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グレイト・フィルター  作者: 春麗 狄 ت
第四章 ー Testosterone ー
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4-4 POV : ギャレット

 我々の行う戦闘というのは、それほど目立つものではない。むしろ目立ってはいけない。アニメのように激しい銃撃戦でも、ゲームのように飛んで走って乱射するようなものでもない。ただ静かに、一つひとつのプロセスを地味に進めていき、静かに制圧を完了させる、それだけだった。

 ――スタッ、タッ……。

 ブーツがアスファルトを踏むわずかな音と、

 ――チャリ、チャリ……。

 装備の金具が擦りあう音。

 ため息ひとつが命取りとなる現場で、彼らの行動は機械的なまでに迅速だった。

 見にくい螺旋階段を難なくクリアし、実行班は二階へ到達。隊員はみな落ち着いた様子で、進行具合もいまのところ順調だ。

『ブリーチ。それからフラッシュを』

 イデスの的確な指示に、ダニエルの無駄ない動き。

 ――ドォジャンッ!

 ショットガンの鈍重な破裂音。

 ――ピンッ――。

 …………。

 ――ズダァンッ‼

 凄まじい閃光と重い衝撃。数瞬ボディカムが激しく揺れた。

『チャージ(突入)――』

 まるで敷かれたレールを綺麗になぞるかのような、洗練された近接戦闘。イージーコーナー、ハードコーナー。

『ポリだぁぇう!?』

 ――ズッヒュッ――。

 ――ドヒュンッ。

 ――ドドッ。

 華麗なるモザンビーク・ドリル。

 サイレンサーの静かな唸りに、体を抉るアクセント。

 窶れて重たい空間には、夜の影にまじって、ダンボールやら食器やら、生活の痕跡があった。そこに追加されるのは、体と頭に弾丸を埋め込まれた死体。

 イデスが先頭を行き、ダニエルが次鋒。チェンとフランツが後方と個室をそれぞれクリアし、開始五分たらずで二階の制圧が完了した。イデスの指示もあって、彼らの仕事はいくぶん早い。

《……こちらエコーシックス。二階の制圧を完了。当該目標はいまだに確認できていない。どうぞ》

 イデスの無線。余裕がある。

「コピー。三階は一、二階とは構造が異なる。対象がいるだろうオフィスには注意しろ」

《了解。行くよ》


 ――階段を上り、まもなく三階。

 上がってすぐ左手に廊下があり、そこを抜けると枝分かれになった個室が二つと、正面にオフィスがある。

『ポリ来よるど、タケさんに知らせぇ!』

 個室の扉が勢いよく蹴飛ばされ、男が突進。

『チャカ撃て! チャカ!』

 ――パパァァンッ!

 ――ズドォァァン!

 驚いたことに、三階の敵は銃器で武装している。これはあまり想定していなかった事態だが、プロを前には敵わない。

 野次が飛び交う数秒後に、小さな発砲音。

 ――ツパァッ……。

 ――ツピュンッ――!

『ごふぅぉっ――!?』

『――ああぁああぁぁぁぁっっ! あぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 痛ましい叫喚。しかし、抵抗するのなら、無力化するほかない。現場にいるわけでもないのに、私の手は汗でびっしょりだった。

『正面ドア。フランツ、ロック』

『了解』

 長さ五メートルの廊下の先。フランツが後方で待機し、それ以外が左右に別れ、それぞれ二つの個室に侵入する。

『クソぉ!』

 開けてまもなく。

 思わぬ死角から飛びでた男に、ダニエルが慌ててふり向く。息を潜めていたからか、ダニエルはその気配に気づけず、男はナイフを振り回しながらダニエルを切ろうとした。取りまわしの悪いAR、急いでセカンダリを引き抜こうとするが――

「危ない――!」

 思わず声が洩れる。

 ――ッパァァンッッ‼

 大きな発砲音が、インカム越しに私の鼓膜を震わす。

 次の映像には、反対のクリアリングを完了したイデスが、咄嗟の判断で拳銃を引き抜いている姿があった。

『ったくよォ……助かった』

『行くよ』

 チェンとフランツも合流し、いよいよオフィスを目前とする。

 この先に、捕獲しなければならない対象――タケムラなる存在がいるはずだ。

《こちらエコーシックス。これよりオフィスに突入》

「コピー。気をつけろ」

 ぐっと息を呑んだ。

 そしてイデスと指示とともに、チェンとダニエルがスタングレネードのピンを引き抜く。イデスが扉をわずかに開けると、そのまま二人がスタンのレバーを弾(はじ)いて部屋に投げ込む。

 ――ズダァァッンッ!

 突入――。

『動くな、手を上げろ!』

 チェンとダニエルが先行し、瞬時に死角をクリア。続いてイデスとフランツが正面に向かってライフルを構えた。

 埃まみれのデスクが散乱する汚部屋。奥のほうに一つ、人影がある。

『タケムラ! こちらを向き、膝をついて手を上げろ!』

 右画面、フランツのカメラにヤツが映った。三十代、金髪……間違いない、タケムラだ。

「TOCよりオールチームへ。前方にいるのがタケムラだ。注意して確保しろ」

 ここでイデスたちが銃につけていたライトを点灯した。明転した視界の先に、男の気味の悪い微笑みが浮かんでいる。

『銃を、下ろせ!』

『跪け! いま、すぐに!』

 無数に浮遊する埃がライトに照らされ、廃墟の不気味さをより引き立てる。

『近づくなァ。どうせ、お前らの努力も徒労に終わることだ』

 タケムラなる男は、自身の右手に持つ黒い拳銃を、自分のこめかみに当てていた。そして、裂けんばかりに口角を吊り上げ、キマった目で我々を睨んでいる。ニキィ、と、軋む音がいまにも聞こえそうだった。

『神の裁断を拒むな。虚空を享受しろ』

『タケムラ! 銃を下ろ――』


 ッパァァンッ!


 ――――。

 ――――――。

 早かった。

 それはイデスが彼の手を撃ち抜くよりも、早かった。

 まるで境界が張られているかのように、実行班の声はヤツに届いておらず、彼は頭を撃ち抜いた反動で、右側に勢いよく突っ伏した。

 タケムラが、自殺した。

 ――数瞬、静寂が過る。

 えっと、タケムラが、どうなった……?

 分かっているのに、状況が呑み込めない。

 ジジッ――。

《エコーシックスよりTOCへ。当該目標死亡(タンゴダウン)》

 無線からそう、聞こえてきた。

 全員が唖然として、言葉が出ない。

 ………………。

 まずい……。コラボレーターの自殺はこれまでになかったこと。ただでさえ少ない情報から漕ぎつけた存在だったというのに――捜索の手立てが極限まで狭まってしまった。つまり、我々は……ただ単に無駄な犠牲を出したということになる。

「イデス。周辺にエビデンスはあるか」

《あるのは……武器と溶かした端末だけ》

 荒んだ微風が私の体を冷やす。しばらくして現実味を帯びた事態に、頗る鳥肌が立った。

 はぁ……、クソ。

「了解。チェン、確保を」

《ラジャー》

 午前一時二十分のことだった。


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