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『これなんてエロゲ? 〜エロゲ主人公の様なスキルで異世界無双する〜』  作者: うちの猫


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第1話:草原の目覚めと、絶望のスティール

風が吹き抜ける。見渡す限りの緑の海、遠くに森の輪郭がぼんやりと霞んで見えた。足元の草は柔らかく、踏みしめるたびに青い匂いが立ち上る。空は突き抜けるような青で、太陽がやけに眩しかった。


 カイは自分の体をそっと見回した。ポケットには何もない。スマホも、財布も。あるのは自分の体ひとつだけだった。


 呆然と立ち尽くしていると、ふと、頭の中に声が響いた。低く、しかし妙に心地よい響き。どこからともなく、空気そのものが振動するように声だけが届く。


『あなたの後悔、確かに受け取りました。その未練が、あなたに力を与えます。目を閉じ、ステータスと念じなさい』


 草原を渡る風の音が一瞬止まった。まるで世界が息を止めて、次の言葉を待っているかのように。あたりには人影もなく、鳥のさえずりだけがぽつりと聞こえる。どこまでも続く草の波が、陽光に照らされて銀色に揺れていた。


「は? 誰? 何? ステータス……?」


 カイが戸惑いながら問いかけるが、声はそれきり途絶えた。こちらの質問に答える気配は微塵もない。代わりに風向きが変わり、南の方角からかすかに土埃が舞い上がっているのが見えた。しばらくの沈黙。草が風にそよぐ音だけが耳に残る。


 そのとき、背後の茂みがガサリと揺れた。何かが近づいてくる足音。ひとつではない。複数の重い足が地面を叩く振動が、裸足の裏からリアルに伝わってきた。


 振り返ると、三匹の醜悪な怪物がこちらを睨みつけていた。緑色の肌に、尖った耳。身長はカイの腰ほどしかないが、手には錆びた短剣や棍棒を握りしめ、黄色い目を下卑た光でぎらつかせている。


「え? ゴブリン!? なにこれヤバくね!?」


 そのうちの一匹が耳障りな甲高い声を上げた。仲間を呼んでいるらしい。逃げるか、戦うか。しかしカイの手には武器が一切ない。あるのは己の体と、さっきの謎の声に従えば手に入るはずの「力」だけだった。


「さっきの女の人、なんて言ったっけ……ステータスと念じろ、だっけか!」


 カイが心の中で強く叫んだその瞬間、目の前に半透明のステータス画面がふわりと展開した。


【名前】カイ

【Lv】1

【HP】20/20

【MP】15/15

【スキル】

・性欲と性の感度をコントロール

・アイテムボックス

・スティール(相手の持ち物をランダムに一つ奪う)

・隠密

・威圧

・鑑定

・魔物言語

【パッシブスキル】

深層愛聴テレパシー・ハーツ

・幸運


 驚いている暇はなかった。ゴブリンたちは待ってくれない。

「ギャギャッ!」と黄ばんだ歯を剥き出しにした先頭の一匹が、錆びたナイフを振りかざして突っ込んできた。残りの二匹もカイを逃がさないよう、左右に回り込もうとしている。囲まれたら終わりだ。レベル1のHP20じゃ一撃食らうだけでも致命傷になりかねない。


 パニックになりかけるカイの耳に、今度は北の街道のほうから激しい音が届いた。馬車の車輪が軋む音と、切迫した少女の叫び声だ。


「誰かーーっ! 助けてーー!」


 街道沿いに目を向けると、荷馬車が横転しており、金髪ツインテールの少女がゴブリンの群れに追い回されていた。少なくとも五、六匹はいる。こちらの三匹と合わせれば、この草原には相当な数のゴブリンがうろついていることになる。


「なんだよこの展開!? 俺、死んだんじゃねーのかよ!」


 カイが頭を抱えたその時、パッシブスキルの『深層愛聴テレパシー・ハーツ』が自動的に発動した。周囲の怪物の思考と、少女の悲鳴のような本音が、濁流のようにカイの脳内に流れ込んでくる。


『ニンゲン、クウ! ウマイニク!』


 ナイフを振り下ろそうとする眼前のゴブリンの、おぞましい食欲。


(やだやだやだ! 僕の商品!! 荷物全部積んでたのに、ここで死んでたまるかぁぁ!)


 必死に走りながら涙目になっている金髪ツインテール少女の、切実すぎる商人魂。


「……って、おーーい! 目の前のゴブリンどうにかしねえと俺が死ぬ!」


 カイは目の前に迫る錆びた刃から視線を逸らさず、必死にステータス画面を睨みつけた。


「ええい、何かないか! 使えそうなもの……『スティール』! 相手の持ち物をランダムに奪う!? これだっ!!」


 カイは迫りくる先頭のゴブリンに向けて、藁にもすがる思いで手を伸ばし、スキルを発動させた。刹那、ゴブリンの手元が淡く光る。その大きな手から武器が消え、代わりに奪い取ったアイテムがカイの掌に転がり込んできた。


「よっしゃ! 武器を奪っ……て、なんだこれ!?」


 手の中にあったのは、ゴブリンの臭い干し肉だった。どす黒く変色し、放つ悪臭だけで吐き気がしそうな代物だ。もちろん食えたものではないし、棍棒の代わりの武器にすらなりゃしない。


「ギャ? ……チーフ、メシドコ?」


 武器ではなく、大事な食料を奪われたゴブリンが、突如としてすっからかんになった自分の手を見つめて、間抜けな声を上げた。


「意味ねーじゃねえか!!」


 干し肉を投げ捨てながら、カイは絶叫した。ゴブリンのナイフは、すぐそこまで迫っていた。

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