6-2 POV : ギャレット
フェルミのパラドクス。
この宇宙には数え切れないほどの星々があって、我々人類の生まれ故郷である地球も、そんな有象無象のひとつにあたる。すると、地球外の惑星でも、生命体が活動している可能性は十分にあり得ると考えてもおかしくはないだろう。なにせ、夜空を仰いだ先にあるのは、数千億の星々だ。
――だが、その証明は、いったいどうすればいいのか?
嘘か真かわからないUFOの映像でもなく、オーパーツに描かれた記憶の断片でもなく、その他の文明が「存在している」という証明は、いったい、どこにあるのだろうか。
そんな矛盾を指摘したのが、イタリアの物理学者、エンリコ・フェルミだった。
――みんな、どこにいるんだ?
そんな、昼食の最中に零れた素朴な疑問は「フェルミのパラドクス」と定義された。その後、天文学者のフランク・ドレイクの功績によって、この宇宙には「人間以外の生命が築きあげた文明」が存在することが仮説立てられ、地球外の文明というのは、フィクションの域を逸脱するものとなった。
そうして夢は膨らんでいったものだが、しかし、そんな彼の功績も、結局「仮説」の域を抜け出したことはない。いまだって「宇宙人は存在する!」とか「UFOを見た!」なんてことを大っぴらに言うと、陰謀論だのなんだのと、大抵は白い目であしらわれることだろう。
では、なぜ人類はほかの生命体を観測することが不可能なのか。
そんな疑問を紐解く仮説のひとつに、
「グレート・フィルター仮説」
というものがある。
かみ砕いて言うなれば、「大きくて越えられない壁というものがあらゆる文明に存在し、文明はいずれその障壁に直面し、ぶち当たり、そして滅亡する」というもの。いわば文明の循環に必要な破壊機構、というわけだ。
人類文明の場合、AIか、核か、あるいはそれをも超越するものか。少なくともこの世には、ヒト に対する数多の脅威が存在する。ヒトの手に負えないものが、ヒトを滅亡に導くことはそう難しいことではないはずだ。
そして、そんなグレート・フィルターと思しき存在が、いま、「ヒト」の形相を装って、この世界に七体――厳密にはあと一体、跋扈しているのだ。
「――これまでにも、フィルターと接触を図る直前に世界の情勢が不安定になり、一体、二体と確保するたびに、それは安定してきた。いまも世界各国が『平和』を謳っている一方で、米露の軍縮協議は国務長官の失踪や、大東亜軍拡問題で難航しているだろう」
それを大きな抑止力で止めようと画策したところで、その手段自体が破滅へのツールになってしまう可能性だってある。
そして最後のフィルターを捕らえられなければ、それらすべての事象がトリガーとなって、地球に築かれた人間の文明は――終わりを迎える。
「コラボレーターはなぜ、協力を?」
「洗脳か?」
チェンとダニエルが口々に言う。
「タケムラが言っていたはずだ」
神の裁断を拒むな。虚空を享受しろ、と。それはある種の宗教的な洗脳の暗示ともいえるかもしれない。コラボレーターを構成するその大多数は、――傾向的に見て――複雑化する現代社会への不適応や、不満、不安、順応を拒否する者たちが占めている。つまるところ、コラボレーターは能動的に文明の滅亡を望んでいるということだ。たとえ、明日地球が滅ぶと分かっていても、手元のナイフでなんの低徊踟蹰もなく自分の喉を掻っ切れるような、そんな連中なのだ。
フィルターはそんなコラボレーターの心に浸けこみ、自らを崇拝対象とする狂信を勝ち取った。正にタケムラのそれがいい例だ。
「でも、どうやってフィルターと判断すんの」
イデスがボソっと呟く。口元まで覆うバラクラバのせいで、声は少しくぐもっている。
「それは――、私の仕事だ」
A.D.C.C.D.だって、裏ではそれなりの規模を持つ。なんの情報もなしに好き勝手殺すわけじゃァない。
「さァ、話は終わりだ。現在時刻0310、作戦所要時間は二十分とする。行くぞ」
忘れてはならない。この中にだって裏切り者がいる可能性がある。無暗に口にしては、ならない。
モニターの電源を落とすがはやいか、周囲は深夜の暗闇に包まれた。寒月はほど遠く、我々を照らすことはない。




