21/48
濃霧と無線
窓の外がかつてないほどに濃霧で覆われていて、ハッと起き上がる。今まで朝霧は何度かあったが、ここまで視界不良なものはない。
左江内 光眼は目を煌めかせ、開かない窓のガラスを見つめた。
「雲の中にあるみたい!」
鳥の声もせず、外は不気味なほどに静けさを保っている。
すると街の防災無線が鳴り響き、嗚咽が聞こえ始めた。
「誰か、誰かいませんか、誰か」
女の人の声がした。
「街に人がいるのなら電話して。誰かいませんか。お願い、異常事態を外に知らせて」
「ええっ、ボクがいるよ」
どこか奇妙さを含む訴えは嗚咽とすすり泣く声を最後に途絶えた。
「これも空想、なのかな」
有名な小説で街が霧に囲まれて異世界に行ってしまう話を連想させる。誰かを餌食にするための罠なのだろうか。
「まーいいや、どうせ外にもでれないし。なんだっけ、読もうかなっ! あの本!!」
ベッドの上で伸びをして、大好きな作家のある本を手に取る。パラパラとページをめくると文字がなくなっていた。
「逃げちゃいましたか。あーあ」
自分自身は逃げられないのに文字は逃亡するのか。ムッとしつつも、自分なりの霧深い異界のお話を思い描いた。




