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『これなんてエロゲ? 〜エロゲ主人公の様なスキルで異世界無双する〜』  作者: うちの猫


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第3話:龍牙のエルザ、戦場に降り立つ

「メス……メス、クウ……」

 血走った目で身動きの取れないマリナを睨みつけ、瀕死のゴブリン・チーフが最後の突進を開始した。


 魔力切れ寸前のマリナが「え、ちょ、こっち来ないで!」と顔を青くした、その瞬間だった。


「どけぇぇぇ!!」


 鋭い咆哮とともに、鮮やかな紫髪のポニーテールが風にたなびいた。

 戦場に突如として飛び込んできたのは、一人の女戦士。彼女が手にした巨大な『龍牙の大剣』が豪快な弧を描いて横薙ぎに振るわれると、チーフの屈強な胴体は無惨にも真っ二つに両断された。


 ドサリ、と上半身だけで地面を滑ったチーフが「バカナ……」と絶望の声を漏らし、そのまま完全に物言わぬ肉塊へと変わる。溢れ出た血飛沫が草原を赤く染める中、大剣を肩に担ぎ直した女性――龍牙のエルザは、返り血を浴びた顔でカイを一瞥し、ニヤリと不敵に笑った。


「なんだお前、ボロボロじゃねーか。こんな雑魚相手に何やってんだ?」


「た、助かった……」


 マリナがその場にへたり込み、安堵の息を漏らす。

 それと同時に、カイの胸の内に渦巻いていた暴走気味の性欲が、急速に元の状態へと戻っていった。ピンチを脱したことで緊張の糸が完全に切れたのだ。


 しかし、理気を取り戻した途端に全身を襲う激痛。

 HPはわずか『7』。体中は打撲と擦り傷だらけで、立っているのすら奇跡に近い状態だった。カイは足をもつれさせながら、どうにかその場に踏み止まる。


 エルザは大剣に付着した怪物の血を鋭く振り払いながら、ふと周囲の光景に目を留めた。そして、怪訝そうに眉をひそめる。


「にしても妙だな。こいつら、なんで全員悶えてんだ?」


 彼女の視線の先では、カイのスキルを受けた二十匹以上の雑魚ゴブリンたちが、未だに地面をのたうち回り、奇妙な声を上げて腰をくねらせていた。


「さ、さあ? なんか変な病気でも持ってたんじゃない?」


 マリナが急に顔を真っ赤にして、あからさまに目を逸らす。エルザはその様子を見て鼻で笑った。


「ゴブリンが性病ってか。傑作だな」


 エルザがドカドカと足音を立ててカイに近づいてくる。

 近くで見ると、彼女の紫の瞳は歴戦の冒険者特有の鋭い威圧感を放っていた。革鎧の隙間からは引き締まった見事な腹筋が覗いており、大人の女性としての色気と、強者としての風格が同居している。


「お前、冒険者か? 見たことない顔だな。その格好、ギルドの入門セットそのままじゃねえか」


「ねえ、あなた。ひとまず私の短剣返してよ」


 我に返ったマリナがスカートの土を払いながら手を伸ばしてきたので、カイは慌てて「あ、ああ、ごめん」と、スティールした業物の短剣を彼女に手渡した。


 触れ合った指先から、すかさず二人の『深層愛聴テレパシー・ハーツ』でカイの脳内に心の声が流れ込んでくる。


(……よく見ると、この人本当にカッコいいかも。絶体絶命のところで僕を助けようとしてくれたのもポイント高いし。……でも、さっきのあの変なスキルは何? ちょっと、いや、かなり怖いんだけど……)


 マリナが短剣を鞘に収めながら、複雑な乙女心を覗かせる。一方、腕を組んだエルザの思考はもっと現実的で鋭かった。


「で? お前の名前は。なんでこんな場所に丸腰同然で突っ立ってたんだ?」


「俺の名前はカイです。……実は、詳しい事情は自分でもよく分からなくて。気づいたらこの草原に立っていて、そしたら彼女がゴブリンに襲われていたから、助けないとって必死で……」


 記憶喪失を装ったカイの言葉に、エルザはますます怪訝そうに目を細めた。


「気づいたらここにいた? 記憶喪失ってやつか。……じゃあ、マリナが言ってたあの『変なスキル』は何なんだ? 敵が急に狂ったみたいに身悶えし始めたやつ」


 エルザの鋭い視線が再びカイを射抜く。マリナもコクコクと小さく頷きながら、恐る恐る口を開いた。


「私もこの目でハッキリ見た。なんか……その……えっちな感じになったっていうか……」


「はあ? えっち? どういうことだ?」


「いいから! とにかく本人に説明させてよ!」


 赤面して怒るマリナと、大剣の切っ先をわずかにこちらへ向けてくるエルザ。

 疑惑と好奇心が入り混じった二人の視線が突き刺さり、カイは冷や汗を流した。


ここで下手に隠し事をすれば、あの凶悪な大剣のサビにされかねない。かと言って、正直に『性欲と性の感度を操るスキルです』と言えば、それはそれで社会的に完全に終わる気がした。


「……言っても引かないですか? 俺自身、ちょっと引いてるんですけど」


「アタイが引くわけねえだろ。こう見えてもBランクの『龍牙のエルザ』だぞ? 過去には魔獣のクソまみれになって戦ったことだってあるんだ。今更どんなスキルが来たって驚きゃしねえよ」


「わ、僕も……商人は情報が命だからね。どんなおかしなスキルでも、引いたりはしない……と思う。多分」


 もじもじとするマリナの脇腹を、エルザが「おい、多分ってなんだよ多分って」と肘で小突く。マリナはぷくっと頬を膨らませて言い返した。


「だって気になるじゃん! あのゴブリンたちの尋常じゃない反応を見てたら、その……!」


 草原に一瞬の沈黙が流れた。風が血の匂いを遠くへ運んでいく。

 エルザは大剣を地面に突き立てて完全に尋問の構えに入り、マリナもまた、好奇心を隠そうともしない目でカイをじっと見つめている。


「ほら、観念してさっさと吐きな」


 観念したカイは、頭を掻きながら白状した。


「……任意の対象の、性欲と性の感度をコントロールするスキルです。」


 草原の風がピタリと止まり、世界が静まり返った。

 マリナは言葉を失ったまま数秒ほど完全にフリーズし、それから、頭のてっぺんまで一気に真っ赤に染まった。


「せ……性欲ぅぅぅぅっ!?」


 ひっくり返った彼女の絶叫が、静かな草原に虚しくこだました。

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