6-3 POV : ギャレット
マガジンチェック――十二ゲージ、チューブに八、チャンバーに一。
フォアエンドを前に押し、カガチャ――。
我々五人は装甲車を離れ、街燈の一つも灯らない、小さな路地へと紛れ込む。
小道を這う寒風を正面から受け止めて、温まらない手にいっそうの力を込めた。……いや、力むな。実戦は久しいが、実力はそう衰えていないはずだ。
陰鬱な小道を十メートルほど進む。傍らには微風に靡く雑草。アスファルトの続く先に見えたのは、人の影。
「隊長」
私の後ろを行くダニエルが私の肩に手をおく。
「大丈夫、張り込みだ」
私はそのまま歩を進めた。
「動きはなし。連絡もあれへんけど、大丈夫かいな」
「――仕事、ご苦労だった」
現地協力者の男。わりとバレそうな所で堂々と見張っているものだから、やはり心配になる。近づいて肩をつつくと、男は反射に体をぴくりとさせた。
「おぉ。連絡けぇへんからどないしたんかおもとったわ」
「チェン」
後方で待機するチェンを呼び出す。同時に腰に着けたダンプポーチをまさぐって、中から小さな封筒を取りだす――これだ。
「約束の二十万だ、と」
「約束の二十万だ」
「ほぉ。マジもんやろな」
キャップを深く被る男は封筒をチラっと覗いてから「確かに」と頷いて、満足気に尻のポケットに突っ込む。
「にしても、たったの数日でこんだけの額て……。お宅らなんなんや」
「俺らが何者かと」
「他所事には首を突っこまないことだな」
それは伝えなくていい、とつけ加えて、目前の急階段に足をかける。男を置き去りに、黒ずくめの集団は黙々と降りていった。
チャリ、カチャリ――。
装備の音がわずかに鳴る。
「フォールイン」
指示を出して、五人は即座に縦列を成す。
左手には大きく寝そべる倉庫の影。
滑らかに移動をつづけ、やってきたのは倉庫の裏門。情報通り、哨戒は一人だ。我々は裏門を正面とする丁字路を二十メートル先にして、路地裏の隙間に身をかくした。
「イデス、ヤツの背後を。フランツ、こっちへ」
後方担当のフランツを呼ぶ。イデスはまるでニンジャのように闇に溶けていき、颯爽と裏門へ近づいていった。殺し屋の身動きはムダがなく、扱いやすい。
フランツはすぐさま片膝をついて、射撃の態勢をとった。彼のもつSOLGW MK1――その銃口は精確に哨戒を捉え、彼の指がトリガーを引かんと待っている。レティクルは上胸。上手くやってくれ。
イデスが暗視装置の端からヌっと現れる。体熱を隠して、バレないようにコンテナの影に潜んだ。
やがてちいさく縮こまって、準備が整う。まるで狩りの好機を待つ獅子のようだった。
「いまだ」
合図を出す。
――タシャンッ!
わずかに空気を裂く音が、サプレッサーから溢れた。
視界の先。白い影が喉元をおさえ、フラフラとよろめく。フランツの放った弾丸は、哨戒の喉元を見事に貫通。
「んこおぁっ……」
そして男が倒れてしまう前に、イデスがそれを受け止める。上手くいったようだ。
「進むぞ」
フランツの肩をたたく。
四人はふたたび移動形態に入り、小走りで門へと近づいていく。視界はグレー。息をこらえる。
――チャリ、チャリ。
――タッ、ダッ。
私を先頭に、我々は裏門を潜り抜ける。イデスは後方から合流し、我々の元へと駆けつけた。
「さすがだ、イデス」
「どーも」
相も変わらず、イデスはサッパリとしている。ギョロっとした四眼の暗視装置が、一際目を惹いた。
「予定通り、玄関へ向かうぞ」
小ぶりなハンドサインを出して、玄関へと足を向ける。
ここまで目立った敵影はなく、玄関へと到達するのはそう難しくなかったが――問題は、ここからだ。
「右へ」
チームは玄関の右側に待機し、私はドアノブのレバーを下に圧した――。
――カァ……チャ。
案の定、施錠。
「ダニエル」
ダニエルがパイプのような器具を引っさげて、ドアの前に構える。
油圧式ブリーチングデバイス――ホルマトロ。
ドアに密着するよう器具を押しつけ、ドア幅をつっぱるようにして装着し、有線を引っ張って退避。
「レディー」
「やれ」
指示を出し、ダニエルがボタンを押すと、
――ポッッ。
――カチャンッ。
シリンダーがドアを圧し、楽々解錠。まさに魔法の道具だ。
トラップと敵影の確認を完了し、我々は暗視装置を外す。カチッ――。
ス――、とドアを開けて、エントリーまでは予定通りに遂行できた。
静かにドアを開放し、すさぶ寒風に乗りながら、五つの黒い影が室内へと突入する。最後のフランツがドアを閉めると、廊下の中はいっそうに静まりかえった。
我々が突入したのは、長さ五メートルほどの廊下。黄ばんだ照明、黴臭いカーペット、無機質な白い空間。耳に障るハムノイズ。
ここから一階のオフィスを制圧し、二階の警備室とアタシカのいる事務室へと向かう。
そして私は、預ける背中――つまり、チームに対しても疑いの目を向けておかなければならない。一抹の緊張と不安が拭えないが、そんなことで狼狽えているようでは、フィルターの捕獲など夢のまた夢。
「武装者、識別不能者ともに即刻排除」
改めて号令を出して、私はショットガンを構えた。緑色の「非常口」が、少しずつ遠ざかる。
――フェイタルファンネルを避け、倉庫の扉を開ける。コーナーをそれぞれチェックし、部屋をクリア。廊下にもどり、次の扉をノックする。単調な作業のように見えるが、どれも生存を保つのに欠かせない要素である。一つひとつの微細で精密な行動が、無駄なリスクを減らすことができるのだ。
廊下からつながる四つの扉のうち、三つをクリアし、残るは奥――オフィスにつながる扉となった。
私、イデス、ダニエル、チェン、フランツの順に隊列は動き、オフィスへのエントリーを開始。
ドアノブを捻り、突入口より侵入する。
「ん――?」
――ダシャッ!
刹那。私は構えるモスバーグのトリガーを引いた。間髪おかず、ショットガンはサプレッサー越しに小さな唸りを上げる。
ドアのすぐ近くでくつろいでいた男。撃ち込んだバックショットはそいつの体表をえぐり、衝撃で後ろへ後退る。顔面は真っ赤に染めあがって、一瞬にして原型を留めないものにした。
――ガシャッキ。
――カンコラカンッ。
エジェクションポートからショットシェルが放られ、軽い音が地面を踊る。湿った空気に、わずかな火薬の匂い。雨が近い。
コーナーをクリアしたイデス。
「行けるよ」
よし。
「制圧するぞ――」




