第2話:性の感度コントロール! 悶絶の地獄絵図
「意味ねーじゃねえか!!」
手に入ったのはただの臭い干し肉。カイの絶叫が響く中、先頭のゴブリンのナイフが目前に迫る。考えている暇はない。あと一歩で刃が届くというその刹那、カイはステータス画面に残された、この世界で一番怪しいスキルに目を留めた。
(性欲と性の感度を操る……? ゴブリンって性欲が強いんだよな、だったら性欲を上げたら余計にヤバい! なら感度はどうだ……!? 今度こそこれだ!!)
「くらえッ!」
カイが目の前に迫るゴブリンを指差し、その『性の感度』を強制的に最大まで引き上げた。
スキルが発動した刹那、先頭のゴブリンがビクンと大きく体を痙攣させた。
「……ギャアア……ッ!?」
ゴブリンの目がとろんと怪しく潤み、手からポロリとナイフが転がり落ちる。そのまま地面に倒れ込んだかと思うと、急に股間を押さえて腰をくねらせ始めた。ハァハァと荒い息を吐きながら、その場でのたうち回っている。もはや戦闘どころの騒ぎではない。
「ナンダ? ドウシタ?」
隣にいた二匹目のゴブリンが、突如として始まった仲間の奇行に困惑の声を上げる。
「アツイ……カラダ、アツ……ッ!」
涎を垂らしながら身悶えする一匹目を前に、カイはあまりの絵面に一歩引き下がった。
「うわー何だあれ、気持ち悪っ……。エンガチョ…」
「でも、使えるなこれ! 四の五の言ってられな
い、お前らもくらえ!!」
カイは残りの二匹にも立て続けにスキルの餌食になってもらった。二匹目のゴブリンが短い悲鳴を上げて崩れ落ち、三匹目に至っては武器を放り投げて草むらに飛び込み、何やら怪しい腰の動きを始めている。
「……ギ?」
突進を止めた群れのボスらしき個体が、首を傾げて部下たちを見下ろしていた。その時、カイの『鑑定』スキルが自動で発動し、視界に情報が重なる。
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## 【名前】ゴブリン・チーフ
【Lv】8
【HP】80/80
【スキル】統率、咆哮
格が違う。目の前の雑魚とは比較にならないステータスだ。
チーフが低い唸り声を上げると、周囲の茂みがガサガサと激しく揺れ始めた。
「グオオオオッ!!」とチーフが咆哮スキルを放ち、空気がビリビリと震える。その合図とともに、茂みの奥からなんと三十匹を超えるゴブリンの増援が一斉に湧き出してきたのだ。
「うそ……巣から出てきたの!?」
いつの間にか合流していた金髪ツインテールの少女――マリナが、魔力切れ寸前の青い顔で悲鳴を上げた。包囲がじりじりと狭まり、二人の命は風前の灯火となる。
チーフは瀕死の体を引きずりながら、狂ったような目でマリナを見つめていた。そのおぞましい思考が、パッシブスキルによってカイの脳内にダイレクトに流れ込んでくる。
『アイツ、メス。メス、ホシイ。サキニクウ!』
「ふざけんな! その女は俺のだって言ってんだろ!!」
カイは自身の性欲を上げて身体強化を行っていた。しかしその副作用のせいで理性が消し飛び、会ったばかりのマリナに向けて本能のままに叫んでいた。
(えええーっ!? 助けてくれてるのには感謝するけど、僕、いつからあの人のものになったの!?)
マリナの心の中の困惑と大パニックの声が聞こえるが、今のカイの耳には届かない。
「悶えて死ねぇぇぇ!!」
カイは暴走する思考のまま、押し寄せる増援の群れに向けて広域の感度操作を炸裂させた。
それはまさに、戦場に現れた地獄絵図だった。
突撃してきていた二十匹以上の雑魚ゴブリンたちが、同時にビクンと身体を硬直させたのだ。
「ヒギャッ♡ナンダコレ♡」「ダメ……タテナイ……!」
下卑た声を上げながら、ある者は武器を捨てて地面を転がり、ある者は隣の仲間に抱きついて激しく痙攣し、ある者は近くの木に勢いよく頭をぶつけて気絶していく。まさにピンク色の地獄だった。
マリナは、口をポカンと開けて呆然と呟いた。
「……何これ。気持ち悪い……」
だが、全員が倒れたわけではなかった。
「クソ……ヘイタイ……ツカエナイ……!」
兜を被った上位個体『ゴブリンナイト』が、震える手で剣を構え直し、必死に歯を食いしばって感度上昇の波に耐えていた。チーフも含め、上位個体は精神耐性が高いため、感度操作が完全に通用しないのだ。
「イマダ……メス、クウ……!」
チーフが最後の力を振り絞り、マリナ目がけて突進を開始した。
同時に、背後からはゴブリンナイトが剣を振り上げ、カイに斬りかかろうと迫る。
「シネ、ニンゲン!」
「もう……魔法が……!」
マリナは魔力が尽きかけて動けず、カイのHPはチーフとの事前の攻防によって、すでに『7』まで激減していた。前からチーフ、後ろからナイト。二方向からの挟撃。絶体絶命という言葉がこれほど似合う状況もなかった。
「なんだよ! またすぐ死ぬなら、なんで俺を生き返らせたんだよ!!」
カイが理不尽な運命と女神に向けて魂の底から毒づいた、その瞬間だった。
カイの持つパッシブスキル『幸運』が静かに、しかし決定的に発動した。
ヒュルルルル……と、空を切り裂く奇妙な音が上空から響く。
神の悪戯か、あるいはかつて冒険者が使い捨てて空高く放り投げたものか――巨大な鉄の大盾が、信じられない確率で真っ逆さまに落下してきたのだ。
グシャリッ!!
「ブッ……!?」
鉄の大盾は、背後から斬りかかろうとしていたゴブリンナイトの脳天を正確に直撃した。ナイトはそのまま前のめりに地面に倒れ込み、激しい脳震盪を起こして完全にピクリとも動かなくなった。
背後の脅威は消えた。しかし、瀕死のチーフが獰猛な笑みを浮かべ、身動きの取れないマリナの目の前まで肉薄した、その時だった――。
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