろに食らい、足に力が、入らない。
「野郎デスクの下にいたんだ。アーサー、どこ撃たれたの」
「脇腹だ。大丈夫、立てる」
零距離に近い発砲はさすがに心臓に悪い。クソったれ……。無理やりに力むと――――ああぁっ!
「待って!」
イデスが立とうとする私を押さえ、床に座らせる。
「クソ。撃たれ所が悪かった」
ズキィと、波打つ痛みは右の下腹部。ボディアーマーの防護範囲を外れていた。
「処置を――」
「まだいい!」
制止。慌てる必要はない。
「制圧がまだだ」
ふぅぅっ――。深く、肺の底から唸るように呼吸する。吐いた息とともに痛みを逃がす。
「……アタシカは?」
私が訊ねるが早いか、
「ポリやあぁぁぁ――!」
外から聞きたくない台詞が耳を穿つ。んん、なるほど。
「エンゲージは避けられないな。イデス、なにか手がかりがあるはずだ……ふうぅっ。なんでもっ、いいから、ポーチに詰めこめ」
「アンタは!」
「なんとか、するさ」
ポーチを弄り、ガーゼを引っ張りだす。プレートキャリアを外す余裕なんてのはないもので、邪魔くささに苛立ちながら服をめくる。ボディアーマーなんてのは、ただの重りだな、クソっ。
「隊長!」
来るのが遅い、ノロマ。
「警備室は」
「クリアだ。だが――」
「敵が臨戦態勢に入ったな。ダニエルを先頭に三人で裏門まで行け」
「お前らは」
ダニエルが訊ねた。
「イデスが手がかりを集め次第、あとを追う。大丈夫だ。イデスの厄介さは私がよく知ってる」
ダニエル、チェン、フランツ。お前たちは皆、戦いに精通しているはずだ。上手く逃げられなければ…………コラボレーターを洗い出しやすくなる。
「行け」
私は血に染まる腹を弄りながら、他の誰にも目をくれず、応急手当を続けた。
「イデス、頼むぞ」
彼らは足早に出ていった。
下腹部、腸を掠めたか否か。痺れてわかりづらい傷口を探し出し、大きく息を吐く。ヌメついた手を確認。血は黒くない、大丈夫だ。
ふぅ……。
気を整えたら――ガーゼを一息に突っこむ!
「いいいいいいいぃぃぃぃぃぃいっっぅっ‼」
セルフ処置は加減がわかっていいんだぁぁっ!
突然の叫喚に、イデスは思わず吃驚。振り向きざまの真顔がなぜか笑いを誘う。こんのっクソったれっ‼
「何見てる、ほらっ……、詰めろ!」
「わ、わかってるよ」
珍しく彼女の身動きが忙しない。
私はガーゼを患部の根源に詰めこみ、上体を起こす。ジィィィイン、と、大きな痛みがくりかえし腑を波打つが、ここで迂闊な真似をするとヤツらに蜂の巣にされてしまう。
――ガラララッ。
要所の凹んだスチール棚を手当たり次第に開けて、少しでも価値のありそうなものをポーチに突っこむイデス。……対象外、か。
私はロリポップを口に放り、それから片膝をついて、放られたショットガンを掴んだ。
「大丈夫なの?」
「ああ……」
ふうぅぅっ……。たかだか拳銃弾だ。痛くない――ことはないが、ピットブルまでは持ってくれるだろう。
「一応、目ぼしいものは入れた」
「よし――」
――ダダッダダダダダンッッ‼
――パァァンッ! パパアァン!
冬の空気を劈く音。紛れもなく銃声だった。はァ……、どうやら先遣隊は交戦に入ったようだ。
「マジヤバだね、ほら、早く行こ」
「待て」
「なにさ!」
私たちが突入してきたドアに銃を向け、警戒するイデス。
「これは……」




