彼女は一回休み
「宇気比を! 貴様ッ!」
キケンは怒りとも焦燥ともつかぬ声を張り上げた。
「ウケヒって何?」
「宇気比? 日本神話に出てくる?どういう事よ!?」
それぞれに疑問を口にするも
「アハハ! 番狂わせだな! 相変わらず猿は!」
「だから私は猿ではない。道開きの神と言ってほしいね」
「答えになってないわよ!」
四ツ目は豪快に笑うとナタをキケンに向けた。「一回休みだ、キケン」
獣――銀毛の野犬が疾風の如く駆ける、ように見えた。巨大なナタがキケンをきり裂き、血しぶきをあげさせた。
それを見た猿芽が口を抑え、悲鳴をこらえる。
「大丈夫さ。猿の子よ。我々は死なないのだよ」
「……い、いやぁっ、元の世界に」
どこからか奇声、いや、動物の雄叫びが響き渡る。ビリビリと鼓膜をつんざくそれに四ツ目は舌打ちした。
「来やがったか。まあいいよ、光眼。いくぞ」
「宇受売?」
猿芽が辺りを見廻している。宇受売? 聞いた事がある名前だ。
「え、おーい。あの、これ、取ってよ〜〜」
「自分でとれ」
「はあ? ボクは手品師じゃありませーん」
ウダウダ言っていると担がれて、ものすごい速さで屋根をかける。「ワハハ! すごいっ!」
「お前ってやっぱ頭のネジ一個無くしてるよな」
「おいおい。己の過去だぞ、お前もそうだと言ってるようなものだ」
サルタビコがキキキと笑う。
「楽しい!」
「良かったな、ハァ……番狂わせだらけだ」
見慣れた景色にやってきたのを悟り、屋根を忍者の如く飛び越える経験は終わるのだと残念に思う。
(やっぱりこの世界サイコー!)
窓を破壊しながら自室に放り込まれると、またキツくドアを閉められた。
今は自分自身も疲労困憊で、眠ってしまいたいくらいだ。だが四ツ目はまたナタを取り出すとドカリとベッドに座り込み、血みどろの表面を研ぎだしてしまった。
「ねむ〜〜い」
「……お前はユニコーンの角に何を願ったんだよ」
「ン? ああ、えっと……必死で忘れちゃったなぁ」
「嫌いだよ、そういう所」
「え?」
「自分のそういう所」
視線を落としたまま、呟かれどうしていいか迷う。
「分かってるんだ?」
「ああ、だって自分だから。でも結果が違かっただけで、さ。それを素直に言わないズルさも嫌いだ」
ズルい。
光眼は目をパチクリさせて、今まで言われた事のなかった言葉に停止した。
能無し。のろま。そう言われてきたが、狡さはないと思われてきた。だが、四ツ目ははぐらかす己の癖を見抜いている。
「ボクはそこまでバカじゃないもん」
「人は簡単に変われない」
こちらを見る目はゴミを見る目だった。軽蔑と、……。
「あはは!」




