4-3 POV : ギャレット
「司令部よりエコーシックス。聞こえるか?」
ボタンのホールドをやめて間もなく、
《こちらエコーシックス、感度良好》
と返答が返ってくる。リードを率いるイデスの声だった。
「撮影された最終時点でのドローンによれば、中に十数名の民間人が確認されている。脅威のない者への発砲は極力避けたい。どうぞ」
…………。ジジッ――。
《コピー。ただ、万が一殺したとしても、それは私の仕事のうちに入ることを覚えておいてよ》
はぁ……。そういう約束だったことは忘れちゃいない。
「了解した。再度確認する。捕獲対象は三十代、金髪、ラフな服装の男で、タケムラという名だ。できるだけ生け捕りにするよう努めてくれ。再度言う、これは文明の存続にかかわる作戦だ。くれぐれも――」
《はいはい分かってるっての。オーヴァー》
イデスの気だるそうな声が無線から聞こえた。
通信を切って、ボンネットへと寄りかかる。通りは暗闇と暖色の街燈に包まれ、寒空の下、一人でいるのは頗る気味が悪かった。万が一のことを考えると、車内で待機しているほうが安全なんだろうが、最前線に行けない立場というのもなかなかむず痒いもので、少しでも外の空気を浴びていたかった。
街燈の光を跳ね返す、グレアの黒いボンネット。
その上に端末をおいて、モニターを三つ展開する。それからスリープを解除すると、連動して画面が白く光り、そのすぐあとにビル内の映像が映し出された。
映像は、実行班のヘルメットにつけられたボディカムだ。直結的に映し出される内部の映像があるだけでも、私の不安はぬぐえるものだ。
しかし、内部は異様といってもいいくらいに暗がりに包まれ、窓がないために、ハイライトの調整を加えたボディカムでさえも構造をはっきりとは認識できない。やはり、無線による情報共有は必須だろう。
漆黒の暗晦の中、一階、階段の手前。彼らは小さなドアに張りついた。
『後方待機。ダニエル、ドアを確認。チェンは階段を』
端末越しにその指示が聞こえると、三つのボディカムが精確な配置につく。
意外なことに、イデスの指示は的確だった。リードは経験豊富なダニエルが引き受けるべきだとばかりに思っていたが……。
ドアの右側についたダニエルの映像を見る。
彼はドアノブを捻って、鍵のかかっていないことを確認した。
その間際、カメラに映ったコンバットスタイルのイデスが、こちらに向かって中指を突き立てた。……集中しろってんだ。
――キィ……。
奥へと押されたドアは静かに開き、招かれざる客はダイナミックエントリーを開始。まず、イデスがARのストックを引き、短く構えてハードコーナーを確認、そして滑らかに突入。ダニエルのカメラがそれに続き、ぼんやりとした部屋の景色が映し出される。現場にいる彼らは暗視装置をつけているため、見えないものはないといってもいいだろう。
右、左、右――。
素早く、かつ抜かりのない連携とクリアリング。
『――ちょなんや!』
部屋を出て、ダニエルたちの前に現れた人影。
瞬時の判断により、ダニエルは銃口をその影から逸らした。そして左手をしっしと振って、隠れるように促す。
小汚い男は黙ったままうんうんと頷いて――
『…………、おおぉい――っ‼』
――ッパンッ。
――ツピュシュ。
殺された。
サイレンサーに押し殺された銃声が二つ。そのすぐあとに空薬莢が地面を弾く音が入り、さっそく死人が出たことを悟る。
しかし、――私を含め――彼らは冷静を保った。
そのまま各部屋を精確に見て回り、
『イデス。一階はオールクリアだ』
一階の制圧が完了した。
「TOCよりエコーシックスへ。状況を報告しろ」
ジジッ――。
《こちらエコーシックス。敵が大声を上げたため、やむを得なく発砲した。ギャレット、おそらく、このビルにいる連中はコラボレーターの仲間っぽいけど》
『いまの声で気づかれたかもな』
フランツが入口を見張りながら忠告する。
「ソイツはどうなった」
私が訊ねた。
ダニエルが視線を落としてくれたおかげで、辛うじて倒れ込んだ男の姿が見える。
『――っこおぉっ‼ んぐぅぇっ……』
《綺麗なダブルタップだ。上胸をイカれて死んでる》
悪いね、とイデスが吐き捨てる。流血が止まらない様子で、死体は言葉にならない嗚咽とともに泡を吹いていた。
「了解した。オールチーム、引き続き制圧を継続しろ。怪しい行動をとる者は無力化しても構わない。始末書は私が書く」
《テンフォー》




