4-1 POV : ギャレット
コンバットシャツ。
コンバットパンツ。
タクティカルブーツ。
指抜きグローブ。
プレートキャリア。
III-A規格ヘルメット。
ヘッドセット。
暗視装置。
最後に関節にある保護パッドの位置を整えたら、彼らの戦闘服はばっちりに仕上がる。
――オーサカのはぐれ、時代にとり残された雑居ビル。我々はその地下二階に仮拠点をかまえた。小さな正方形のテナントには、寒色の微光を放つ照明と、少しと用意された銃。そしてそれらを操る、カラス色の戦闘服を着たプロフェッショナルたちがいる。
彼らが慣れた手つきで準備を進める様は、日常生活では目にすることのない異様な光景といえた。
「おぉい、イデス。お前、それGPNVGじゃねえのか?」
ブロック状のひときわ目立つNVGを目の上に、赤毛のダニエルが訊ねた。彼の体格は凄まじく、着ている戦闘服がピチピチに張っている。全面に押し出された筋肉が、部屋のなかをぎぅ、と圧迫していた。
「自前だよ。私にはこっちのほうがしっくりくるから」
イデスは素気なく返しながら、ヘルメットのマウントに取りつけたNVGをカチっと下ろす。同時に、インテンシファイアの発振する「ピキーン」という音が小さく響いた。
GPNVGとは、過去にアメリカが開発した第三世代の暗視装置のことを指す。なによりも四つに分かれた目が特徴的で、それは装着時の視界を広く保ち、従来の単眼、複眼の暗視装置を凌駕する有用性を見出した。各国の特殊部隊などが多用し、映画やゲームにも登場する、「強者」を連想させる印象的な暗視装置だ。
しかし、二〇三〇年代なかば、新たに登場した「ゴーグルブロック方式」というシステムを採用したNVG――「GBNVG-33」が登場してからは、GPNVGも主役の座をとって代わられることとなった。
「俺はこのヴイアールがしっくりきて好きだけどなァ」
GBNVGとは、まさに、ダニエルの装備しているNVGのこと。VRゴーグルを拡張したような見た目で、四眼ほど目を惹くデザインではないが、スタイリッシュで先進的なのがおおきな特徴である。
「たしかに、視野の改善がすごいから、俺もこっちを使うな」
日系アメリカ人のチェンも、ダニエルに同意だった。
「……それで、隊長。目標は」
マークスマンを担当する物静かなフランツが、マガジンに五ミリの弾薬をこめながら、静まる私に声をかけた。
私は腕時計に目を落とし、針の位置をよく確認する。チッ、チッ――。
「そうだな……ちょうどいい。ブリーフィングを始めよう」
午前〇時四十分のことだった。
――作戦は至って簡単だ。
特定の「疑わしき」場所へと赴き、抵抗分子を排除、制圧し、必要となるエビデンスを確保すること。これまでいくつもの戦場を駆け巡ってきた彼らであれば、さして難しいことではないだろう。
今回の現場はオーサカ、ナンバのとあるビル街に混じった雑居ビル。ここからは二十分ほどで到着する。
まず、現場に到着すると、下階より制圧を開始。一階と二階それぞれには、上階につながる折り返し階段と廊下、そして個室が左右に六つずつあるため、それを各個制圧すること。また、聞き込みで分かるかぎり、建物内には浮浪者や不良がたむろしている可能性がある。そのため素早くクリアリングをし、そのまま三階まで上がってもらう予定となる。
そして三階へと上り、三メートルほどの廊下を直進すると、その先にはオフィスが待ち構える。二〇三四年ごろに倒産した小会社の名残りがあるそうだが、捕獲対象以外は可能な限り排除したくない。致し方ない場合は――
「なァ、マクギャレッ……じゃなくて、隊長」
説明の途中で、丸太のように太い腕を組むダニエルが口をはさんだ。
「どうした、ダニエル」
「あえて聞いてなかったんだが……俺らの目的ってのは、なんだ?」
ううん……。声にすることなく、悩む。
正直にいって、その言葉は私を困らせるのだ。
このことを実行班にはあまり知ってほしくないのだが、かといって情報共有を怠ると、あとあとの面倒は増えかねない。それに、これまでの活動でも、どこかでバレてはいたのだが……。
すこし間を置いて、小さくため息をつく。
「我々の目的は、協力者――つまり、コラボレーターを拘束することだ」
意を決したものの、私の言葉に、黒ずくめの四人はイマイチといった反応を示した。
「コラボレーターというのは?」
チェンが全員の疑問を代弁する。
「詳細が不明瞭で、かつ広範すぎる問題だからな。まだはっきりとは言えないが……」
「ちゃんと言って」
威圧の効いた女の声。茶を濁す私はドキッとした。
テーブルをはさんで反対側に立つイデスが、獲物にかかるハイエナのような目つきで私を睨んでいる。紫色の目に宿る威光は、私を狼狽させるに十分だった。はぁ……。
「噛み砕いて言うと――」
私を除いた全員が、息を呑む。精鋭たちに与えられた「任務」の実体を、口にしてしまうのだ。
そうして、私はゆっくりと言葉を連ねた。
「文明の終わりに協力する者のことだ」




