サルタビコ
「おい、光眼とやら。窓を開けろ」
窓から声がして、ヌッと双眸だけが人間の猫――四ツ目の恩師が現れた。
「えー、窓あかないよ」
「窓を開けていい、と言えばいい。そんな事もできないのか?」
「魔法ってヤツだね?! いいよ、窓開けてあげる!」
そういうなり猫は透明人間か幽霊のようにガラスをすり抜けた。
「すごー!! どうやったの?? 教えて!」
「馬鹿には教えたくないね。裏切り者のユダに、懐いているそうじゃないか」
「裏切り者のユダ?」
何の単語だろう、と光眼は首を傾げた。すると羽の生えた猫はわざとらしいため息を付き、ベッドに飛び乗る。
「教養もないと来たか。まあ、三人衆の内、世界や神に刃向かう最低な輩だと言えばいいかな」
「? 四ツ目ちゃんは誰を裏切ってるの? 神さま?」
すると今度は大笑いされ、ムッとした。
「この世界に神がいるとも? そうだな、キケン、宇受売からは危険視されているなぁ」
(キケン……)
脳裏にあの不気味な少女が蘇る。
「お前は過去の四ツ目ならば、どうしたい? 世界を壊したいか? それとも」
「この世界がいい!! ずっとこの世界がいい! 帰りたくない」
「なるほど……コイツは本物かもしれぬな」
猫はキケケ、と楽しそうに嗤う。「私の名前はサルタビコ、四ツ目を裏切り者に仕立て上げた悪者だなあ? 四ツ目」
「――やっと認める気になったか、猿」
「ふん。私は猿じゃあないがね。まあ、五分五分だ。もし本物だとして、お前は意志を貫く気概があるのかい」
サルタビコと名乗った猫はニヤリと目を半月に歪めた。不気味だな、と他人事にそれを眺めていると、いつの間にか現れていた四ツ目はいつになく気難しいかおもちで黙り込んでいる。
「俺は確かに、コイツと同じだった。宇気比も変わらない。だがコイツと俺では別物だ」
「ふむ。という事はこの過去にあたるお前が選択するモノは同一とは限らないと?」
「ああ、どうやらコイツは行動は同じに沿っているが、この世界の焼き回しじゃねー。お互いに顔を合わせた時点で、筋書きが変わった」
「あー、なんだっけ。パラレルワール……ど」
口を挟むが、重たい空気に声も控えめになるしかない。
(このひとたち、なんでボクん家で漫画みたいなやりとりしてんのぉ)
「四ツ目。誑かされるなよ」
猫はスゥーッと壁から退室していく、それを見送り、犬耳が生えた未来の自分自身とやらに視線を戻した。
「あのひと、猿なの? 猫なの?」
「なんでもない。俺がそうであるように」
疲れた、とベッドに座り、また武器の手入れを始めた。血染めのナタはさらに血がべっとりとついて、ナニかを切り裂いてきたのだと悟らせる。
「へえ……」
サルタビコは猿田彦から。
サルタヒコにしようか迷ったのですが、猿芽が既に登場していたので……。
2026年8月16日 話をひとまとめにしました。




